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第七章 ロンシャン撤退戦ー前編ー

二五七話 物量戦

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 ウルベルトの放った一〇発の炎の矢と一〇発の光弾は、直線的な軌道を残し俺へと襲いかかってくる。
 
「なんの! これしき!」

 たかが二〇発程度の連射に遅れを取る俺ではなく、不覚にも初手の光弾を食らってしまったのは本当に反応が遅れただけなのだ。
 盾で炎の矢を防ぎ、硬質化させた拳で光弾を殴り飛ばしながら、一つのイメージを着々と固め始めた。
 ウルベルトは無詠唱で多連装の魔法を放ち続ける、ならば、それを上回る速度で同じような魔法をぶつけてやればいいのでは無いだろうか。
 そもそも人間一人の命を奪うのに、中級魔法だの上級魔法だのは必要無く、初級魔法の【ストーンエッジ】やウルベルトが放っているファイヤーアローの一本でも頭に当たればそれで事足りる。
 中級魔法だの上級魔法だのは強大なモンスターを相手取る時や、戦時中など大量の標的を相手にする時に使うものだ。
 
「避けているだけでは何にもならんぞ! しかし流石はハイエルフ! 吾輩の猛攻を全て防ぎきるとはな! だが吾輩とて負けぬ!」

「だからハイエルフじゃないって……もういいや」

 冷静さを取り戻したウルベルトは確かに強く、魔法を連発しながらも俺の動向をきちんと目で追っている。
 魔法のコントロールも見事であり、足元を狙ったり死角を狙ったりと実にいやらしい。

「ではお言葉に甘えて反撃させて頂きますね! ファイヤーアロー!」

「無駄だ無駄だ!」

 まずは様子見で単発のファイヤーアローを放つが、やはりこれはあっさりと相殺される。
 なら。

「トゥース・エクスパンション:ドゥ、トロワ、キャトル、サンク、シス! 【ファイヤーアロー】!」

「なっ!」

 単発のファイヤーアローを撃ち、そのすぐ後に二式から六式までを順々に展開させていく。
 魔法が発動する毎に矢の数が増していく様は、中々に気持ちいい。
 一〇発防げば次弾で二〇発、その次は三〇、四〇、五〇、六〇発と総数二一〇発の炎の矢がウルベルトへ射出される事となる。
 数だけ考えればちょっとエグいが、正直ウルベルトが何処まで耐えられるのかを見たかったというのもある。
 顔を白塗りし、目元を赤く塗ったふざけた格好をしているが、実力は本物だ。
 現にウルベルトは炎の矢を放つのをやめて、光弾に全ての力を注ぎ込んでいるらしく現状四式まで、一〇〇発の炎の矢を防いでいる所だ。

「ぬおおおおあ! 吾輩を舐めるなあああ!」

「おいおい……マジか……」
 
 雄叫びと共に光弾の量を倍増させたウルベルトは、光弾を炎の矢の横にぶつけ始めた。
 側面にぶつかった光弾は散ること無く、連続して他の炎の矢を打ち消していってしまい、結局二一〇発全ての炎の矢を撃ち落としてしまった。

「ふぅー……ふぅー……」

「あれを防ぎきるとは……凄いですね」

「伊達や酔狂で……ロンシャン連邦国軍中将を、任されている訳、では……無いぞ……!」

 俺はさらに七式のファイヤーアローを発動しようとしたのだが、ウルベルトの様子がおかしい。
 全身をガクガクと震わせ、顔面は蒼白、剣を地面に突き刺し、それを支えに立っているのがやっとのように見える。
 あれは魔力欠乏症の一歩手前の症状だ。

「貴方の負けです」

「その……ようだ。貴様の魔力は無限なのか……? まだ余力があるように見えるぞ」

「無限では無いと思うのですが、少し人より回復が早いくらいですよ」

「ふん……吾輩をここまで追い詰めるとはさすがハイエルフ……名を聞いておこう」

「はぁ……しつこいですね。わかりました、私はフィガロ、フィガロ・シルバームーン」

「フィガロ、か。その名、忘れないでおこう」

「言い残すことはありますか」

 肩で息をするウルベルトに剣を向けながらゆっくりと近付いていく。

「フィガロ、お前にも正義があるように……私にも譲れない正義があるのだ!」

 ウルベルトは突然声を荒らげ、目を大きく開いた。
 その途端、上空から強い風が吹き、何かが下降してくるのを感じた。
 今は深夜だというのに周囲は松明や、燃え盛るロンシャン城により黄昏時のような明るさになっている。
 加えて俺とウルベルトの魔法の攻防戦により、火の手が上がってさらに光量が増しており、周囲の様子は手に取るように分かる。
 そしてその光に照らされて見えたものは、巨大な何かがウルベルトを鷲掴みにしている瞬間だった。

「吾輩がここで死ぬワケにはいかないのだよ! また会おうフィガロ! はーっはっはっはぁ!」

「はぁー!? なんだよそれ! くそ、逃がすか!」

 予想の斜め上を行くをいく逃亡の仕方に度肝を抜かれたが、飛翔する巨大な何かに向けて魔力弾を連続で飛ばしていく。
 しかし巨大な何かは後ろに目がついているかのように、今日に魔力弾を躱し、闇が広がる空へと飛び去ってしまった。

「嘘じゃん……あんなデカいの見た事ないぞ……」

 我ながら間抜けな面をしつつウルベルトの消えた空を眺める。
 ウルベルトを鷲掴みにした猛禽類のような足、大きな羽毛に包まれた巨大な羽、一瞬だけ目が合った瞳は金色に染まっていた。
 唐突に上空から現われ、トドメを指す直前のウルベルトを連れ去った正体は、全長七メートルを超えると見られる、重装甲を身につけた巨大なフクロウだった。
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