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008 神殿
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ネタスキルはゲームのお約束だ。
誰もが残念扱いする、存在価値がよく分からないスキル。
この世界にも、そんなネタスキルは存在していた。
魔法使いの場合、代表的なのは〈燃えない炎〉だ。
小さな炎を任意の場所に生み出す、という一見すると使えそうなもの。
しかし、この炎には特徴があって、一切、燃え広がらないのだ。
着火剤の上に発動しようが、炎が大きくなることはない。
ゲームだった頃も、そして、現代でも大半が忘れているネタスキル。
これを使い、ネネイに意地悪を働いた愚か者に成敗を下す。
「おっさん、保護者ならしっかりしろよなぁ」
男の一人がニチャァと笑った瞬間、俺は〈燃えない炎〉を発動した。
親指の第一関節と同程度の小さな炎が、野郎の頭頂部に誕生する。
炎は髪の毛の中に埋もれて、傍からは全く見えない。
「アヂィ! あた、頭ガァ!」
「おい、どうした?」
「なにがあったんだ!?」
熱がる馬鹿と、驚く仲間達。
安心しろ、今からお前達にも同じ思いをさせてやる。
「「「アヂィイイイイイイ!」」」
目の前で、馬鹿の3人組が熱がっている。
両手でしきりに頭を払いながら、その場でグルグル回る。
「おとーさん、あのおにーちゃん達、どうしたの?」
起き上がったネネイが、熱がる馬鹿共を見て首を傾げる。
「踊りたい気分なんだろう」
「楽しそうなの! ネネイも踊るのー♪」
ネネイは表情をニパッとさせて、馬鹿共の隣で踊り出した。
馬鹿共の真似をして頭を押さえ、クルクル回りながら飛び跳ねる。
馬鹿の一人に足を引っかけられたことなど、もう忘れているようだ。
裏表のない優しい子だなぁ、ネネイは。
「なんか踊っている奴等がいるぞ」
「頭を押さえているが、アレは何の踊りだ?」
「さぁ、どこぞの片田舎では伝統なんじゃね?」
「可愛らしい女の子も踊ってるし、いい感じじゃねーか」
周囲の冒険者がにこやかな表情で眺める。
「アヂィよぉ! たずげてぐれぇ!」
馬鹿共だけは涙を流していた。
「さっ、踊りもその辺にして、行こうぜ」
「もっともっと踊りたいの!」
「あとでたくさん踊らせてやるさ」
「わーい! やったぁー!」
ネネイと手を繋ぎ、ギルドから出て行く。
〈燃えない炎〉を俺の意思で消すことはない。
射程外まで行けば、どうせ勝手に消えるのだから。
それまでは、地獄の熱さに苦しむといい。
そして、その後は、頭頂部だけが禿げた人生を送るのだ。
◇
ネネイのクラスを設定する為、神殿にやってきた。
ここにある石版に手を当てて、任意のクラスを念じると設定完了だ。
「ネネイ、本当にアサシンでいいのか?」
石版の前でネネイに確認する。
「あとで転職することは可能だが、転職すると覚えたスキルを全て失うぞ?」
クラスを設定したからといって、すぐにスキルをマスターするわけではない。
本来、スキルを覚えるには、スキルポイントを使う必要があるのだ。
スキルポイントは、戦闘をすることで貯まっていく。
「だいじょーぶなの! ネネイ、立派なアサシンになるの!
たくさんたくさん頑張って、おとーさんをニッコリさせるの!」
その言葉にニッコリしてしまう。
「ならばもう止めないさ」
ネネイが石版に手を当てると、石版から青い光が放たれた。
この光はクラスの設定を行っている最中であることを示している。
光が消えるまでの間、ネネイはその場で石像みたいに固まったままだ。
往々にして、この作業は10分くらいで完了する。
近くの柱にもたれかかるように座って、終わるのを待つ。
この場所に来るのはすごく久しぶりのことで、感慨深い気持ちになる。
前に来た時は、自分の才能を信じていて、希望に満ちた目をしていた。
あの時に目指し、長らく挫折していた目標を、今度こそ達成してやる。
「あれ? そこに居るのはゼクスではありませんか?」
ぼんやりしていると、1人の少女が近づいてきた。
尖った耳と整った顔立ちが特徴的な種族――エルフだ。
「やはりゼクスですね」
「エリゼじゃないか」
そのエルフは古い知り合いのエリゼだった。
艶やかな銀色の髪は、昔とまるで変わっていない。
見た目こそ少女だが、エリゼは俺よりも年上だ。
エルフの寿命及び成長速度は、人間よりも遙かに遅い。
「「どうしてこんなところに?」」
俺とエリゼの声が被る。
そして、2人してクスクスと笑った。
「俺はそこで職に就こうとしている幼女の保護者だからさ」
視線をチラリとネネイに向ける。
それを目で追って、エリゼの視線もネネイに当たった。
「ゼクスの子供? 私という者がいながら、別の女と?」
「違う違う。ていうか、俺達はそういう関係じゃないだろ」
「私はそういう関係のつもりでいましたよ」
「やれやれ。あの子は養子だ。色々あってね」
エリゼには、旧友の連れ子という嘘は通じない。
なぜなら彼女は、かつて俺とパーティーを組んでいた仲だからだ。
冒険者は基本的にソロでは戦わない。
誰かしらと徒党を組んで活動するものだ。
それは俺も例外ではなかった。
まだ希望に満ちていた頃、俺にも仲間がいた。
共に切磋琢磨して、更なる高みを目指す同志達がいたものだ。
エリゼはその内の1人だった。
「エリゼこそどうしてここに?
それに、他のメンバーが見当たらないが」
「私は――」
エリゼが口を開いたその時だった。
「アサシンネネイの誕生なのー♪」
ネネイのクラス設定が終了した。
石版の青い光が消えて、ネネイが動き出す。
「あれれ? おとーさん?」
きょろきょろと俺を探す。
「ここだよ、ネネイ」
「居たなのー! おとーさん!」
ネネイが駆け寄ってくる。
そして――。
「はわわっ」
何もないところで躓いて転んだ。
「おいおい、何しているんだ。気をつけろよ」
「えへへぇ、ごめんなさいなの」
ネネイに駆け寄り、起こしてやる。
「すまんな、エリゼ。話の続きはまた今度で」
「分かりました。ゼクス、お元気で」
「おねーちゃん、ばいばいなのー♪」
これにて、ネネイの冒険者登録とクラス設定は完了だ。
今日は遅いし、冒険者として活動するのは明日からにしよう。
ネネイと手を繋ぎ、神殿を後にした。
誰もが残念扱いする、存在価値がよく分からないスキル。
この世界にも、そんなネタスキルは存在していた。
魔法使いの場合、代表的なのは〈燃えない炎〉だ。
小さな炎を任意の場所に生み出す、という一見すると使えそうなもの。
しかし、この炎には特徴があって、一切、燃え広がらないのだ。
着火剤の上に発動しようが、炎が大きくなることはない。
ゲームだった頃も、そして、現代でも大半が忘れているネタスキル。
これを使い、ネネイに意地悪を働いた愚か者に成敗を下す。
「おっさん、保護者ならしっかりしろよなぁ」
男の一人がニチャァと笑った瞬間、俺は〈燃えない炎〉を発動した。
親指の第一関節と同程度の小さな炎が、野郎の頭頂部に誕生する。
炎は髪の毛の中に埋もれて、傍からは全く見えない。
「アヂィ! あた、頭ガァ!」
「おい、どうした?」
「なにがあったんだ!?」
熱がる馬鹿と、驚く仲間達。
安心しろ、今からお前達にも同じ思いをさせてやる。
「「「アヂィイイイイイイ!」」」
目の前で、馬鹿の3人組が熱がっている。
両手でしきりに頭を払いながら、その場でグルグル回る。
「おとーさん、あのおにーちゃん達、どうしたの?」
起き上がったネネイが、熱がる馬鹿共を見て首を傾げる。
「踊りたい気分なんだろう」
「楽しそうなの! ネネイも踊るのー♪」
ネネイは表情をニパッとさせて、馬鹿共の隣で踊り出した。
馬鹿共の真似をして頭を押さえ、クルクル回りながら飛び跳ねる。
馬鹿の一人に足を引っかけられたことなど、もう忘れているようだ。
裏表のない優しい子だなぁ、ネネイは。
「なんか踊っている奴等がいるぞ」
「頭を押さえているが、アレは何の踊りだ?」
「さぁ、どこぞの片田舎では伝統なんじゃね?」
「可愛らしい女の子も踊ってるし、いい感じじゃねーか」
周囲の冒険者がにこやかな表情で眺める。
「アヂィよぉ! たずげてぐれぇ!」
馬鹿共だけは涙を流していた。
「さっ、踊りもその辺にして、行こうぜ」
「もっともっと踊りたいの!」
「あとでたくさん踊らせてやるさ」
「わーい! やったぁー!」
ネネイと手を繋ぎ、ギルドから出て行く。
〈燃えない炎〉を俺の意思で消すことはない。
射程外まで行けば、どうせ勝手に消えるのだから。
それまでは、地獄の熱さに苦しむといい。
そして、その後は、頭頂部だけが禿げた人生を送るのだ。
◇
ネネイのクラスを設定する為、神殿にやってきた。
ここにある石版に手を当てて、任意のクラスを念じると設定完了だ。
「ネネイ、本当にアサシンでいいのか?」
石版の前でネネイに確認する。
「あとで転職することは可能だが、転職すると覚えたスキルを全て失うぞ?」
クラスを設定したからといって、すぐにスキルをマスターするわけではない。
本来、スキルを覚えるには、スキルポイントを使う必要があるのだ。
スキルポイントは、戦闘をすることで貯まっていく。
「だいじょーぶなの! ネネイ、立派なアサシンになるの!
たくさんたくさん頑張って、おとーさんをニッコリさせるの!」
その言葉にニッコリしてしまう。
「ならばもう止めないさ」
ネネイが石版に手を当てると、石版から青い光が放たれた。
この光はクラスの設定を行っている最中であることを示している。
光が消えるまでの間、ネネイはその場で石像みたいに固まったままだ。
往々にして、この作業は10分くらいで完了する。
近くの柱にもたれかかるように座って、終わるのを待つ。
この場所に来るのはすごく久しぶりのことで、感慨深い気持ちになる。
前に来た時は、自分の才能を信じていて、希望に満ちた目をしていた。
あの時に目指し、長らく挫折していた目標を、今度こそ達成してやる。
「あれ? そこに居るのはゼクスではありませんか?」
ぼんやりしていると、1人の少女が近づいてきた。
尖った耳と整った顔立ちが特徴的な種族――エルフだ。
「やはりゼクスですね」
「エリゼじゃないか」
そのエルフは古い知り合いのエリゼだった。
艶やかな銀色の髪は、昔とまるで変わっていない。
見た目こそ少女だが、エリゼは俺よりも年上だ。
エルフの寿命及び成長速度は、人間よりも遙かに遅い。
「「どうしてこんなところに?」」
俺とエリゼの声が被る。
そして、2人してクスクスと笑った。
「俺はそこで職に就こうとしている幼女の保護者だからさ」
視線をチラリとネネイに向ける。
それを目で追って、エリゼの視線もネネイに当たった。
「ゼクスの子供? 私という者がいながら、別の女と?」
「違う違う。ていうか、俺達はそういう関係じゃないだろ」
「私はそういう関係のつもりでいましたよ」
「やれやれ。あの子は養子だ。色々あってね」
エリゼには、旧友の連れ子という嘘は通じない。
なぜなら彼女は、かつて俺とパーティーを組んでいた仲だからだ。
冒険者は基本的にソロでは戦わない。
誰かしらと徒党を組んで活動するものだ。
それは俺も例外ではなかった。
まだ希望に満ちていた頃、俺にも仲間がいた。
共に切磋琢磨して、更なる高みを目指す同志達がいたものだ。
エリゼはその内の1人だった。
「エリゼこそどうしてここに?
それに、他のメンバーが見当たらないが」
「私は――」
エリゼが口を開いたその時だった。
「アサシンネネイの誕生なのー♪」
ネネイのクラス設定が終了した。
石版の青い光が消えて、ネネイが動き出す。
「あれれ? おとーさん?」
きょろきょろと俺を探す。
「ここだよ、ネネイ」
「居たなのー! おとーさん!」
ネネイが駆け寄ってくる。
そして――。
「はわわっ」
何もないところで躓いて転んだ。
「おいおい、何しているんだ。気をつけろよ」
「えへへぇ、ごめんなさいなの」
ネネイに駆け寄り、起こしてやる。
「すまんな、エリゼ。話の続きはまた今度で」
「分かりました。ゼクス、お元気で」
「おねーちゃん、ばいばいなのー♪」
これにて、ネネイの冒険者登録とクラス設定は完了だ。
今日は遅いし、冒険者として活動するのは明日からにしよう。
ネネイと手を繋ぎ、神殿を後にした。
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