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012 ミスリルの塊

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 戦闘が終了し、落ち着くと、三馬鹿が謝ってきた。
 横一列に並んで、俺達に向かって土下座する。

「おっさんが滅茶苦茶強いとは知らず」
「調子をこいてしまい」
「誠にすいませんでしたーっ!」

 三馬鹿はすっかり反省している。
 そうなってくると、今度はこちらが申し訳なく思う。
 なにせ、俺達に向けられている彼らの頭のてっぺんは……ハゲている。
 しかも、目立たない程度のハゲではない。十分に目立つ。
 ハゲは回復スキルでは治らないし、なんだか可哀想だ。

「ま、まぁ、今後はもう少し相手を選ぶようにしろよ」
「はい! もっと弱そうな奴を見つけて絡むようにします!」
「いや、そうじゃなくてだな」

 苦笑いを浮かべる。
 流石は馬鹿だ。根本は変わっていない。

「まず、人間には絡むな。
 弱そうな奴に目を付けて絡むなんざ、雑魚のすることだぞ。
 それに、俺の言う“相手を選ぶ”ってのは、モンスターのことだ。
 お前達の実力だと、このダンジョンは厳しいだろ」

 ここまで説明すると、三馬鹿でも理解することが出来た。

「わ、分かりました!」
「今後は人に恥じない生き方をします!」
「おっさん、いや、師匠と呼ばせてください!」
「悪いがこれ以上の弟子は取っていなくてね」

 ネネイの頭を手でポンポンと撫でる。

「ネネイはおとーさんのお弟子さんなの?」
「そうさ。違ったかな?」
「違わないのー! ネネイはお弟子さんなのー♪」

 弟子認定を受けて喜ぶネネイ。
 バンザイして、スライムみたいにピョンピョンと跳ねる。

「あ、あの、よかったら名前を教えてください!」
「別にいいけど……ゼクスだ」
「ゼクスさん! 名前までカッケェ!」

 名前は普通だ。別に格好良くはない。
 この三馬鹿、もはや俺が何をしても褒めてくれそうだ。

「とにかく、お前達はブルネンに戻れ。
 俺達は洞窟に入って宝箱を頂く。
 異論はないな?
「「「ありません!」」」

 三馬鹿は立ち上がり、深々と頭を下げる。
 そして、全速力で森の外へ向かって走り出した。

「おとーさん、すごかったの!
 大きな石がドーンってなったの! ドーンって!」

 三馬鹿が消えると、ネネイが抱きついてきた。
 俺の腹に顎を食い込ませて、キラキラの目を向けてくる。

「あの大技を使えたのは、ネネイが守ってくれていたおかげだよ」
「ネネイが? おとーさんを守ったなの?」
「そうさ。〈魔物探知〉で周辺を警戒してくれただろ?」
「したの! ネネイ、たくさんたくさん、スキルを使ったの!」
「そのおかげで、俺は落ち着いて戦うことが出来たのさ」

 ありがとな、と改めてネネイの頭を撫でる。

「うへへぇ♪ ネネイ、おとーさんの役に立ったのぉ」

 撫でられて嬉しそうだ。
 露骨に嬉しそうだから、尚更に撫でてしまう。
 すると、ネネイはますます頬をにんまりさせてしまった。
 負け時と倍プッシュで撫でたくなるけれど、この辺にしておこう。
 これ以上はキリがない。

「なんにせよ、戦闘はこれでおしまいだ。
 さっさと洞窟の宝箱を回収して帰ろう」

 既に日が暮れ始めている。
 ここでモタモタするのはよろしくない。
 俺達は早足で洞窟へ侵入するのだった。

 ◇

 洞窟の中に敵は居ない。
 分かってはいるが、念の為に警戒する。
 レベル5に強化したネネイの〈魔物探知〉を使う。

「大丈夫なの!」

 安全を確認してから最奥部まで進んだ。
 洞窟は小さいので、数分で最奥部まで到着する。
 そこには、クエスト対象の宝箱が置いてあった。

「おとーさん、ネネイが開けてもいいなの?」

 宝箱を前にうずうずするネネイ。
 俺が頷くと、彼女は歓喜の声を上げた。

「開けるのー♪」

 宝箱に両手をかざし、目を瞑るネネイ。
 彼女が「開け」と念じると、宝箱が勝手に開いた。
 完全に開くと、箱が消えて、中身が現れる。

「ミスリルの塊か、なかなかの当たりだな」

 出てきたのは美しい輝きを放つ石の球体だった。
 この石はミスリルという鉱石で、様々な素材として利用出来る。
 軽い上に頑丈で、それでいて見た目が美しく、用途の幅が広い。
 人気のある高級素材だ。

「はい、おとーさん!」
「おう、ありがとな」

 ネネイから受け取ったミスリルの塊を収納する。

「これをギルドに収めるのはもったいない気になるな」

 そうは言っても、クエスト対象だから横領することは出来ない。
 そんなことをしても、あっさりと看破されて処罰されるだけだ。
 礼儀正しく、ギルドから支払われる報酬で満足しておこう。

 ◇

 ブルネンに戻ってきた。
 当初の予定では夕方には戻れる予定だったが、
 実際のところ、到着したのは夜遅くのことだった。
 出発からして遅かったので、野宿を避けられただけよしとしよう。

「流石にこの時間は人が多いな……」
「わいわいと楽しそうなの!」

 酒場でメシを食おうとするも、なかなか店が決まらない。
 どこの酒場も大繁盛で、カウンター席が空いていなかったのだ。
 カウンターの隅に座るのが好きだというのに。

「テーブル席にするか」
「ネネイはどこでもいいの!」

 仕方がないので妥協した。
 適当な酒場に入り、テーブル席に座る。
 ネネイは向かいに座らせた。

「たくさん稼いだからな、好きなだけ食っていいぞ」
「わーい! たくさん食べて、たくさん幸せになるの!」

 クエストの報酬は大都市ほど良い傾向がある。
 ゲームだった頃も、クエストの報酬は都市ごとにバラツキがあった。
 しかし、この世界ほどの差ではない。
 それほどまでに、この世界では都市間で報酬の差がある。

 今回の報酬にしたって、前の町では考えられない額だった。
 俺がよく狩っていたミラーフォックスよりも高額だったのだ。
 あのキツネはC級で、今日のダンジョンはE級だというのに。
 おかげで、E級のクエスト報酬でも十分な贅沢が可能だ。

「美味しいのー! アレも、コレも、全部美味しいのー♪」
「本当によく食うな……。皆がネネイのことを見ているぜ」
「えへへぇ♪ ネネイは食いしん坊さんなのー♪」
「やれやれ、稼ぎを全部もっていかれちまうな、こりゃ」

 報酬の量に負けないくらい、ネネイの食いっぷりが良い。
 俺の都合で活動拠点を移したが、ネネイの食費を思えば正解だ。
 彼女の食欲を考慮したら、大都市でなければ厳しいものがある。

「ネネイ、今日はどうだった? 冒険者として活動したわけだが」

 頬をパンパンに膨らませて食事中のネネイに尋ねる。
 ネネイは手を止めて、口の中の物をゴクリと飲み込んだ。
 それからミルクを飲み、「ぷはぁ」と一息ついてから答える。

「楽しかったの! すごくすごく楽しかったの!
 おとーさんはカッコよかったし、ネネイも頑張ったの!」

 大満足のようだ。
 やはりこの子には冒険者の資質がある。
 どこまで強くなれるかは分からないが、意欲は十分だ。

「なら明日も頑張るか」
「はいなのー!」

 元気の良い言葉が返ってくる。
 しかし、その直後に――。

「おとーさん、あのね、あのね」

 ネネイの表情を曇らせながら言った。
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