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4章 異世界葛藤編

第46話 迷惑

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 路地裏を抜けてようとしたところで、前方からカシャカシャという金属が擦れる音が聞こえてくる。

 視線を向けると、鎧を着た、衛兵らしき二人組がこちらに走ってくるのが見えた。

「おい、大丈夫か! お怪我は…辛そうだな。すぐに治療者ヒーラーを呼ぶからしばらくの辛抱だぞ」

「おーい。被害者は無事だ。すぐに治療者ヒーラーを呼んでくれ」

 衛兵は俺の様子を見るなり、すぐに状況を把握してくれた。
 どうやら二人以外にも、衛兵は来てくれていたようだ。

「奥に、大男が倒れているので…」

「あんたを連れ込んだ奴だな。すぐに別の者を向かわせよう」

 どうやら俺が路地裏に連れて行かれたのを目撃した人が、衛兵に通報してくれていたようだ。
 通報してくれた人には感謝しかない。

 また、お布団を背負ったままだったので、すぐに俺が連れて行かれた人物と分かったようだ。

 安心したところで、不意にズキズキと腕が強く痛みだした。
 どうやら極度の興奮状態で痛みをあまり感じていなかったようで、気が抜けると共に足からは力が抜けて、その場に座り込んでしまう。

「おいっ、君っ」

「大丈夫です…安心したら、力が抜けちゃって…」

 隣にいた衛兵が、心配そうに俺の肩を掴む。

「ふぅ…そうか。もう大丈夫だから、治療者が来るまでゆっくりしていてくれ。治り次第、事のあらましを聞かせてくれ」

「はい、分かりました」

 しばらくすると、遠くの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「…ちゃーん、レイちゃーん…!」

 ルリアが髪がくしゃくしゃになるのも気にする事なく、こちらに走ってくるのが見える。
 隣には衛兵らしき人も並走している。

 ルリアが大声で俺の名前を呼んでいるせいか、周りにいる住人たちの多くがこちらを見てくる。
 …余計な注目を浴びてしまうので、大声で呼ぶのは止めてもらいたい。

「近くにいた回復魔法スキル所持者を連れて参りました!」

ルリアと並走してきた衛兵が、俺の隣にいる衛兵に敬礼をしながら報告する。
それを尻目に、ルリアは俺へと駆け寄る。

「レイちゃん、大丈夫? 今、ヒールしてあげるからね!」

 そう言うとルリアは、その場に膝をつくと、両の手のひらを俺の腕に向けて、目をつむる。

 すると、両腕が暖かな薄緑色の光に包まれ、少しずつではあるが痛みと腫れが引いていくのを感じる。

 それから一分程だろうか、回復を続けてもらっていると、完全にとまではいかないものの、ほとんど気にならないくらいにまで痛みが引き、傷口も塞がっていた。

 光が消え、ルリアが両腕をだらんと下ろす。

「っ…はぁ…はぁ…」

「…大丈夫か?」

 息を切らし、額には汗をかいているのを見て、思わず声をかける。

「大丈夫。まだ低レベルだったから、魔力の使い過ぎでちょっと疲れちゃっただけ。それより、レイちゃん。腕は、どう?」

「あぁ、痛みはほとんど消えたよ、ありがとうな」

 そういうと、ルリアはいつものように『にひにひ』と笑みをこぼした。





 しばらくルリアと共に道端で休んでいると、衛兵たちに担がれた大男が連れて行かえるのが見えた。

 後で衛兵の一人が教えてくれたが、前にも酒場で暴れた事があり、前科持ちであった為、今回は勾留されることになったそうだ。

 取り巻きのチンピラも別の通りで衛兵に確保されたらしい。

 なんとも優秀な衛兵だと関心しつつも、今回改めて思い返せば、本当に危険な状況に陥っていたと感じる。

 異世界にきて、冒険を始めるまでは少なくとも安全だと思っていたが、まさか街の中で危険に見舞われるとは思ってもいなかった。

 どうやら、危機意識が足りていなかったようだ。

 俺はあくまでも、まだまだ未知の世界にいて、スキルという強大な力を持った者たちがうようよいる世界であることを、改めて自覚し直した。

 そうやって、自己反省会をしていると、黙ってしかめ面をしていた俺を心配してか、ルリアが顔を覗き込むようにして声をかけてくる。

「どうしたの? まだ、痛む?」

「ん? あぁ、いや。痛みは大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだ」

「考え事? どんな?」

「んー…、意識が甘かったなとか、もっと自分一人でなんとか出来るようにしないとな、とか。色々かな。」

 数ヶ月訓練を受けていたとしても、たまたま奇跡的に撃退できたが、正直まぐれに近い結果である。

 お布団というチートアイテムがあるにも関わらず、この体たらくというのは、なんとも情けなくも感じていた。

 俺が乾いた笑いをこぼしていると、ルリアが急に、俺の両頬をムニッと両手で挟み込んできた。

「ぉい…なにぉ…」

「今回みたいなこと、ボクだって一人じゃどうにも出来ないよ。それに、一人でどうにか出来なくたっていいじゃん」

「でも…」

「でもじゃない。 みんな、一人じゃ出来ないことだらけだから、それぞれ助け合って生きてるんだよ。衛兵の人だって、一人一人が出来る事なんて限られてるんだから。冒険者だってそうだよ?」

 ルリアが頬から手を離す。

「でも、一人でなんとか出来た方が周りに迷惑かけないだろう? だったらその方がいいじゃないか。」

「…レイちゃんって、いっつもそう。人に迷惑をかけないようにーとか、借りは作らないようにしなきゃとか。訓練だって、他の冒険者と自分から交流しにいかないし」

「その方が良いからだよ。交流だって、こんな戦闘素人が絡みにいったって仕方がないだろう? 迷惑じゃないか。」

「違うよ…。そんなの、良い事じゃない。…良い事じゃ、ないよ…」

 ルリアは俯いて、それ以上は何も言っては来なかった。

 それから、衛兵に事情を聞かれて開放されるまでの間、互いに一言も喋る事なく、ルリアはギルドの仕事へと戻ってしまった。

 ルリアが結局何を言いたかったのか…、今の俺には理解してあげる事が出来なかった。
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