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5章 冒険者初級編

第70話 戦闘開始

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 『キラーラビット』は「キュウキュウ」という鳴き声を上げながら、角をこちらへ向けて真っ直ぐ飛びかかってきた。
 俺は空中にいる一体に向けてナイフを構える。

 正面から投げつけても角に弾かれると思い、一度上にむかって投げてから魔力操作で方向転換して背中側から突き刺した。

 死角から攻撃を受けた『キラーラビット』は、「キャウ」と悲鳴を上げて血を吹き出しながらそのまま地面へと落下する。

 生き物を殺傷するという行為になれていない為か、その光景に思わず目をそらしてしまうが、もう一体の『キラーラビット』に視線をやると、スーの餌食になっていた。

 スーは素早く『キラーラビット』の横腹へと回り込むと、一度踏み込んでから正拳突きを食らわせた。
 『キラーラビット』はそのまま勢いよく木の幹へと叩きつけられ、血と肉片を残しながらずり落ちていく。

 ……グロテスクだなぁと思いつつも、こういった光景にも慣れていかなければならないとも感じる。
 いちいち動揺していては仲間に迷惑がかかってしまうし、危険に晒される可能性だってある。

 ふと考え込みそうになるが、まだ戦闘は終わっていないと意識を戻す。
 キリーカとフレイシー組の様子を見ると、こちら同様に戦いは終わっていた。
 二人の近くには、矢に貫かれているものと、両断されているものが転がっている。
 どうやら、無事に戦闘が終了したようだ。

「ふー、おつかれさまー」

 スーが足についた砂埃を払いながら皆に声をかける。

「お疲れ様です、緊張……しました」
「俺様の美しい斧さばきを見たかね」
「はい、すごかったです……」
「ハッハッハッハ、ビューティフォー!」

 キリーカが弓矢を胸元に抱えながら、小さく拍手をしている前でフレイシーが二の腕を強調するようなポーズを取っている。
 微笑ましいような、そうでないような……なんとも不思議な光景である。

「スーちゃんの動き、すっごい早かったねー。一瞬で真横に移動してたもん」

 ルリアがとことこと寄ってきてスーに声をかける。
 俺はキラーラビットに刺さったナイフを抜いて、血を払い拭き取る。

 ナイフを腰元にしまうと、ルリアが今度はこちらに近づいてきた。

「レイちゃんもお疲れさまー。ナイフの軌道変更はいつ見てもすごいねー」
「もっと沢山のナイフを投げられるようになれば良いんだけどな」
「一本でも充分凄いと思うけどなぁ……」
「まぁ全員怪我がないようで良かったよ」
「そうだね、ボクの出番は少ないに越した事はないからね」

「レイくーん、キラーラビットの角、採集してもらってもいい?」

 声の方に視線を向けると、スーとフレイシーが『キラーラビット』の亡骸を一箇所に集めていた。

 ナイフを持っているからか御指名が入る。
 大きなモンスターを除いてこういった作業は今後自分の担当になりそうだ。

 しかし先程は遠隔であったので深くは感じなかったが、こうやって直接生き物を捌くというか、刃を入れるというのは少し気が引けてしまう。
 呼吸の感覚が少しだけ短くなるのを感じる。

 落ち着く為に一度深呼吸をしてから、俺は角の生え際にナイフをあてがって一気に切り落とした。





 四ツ目にもなると最初の一本よりかは削ぎ落とすのも慣れてきて、切り口が綺麗なのが分かる。
 ただ、生き物だったものを部分的とはいえ解体するという行為には、もう少し慣れと時間が必要そうだ。
 頭から取り外した角を、回収用の皮袋へと詰めていく。

「お疲れ様。慣れない作業だっただろうけど、大丈夫?」
「最初はちょっとキツかったけど、今はだいぶマシかな」
「無理はしないでね。みんなまだ初心者だし、困った時は助け合えばいいんだから、無理そうならフレイシー君とかに代わってもらってもいいんだし」
「お、俺様の出番か?」

 斧についた返り血を拭き取っていたフレイシーがこちらを見る。

「大丈夫だ。本当に無理な時は言うよ。ありがとうルリア、フレイシー」

 礼を言うと、ルリアはにへにへと笑顔を浮かべ、フレイシーはニカッと歯を見せた。

「にしても最低でもあと六体以上か。もう少し探索しないとだな」
「薬草も、まだ……見つかってない、です」
「あんまり深入りだけはしないようにしつつ、浅めの範囲を探索しようね。奥に入っちゃうとどんなモンスターが出るか分かったもんじゃないし……」

 スーの発現に、俺とキリーカはうんうんと頷く。

「そもそも、浅い所に出てきてるのを駆除するのが目的だしねー」
「それもそうだな、ルリアにしては賢い発言だな……」
「む、ボクはこれでも元冒険者ギルドの受付嬢だからねっ!」
「悪い悪い、冗談だ」
「ほら、夫婦めおと漫才し終わったなら先に進むにゃ」
「あは、やっぱりそう見えちゃう……?」

 ルリアが自分の胸元に手を当てながら、腰を左右にくねらせる。

「誰が夫婦だ。ルリアも気色悪いからその動きやめろ」
「えーっ、ハジメテの時はもっとドキドキしてくれたのに……」
「え、ハジメテって何の事にゃ? 詳しく教えるにゃ!」
「おい、紛らわしい発言をするな。スーもふざけてないで行くぞ」
「ちぇ」
「はーい、残念だにゃ」
「くすくす……」

 キリーカにも笑われてしまう始末である。
 俺たちは気を入れ直して、周囲の探索を再開した。




 ――この時、もう少し気を張っていれば気づけていたかもしれない。
 仕留めたキラーラビット一体の足先に、自分たちがつけたものではない傷があったことに。
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