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第10章 後宮
第402話 優しい時間
「っあぁっ……ぅっ」
深夜寝屋には翠玉の押し殺した声が響いた。
「ここか?」
「っあ……そこっ!ダメ、もっと弱く!」
「随分と加減してるのだがな?やはり動きすぎだ」
「うぅ、あれだけで……情けないわ」
小さく呻いて翠玉はがくりと項垂れる。
「仕方ないだろう、ほら反対側の脚をよこせ!」
そんな彼女を他所に、冬隼は寝台の上で体の位置を変えて、先ほどと反対の脚を自身の膝に乗せた。
そしてまた翠玉は、声を押し殺して唸るのだ。
妊娠も後期に入り、いくら鍛えている翠玉でも、身体に様々な不調が出てきた。
特にそれは下半身が顕著で、それを見かねた冬隼が気まぐれに指圧をしてくれたのが全てもの発端だった。
以来、毎晩就寝前になると甲斐甲斐しく揉みほぐし、血の巡りを流してくれる。
そうしてもらうと、身体がホカホカと温まってきてよく寝られるという効果まであるのだ。
腹が大きく出てきてから、どうしても眠りが浅い翠玉にはとてもありがたい。
指圧を終えて、2人で横になると、冬隼がゆったりと横向きにした腹を撫でてくる。
ポコリポコリと今日も元気いっぱいに腹の中で赤子が動くのを感じて冬隼を見れば、彼もそれを感じているらしく、赤子が蹴った部分を嬉しそうに撫でている。
「今当たったのは足か?なんだか丸くて硬いものに押し返されたぞ?」
「んー多分そうだと思う。最近かかとかな?ってものによくゴリゴリされるのよね。すごく足の力が強くて、痛いの」
そう言って鳩尾の辺りを撫でると、今度はそれよりも下のあたりが、ポコンポコンと動いた。
「ご機嫌ね。これから寝るのに……」
腹の中で暴れ回る我が子に、寝かせてもらえるのだろうかと、息を吐く。
「俺とお前の子だ。元気なのは仕方ないだろうなぁ」
「これはとんでも無くわんぱくなのが出てきそうね!今から覚悟しておかないと」
息を吐いて、くるりと腹を撫でると、途中で同じく腹に手を当てていた冬隼の手に捕らえられる。
柔らかく手を握られて、その手が腕を伝い、肩を通り、首から頬を這って、撫でられて口づけが落ちて来る。
ゆったりと角度を変えたり啄みあって互いの唇の熱を感じ合う。
ポコンポコンと腹を動く存在は、まるで自分もいるのだから忘れるなとでも言っているようで、唇を離して2人で笑い合った。
「早く会いたいわね」
「あぁ、楽しみだ」
手を重ねて、腹に当ててそして2人はまた口付ける。
ようやく穏やかで優しいだけの時間が訪れている。
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