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8① ー試験ー
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第一王子ジョナタンの死は突然だった。
穏やかだが意欲的に行動する、とても優秀な人だった。
勉強だけでなく剣の腕もあり、魔法が得意で王子ながら魔導士を目指していた。王族で初めての魔導士になれると言われていたのに。
友人たちと狩りに行き、獲物を追っていたところ、地面が崩れて崖下に落ちたのだ。護衛騎士も巻き込まれて数人の死傷者が出た。前日雨が強く降ったため、地面が緩くなっていたせいだと結論付けられた。
不幸な事故として、たった二十歳の若さでその生涯を終えたのだ。
ジョナタンよりカミーユの年の方がヴィオレットに近いのだが、カミーユは自分をヴィオレットの相手に入れていないことに、何だか悲しみを感じた。
もしヴィオレットに次の相手があるならば、カミーユが一番年も身分も合っているのに。
試験が始まり、エディやカミーユに会うことがなくなると、ヴィオレットの周囲は再び静かになった。
入学したての頃は囃し立てられるように人が群がっていたのだが、呪われていた間にその人影もなくなった。
おかげで静かに過ごせてありがたいと言ったらまずいだろうか。試験の合間にも試験勉強に集中できたので、結果は悪くないだろう。
このままファビアンと関わらずにすむと楽なのだが、それはそれで問題か。
そう思いながら学院に行くと周囲がざわりとし、落ち着かない雰囲気に包まれていた。
(しかも、私に注目しているみたいだけれど、何かあったのかしら?)
「お姉様、おはようございます。さすがですね!」
誰もが遠巻きにしてこちらをちらちら見ていたのに、笑顔で声を掛けてきたのはカミーユだ。何が嬉しいのか、満面の笑顔である。
「何かあったんですか?」
「試験結果が出ているんですよ。順位が張り出されています」
「ああ、結果が出るのは今日でしたね」
ヴィオレットがまともな頭で試験を受けるのは今回が初めてだ。最初の試験から既に呪われていて、ずっと結果は散々だったように思う。ファビアンにかまけて勉強をおろそかにしていたせいだ。
まともな精神ではなかったのでそれが結果に出ていたわけだが、今回ははっきりした頭で試験が受けられた。それなりに手応えはあったため、結果は良かったようだ。
誰よりも嬉しそうなカミーユに促されて掲示板へ行くと、そこに張り出されていた順位表を見遣る。
科目ごとの順位と総合順位だ。皆が同じ科目を取っているわけではないので、総合点はただの合計点でしかないが、上位五十位まで張り出されていた。
「見てください。お姉様の名前が」
カミーユが指差した先は総合順位でヴィオレットは三位に名が載っていた。前回は五十位内にすら入っていないのだから、随分躍進したことになる。科目ごとの順位も名前が載っていた。
「古代語があまり良くなかったですね。勉強するには時間が足らなかったようです」
「ですが、他の科目はほとんど一位ですよ!?」
嬉しくないのか? の顔をされて、つい吹き出しそうになる。
「もちろん、嬉しいですよ。勉強した甲斐がありました。よほど怠けていたようです。カミーユ様はしっかりと一位ですね。さすがです」
「全て一位ではありませんでしたが……」
カミーユの総合順位は一位だが、魔法学だけ二位になっている。それでも十分な成績だが、カミーユからすれば全ての科目で一位を取りたかったのだろう。
それが彼の価値を高めるからだ。
「兄上は、八位ですね……」
「そのようですね」
総合は八位。科目によってひどく低い順位がある。得手不得手が分かりやすい。
(まあ、どの科目も私より下ね)
ファビアンはヴィオレットに抜かれて悔しがることだろう。どんな顔をするか想像できるが、面と向かってだと面倒になりそうなので会いたくはないものだ。
十八位にはエディの名を見付けた。マリエルの名前はどこにもなさそうだが、総合一位にジル・キュッテルが入っている。
デキュジ族の彼だ。
ちらりと見遣った先、そのジルと目が合った。軽く頭を下げてその場を後にする。一人で見にきていたようだが、特に喜びもないようだった。
(あんな遠くから。全生徒の上位でも見てたのかしら)
ヴィオレットの前に二年生の結果が貼られている。ジルはこちらを見終えていたのか、一年生の掲示板の前にいた。さっさと戻っていったので、三年生から順に見ていたのかもしれない。
「あ、お姉様。もう行きましょう」
突然、カミーユが腕を引いた。
進む方向が教室とは逆で一瞬不思議に思ったが、遠くに知った顔が見えて納得する。
ファビアンがマリエルと一緒に歩いてきていた。通りすがりのジルが挨拶をして足止めになってくれていたのが幸いか、ファビアンはこちらに気付いていない。
「ここまで来れば、大丈夫ですよ」
「う、兄上に気付いてましたか……」
カミーユは途端顔を赤くする。やはりヴィオレットに気遣ってあの場を離れたのだ。
「隠れる必要など、ないとは思いますけれど、兄上はお姉様に劣ると癇癪を起こすので。皆の前で大声は出したりしないかもしれませんが」
カミーユはいち早くファビアンに気付いて会わないように気を遣ってくれたようだ。
皆が集まっている掲示板の前で、ファビアンがヴィオレットに難癖つけるのが目に見えていた。
(カンニングでもしたのか。とか普通に言ってきそうだものね)
人前では大声は出さない。冷静な対応をすると言われているファビアンだが、成績については何とも言えない。
(なぜかやたら廊下で会うのだから、また会ったらすぐに口に出してきそうね)
穏やかだが意欲的に行動する、とても優秀な人だった。
勉強だけでなく剣の腕もあり、魔法が得意で王子ながら魔導士を目指していた。王族で初めての魔導士になれると言われていたのに。
友人たちと狩りに行き、獲物を追っていたところ、地面が崩れて崖下に落ちたのだ。護衛騎士も巻き込まれて数人の死傷者が出た。前日雨が強く降ったため、地面が緩くなっていたせいだと結論付けられた。
不幸な事故として、たった二十歳の若さでその生涯を終えたのだ。
ジョナタンよりカミーユの年の方がヴィオレットに近いのだが、カミーユは自分をヴィオレットの相手に入れていないことに、何だか悲しみを感じた。
もしヴィオレットに次の相手があるならば、カミーユが一番年も身分も合っているのに。
試験が始まり、エディやカミーユに会うことがなくなると、ヴィオレットの周囲は再び静かになった。
入学したての頃は囃し立てられるように人が群がっていたのだが、呪われていた間にその人影もなくなった。
おかげで静かに過ごせてありがたいと言ったらまずいだろうか。試験の合間にも試験勉強に集中できたので、結果は悪くないだろう。
このままファビアンと関わらずにすむと楽なのだが、それはそれで問題か。
そう思いながら学院に行くと周囲がざわりとし、落ち着かない雰囲気に包まれていた。
(しかも、私に注目しているみたいだけれど、何かあったのかしら?)
「お姉様、おはようございます。さすがですね!」
誰もが遠巻きにしてこちらをちらちら見ていたのに、笑顔で声を掛けてきたのはカミーユだ。何が嬉しいのか、満面の笑顔である。
「何かあったんですか?」
「試験結果が出ているんですよ。順位が張り出されています」
「ああ、結果が出るのは今日でしたね」
ヴィオレットがまともな頭で試験を受けるのは今回が初めてだ。最初の試験から既に呪われていて、ずっと結果は散々だったように思う。ファビアンにかまけて勉強をおろそかにしていたせいだ。
まともな精神ではなかったのでそれが結果に出ていたわけだが、今回ははっきりした頭で試験が受けられた。それなりに手応えはあったため、結果は良かったようだ。
誰よりも嬉しそうなカミーユに促されて掲示板へ行くと、そこに張り出されていた順位表を見遣る。
科目ごとの順位と総合順位だ。皆が同じ科目を取っているわけではないので、総合点はただの合計点でしかないが、上位五十位まで張り出されていた。
「見てください。お姉様の名前が」
カミーユが指差した先は総合順位でヴィオレットは三位に名が載っていた。前回は五十位内にすら入っていないのだから、随分躍進したことになる。科目ごとの順位も名前が載っていた。
「古代語があまり良くなかったですね。勉強するには時間が足らなかったようです」
「ですが、他の科目はほとんど一位ですよ!?」
嬉しくないのか? の顔をされて、つい吹き出しそうになる。
「もちろん、嬉しいですよ。勉強した甲斐がありました。よほど怠けていたようです。カミーユ様はしっかりと一位ですね。さすがです」
「全て一位ではありませんでしたが……」
カミーユの総合順位は一位だが、魔法学だけ二位になっている。それでも十分な成績だが、カミーユからすれば全ての科目で一位を取りたかったのだろう。
それが彼の価値を高めるからだ。
「兄上は、八位ですね……」
「そのようですね」
総合は八位。科目によってひどく低い順位がある。得手不得手が分かりやすい。
(まあ、どの科目も私より下ね)
ファビアンはヴィオレットに抜かれて悔しがることだろう。どんな顔をするか想像できるが、面と向かってだと面倒になりそうなので会いたくはないものだ。
十八位にはエディの名を見付けた。マリエルの名前はどこにもなさそうだが、総合一位にジル・キュッテルが入っている。
デキュジ族の彼だ。
ちらりと見遣った先、そのジルと目が合った。軽く頭を下げてその場を後にする。一人で見にきていたようだが、特に喜びもないようだった。
(あんな遠くから。全生徒の上位でも見てたのかしら)
ヴィオレットの前に二年生の結果が貼られている。ジルはこちらを見終えていたのか、一年生の掲示板の前にいた。さっさと戻っていったので、三年生から順に見ていたのかもしれない。
「あ、お姉様。もう行きましょう」
突然、カミーユが腕を引いた。
進む方向が教室とは逆で一瞬不思議に思ったが、遠くに知った顔が見えて納得する。
ファビアンがマリエルと一緒に歩いてきていた。通りすがりのジルが挨拶をして足止めになってくれていたのが幸いか、ファビアンはこちらに気付いていない。
「ここまで来れば、大丈夫ですよ」
「う、兄上に気付いてましたか……」
カミーユは途端顔を赤くする。やはりヴィオレットに気遣ってあの場を離れたのだ。
「隠れる必要など、ないとは思いますけれど、兄上はお姉様に劣ると癇癪を起こすので。皆の前で大声は出したりしないかもしれませんが」
カミーユはいち早くファビアンに気付いて会わないように気を遣ってくれたようだ。
皆が集まっている掲示板の前で、ファビアンがヴィオレットに難癖つけるのが目に見えていた。
(カンニングでもしたのか。とか普通に言ってきそうだものね)
人前では大声は出さない。冷静な対応をすると言われているファビアンだが、成績については何とも言えない。
(なぜかやたら廊下で会うのだから、また会ったらすぐに口に出してきそうね)
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