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メルキオール①
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アシーナという女の子は、裕福な子爵家の家に生まれた、ごく普通の女の子だった。
人格者の両親から惜しみない愛情を与えられて、すくすく育つはずだった。
彼女の人生の最初の転機は、7歳の時に彼女の母親が病で亡くなってしまった時ではないだろうか。
その三年後、彼女の父親が再婚した相手も、アシーナの事をとても可愛がって、新たな家族も仲睦まじいものではあった。
その幸せは、彼女が12歳になるまで変わるものではなかった。
12歳の時に何が起こったのかと言うと、彼女達三人が乗った馬車が落石事故に遭い、両親が他界してしまったのだ。
アシーナは義母に庇われほぼ無傷で生還できたが、両親を失ってしまった悲しみはどれほど深かったことか。
でも、アシーナの不幸はそこからが始まりだった。
彼女の義母の兄一家が、後見人として子爵家に入り込んだことで、彼女の穏やかだった人生は一変する。
義母が彼女を庇ってくれたから、その兄に始めは同情的だったのがいけなかった。
彼女の財産や権利を不当に奪ったあの一家は、彼女を虐待し、虐げ、暴力を振るい、挙句の果てに閉じ込めて、学校へも行かせなかった。
それに気付くのが遅れたのは、僕に責任の一端がある。
僕がクラム伯爵家を継ぐ時期と重なってしまい、侯爵としてもともと忙しい祖父がそれで手一杯になっていたせいで、アシーナが無理矢理書かされていた手紙を信じて、何も確認しなかった事が状況を悪化させてしまった。
異常なことに祖父が気付いたのは、アシーナの社交界デビューの日、アシーナが姿を見せなかったことだ。
祖父は子爵家の寄親で、その縁でアシーナの名付け親で、デビュタントの為のドレスを贈っていたのに、それを着て城に現れたのは、アシーナと同じ歳の義母の兄一家の娘だった。
激怒した祖父が子爵家に乗り込んで見たものは、納屋に閉じ込められ、ろくに食事を与えてもらえなかった彼女の悲惨な姿だった。
あと半年ほど発見が遅れていたら、16歳になった彼女と義母の兄一家の息子が無理矢理結婚させられて、子爵家は完全に義母の兄一家のものとなっていたはずだ。
道義に反する事を嫌う祖父は、不当にアシーナの家が乗っ取られる事を嫌った。
アシーナの子爵家の血筋ではない男が、アシーナのものを奪う事を。
それで、救出されたアシーナが、今度は僕と結婚することになったのだけど……
初対面での彼女の姿が、軽くトラウマになっていた。
初めて会った日、それは急遽決まった結婚式当日で、結婚相手は、骨と皮だけで、目は窪んでて、骸骨みたいで恐ろしかった。
ミイラが白いドレスを着ていて、何のホラーかと思った。
失礼な事だとは思ったけど、実際に目の前で彼女の姿を見たら、同情だけでは終わらない恐怖というものが込み上げてきて、その感情だけはどうしようもなかった。
境遇を聞いて気の毒に思ったけど、保護するだけじゃなくて、なんで僕の結婚相手にならなければいけないのかと、当時は憤っていた。
正当な子爵家の後継者である彼女を守るためであって、二十歳の成人を迎えるまでの暫定的なものだけれども、やっぱり僕は納得できなかった。
アシーナは、まだ知らない。
彼女が二十歳になれば僕達が離婚できることも、子爵家の多くの財産がアシーナのものになることも。
もう間も無く、祖父から説明を受けるであろう彼女がどんな選択をするのか。
彼女と再会するまで、僕には関係ないものとばかり思っていたのだけど…………
人格者の両親から惜しみない愛情を与えられて、すくすく育つはずだった。
彼女の人生の最初の転機は、7歳の時に彼女の母親が病で亡くなってしまった時ではないだろうか。
その三年後、彼女の父親が再婚した相手も、アシーナの事をとても可愛がって、新たな家族も仲睦まじいものではあった。
その幸せは、彼女が12歳になるまで変わるものではなかった。
12歳の時に何が起こったのかと言うと、彼女達三人が乗った馬車が落石事故に遭い、両親が他界してしまったのだ。
アシーナは義母に庇われほぼ無傷で生還できたが、両親を失ってしまった悲しみはどれほど深かったことか。
でも、アシーナの不幸はそこからが始まりだった。
彼女の義母の兄一家が、後見人として子爵家に入り込んだことで、彼女の穏やかだった人生は一変する。
義母が彼女を庇ってくれたから、その兄に始めは同情的だったのがいけなかった。
彼女の財産や権利を不当に奪ったあの一家は、彼女を虐待し、虐げ、暴力を振るい、挙句の果てに閉じ込めて、学校へも行かせなかった。
それに気付くのが遅れたのは、僕に責任の一端がある。
僕がクラム伯爵家を継ぐ時期と重なってしまい、侯爵としてもともと忙しい祖父がそれで手一杯になっていたせいで、アシーナが無理矢理書かされていた手紙を信じて、何も確認しなかった事が状況を悪化させてしまった。
異常なことに祖父が気付いたのは、アシーナの社交界デビューの日、アシーナが姿を見せなかったことだ。
祖父は子爵家の寄親で、その縁でアシーナの名付け親で、デビュタントの為のドレスを贈っていたのに、それを着て城に現れたのは、アシーナと同じ歳の義母の兄一家の娘だった。
激怒した祖父が子爵家に乗り込んで見たものは、納屋に閉じ込められ、ろくに食事を与えてもらえなかった彼女の悲惨な姿だった。
あと半年ほど発見が遅れていたら、16歳になった彼女と義母の兄一家の息子が無理矢理結婚させられて、子爵家は完全に義母の兄一家のものとなっていたはずだ。
道義に反する事を嫌う祖父は、不当にアシーナの家が乗っ取られる事を嫌った。
アシーナの子爵家の血筋ではない男が、アシーナのものを奪う事を。
それで、救出されたアシーナが、今度は僕と結婚することになったのだけど……
初対面での彼女の姿が、軽くトラウマになっていた。
初めて会った日、それは急遽決まった結婚式当日で、結婚相手は、骨と皮だけで、目は窪んでて、骸骨みたいで恐ろしかった。
ミイラが白いドレスを着ていて、何のホラーかと思った。
失礼な事だとは思ったけど、実際に目の前で彼女の姿を見たら、同情だけでは終わらない恐怖というものが込み上げてきて、その感情だけはどうしようもなかった。
境遇を聞いて気の毒に思ったけど、保護するだけじゃなくて、なんで僕の結婚相手にならなければいけないのかと、当時は憤っていた。
正当な子爵家の後継者である彼女を守るためであって、二十歳の成人を迎えるまでの暫定的なものだけれども、やっぱり僕は納得できなかった。
アシーナは、まだ知らない。
彼女が二十歳になれば僕達が離婚できることも、子爵家の多くの財産がアシーナのものになることも。
もう間も無く、祖父から説明を受けるであろう彼女がどんな選択をするのか。
彼女と再会するまで、僕には関係ないものとばかり思っていたのだけど…………
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