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御令嬢は王女様

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 メルさんの腕に手を添えて、正門の方へ歩いて行くと、鉄格子を握りしめて、こちらを見ている女性がいた。

「ちょっと誰よ、あなた!どうして、私のメルキオール様の隣にいるのよ!」

 重そうな門の格子をガチャガチャと音を立てて揺らして、大声を出しているのは、15.6歳くらいの女の子だった。

 黙っていれば、黄金の髪にエメラルドの瞳の絶世の美少女なのに、色々と残念な感じのする方だった。

「メルキオール様、ここを開けて。そんな目ざわりな女、今すぐ私が始末するから」

 何だか物騒な言葉も聞こえている。

「王女殿下。貴女様が来訪しても、門を開けなくてもよいと、国王陛下、並びに王妃殿下より許可をいただいています」

 メルキオールさんが困らされている御令嬢って、この国の王女様のことだったのか。

「どうして?お父様達なんか、関係ないわ!私は、あなたと結婚するのだから」

「僕には、すでに愛しい妻がいます。彼女と結婚できて、僕は幸せなのです」

「何でっ、どうして!お城にお花を届けてくれた貴方を見て、この私が一目で好きになったのよ?私の愛は、そんな女になんか負けないわ」

「殿下。僕とアシーナは愛し合っています。それは誰にも邪魔はできません」

“すまない。少しだけ、我慢してくれ”

 そんな風に口の動きだけで言葉が伝えられたかと思うと、向かい合ったメルさんの両手に頬が包み込まれて、そして、端正なお顔が近付き、温かいものが私の唇に触れていた。

「…………」

「いやー!私の目の前でキスするなんて酷い!メルキオール様のバカぁぁぁ!」

 視界が遮られていると、叫び声が遠のいて行くのが聴こえていた。

 それを確認してから、メルさんの体が離れる。

「いきなり、ごめん。これくらいした方が信憑性がでるかなって思って」

 メルさんはやれやれと肩をすくめており、私も役に立てたのなら良かったと思っていたくらいなので、謝られるようなことは何もない。

「いえ。くらい、いくらでもどうぞ」

 メルさんはちゃんと、唇と唇の間に親指を挟んでいたので、私達が実際に接吻を致したわけではない。

「朝から騒動に付き合わせてしまって、申し訳なかった」

「大丈夫です。でも、王女様を追い返して大丈夫だったのですか?」

「先にも言ったけど、王陛下と妃殿下からは、謝罪と共に、王女様をいくらでも追い返して構わないと言われているんだ」

 それでめげずに来る王女様は、立派なストーカーかな。

「今度こそ、朝食を食べようか。君の食欲がなくなってしまっていないか心配だけど」

「お腹がすきました」

「それは大変だ。急ごう」

 また、メルさんが左腕を差し出してくれたので、手を添えて歩き出す。

「せっかくの機会に、勿体無いことをしたか……いや……でも……やはり無理か……」

「はい?」

 おもむろに呟かれた言葉の意味がわからずに聞き返すと、

「何でもない」

 曖昧に笑って、答えをはぐらかされていたのだった。









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