偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌

文字の大きさ
23 / 53
本編

23 レオンという人

しおりを挟む
 室内に入り込む陽光で日が暮れかけている事がわかる頃に、外から声がかけられた。

「シャーロット。夕食を食べに行こう」

 レオンの報告は終わったのか、モフーを袋に入れてテントの外に出ると、どことなく人を安心させるような顔で私に微笑みかけてくる。

「ずっと一人にしてて、すまなかった」

「いえ、私の方こそ気にかけていただき、ありがとうございます」

 その隣では、レインさんが何を考えているのか分からない、ニヤリとした笑いを向けてくる。

 きっとレインさんみたいな人は、相手の反応を、私の嫌そうな顔を見て楽しんでいるのだろうから、相手にしないのが一番だ。

 スタスタとレオンの後ろを無言で歩いて行くと、騎士達が利用する食堂は、調理場が併設されているちゃんとした建物だった。

 意外と広々とした場所で、夕食の乗ったトレーを受け取って席に着くと、向かいに座ったレインさんが勝手に報告した内容を喋りだした。

 私が聞いてもいいものなのか、レインさんは構わず喋り続け、レオンも特に止める様子はない。

 船での食事風景と同じだと思えば、そうなのだけど……

「あいつら、どんな神経をしているんだろうな。聖女エルナトを処刑した日に、王太子の結婚を執り行ったのだから」

 狂っているとしか言いようがない。

「連中は、滅んで当然なんだよ。胸糞悪い」

 それには同意するけど、黙って聞き流していた。

「レインの言葉に補足するなら、隊長が戻って来るころには完全に港は封鎖される。生活に困る者も出て来るだろうし、ドールドラン大陸から不法に侵入して来る者もいるはずだ。これからの俺達の任務は治安維持になる」

 真面目な顔でレオンがそれを言えば、周りにいた人達もピリッとした空気になる。

 レオン達が忙しくなって、その間は私がここにいるとしても、さっきみたいにテント内でボーッとしておくのはさすがに嫌だ。

 ずっと考えていたことは、居候はよくないので何か仕事をと思ったのだけど、何をすればいいのかはわからない。

 食後にレオンにそれを伝えると、すぐに相談にのってくれた。

「野営地でシャーロットが手伝ってくれるのは有り難い。ただ、洗濯は力仕事だから、いい訓練になる。だいたいは新人にやらせているんだ」

 たしかに先程、年若い騎士見習いの人達が全力でシーツを絞っているのを見かけた。

「何か得意な事はある?」

 得意なこと……

「これと言ってないので、申し訳ないです。ごめんなさい……何もできなくて……」

「いや、気にしないで。それなら、料理場の方を手伝ってもらってもいいか?人手が欲しいと言っていたから」

「はい」

「じゃあ、丁度いいからこっちに」

 レオンが席を立ち、調理場に移動するからそれについて行った。

「ジーナさん、ちょっといいですか?」

「なんだい?また何か拾ってきたのかい?」

 頭に頭巾を被り、エプロン姿の壮年の女性が振り向いた。

 私と、バチっと視線があう。

「おや、今度はまた……へぇ……」

 意味深な視線を投げ掛けられるけど、それを深くは考えない。

「人手が欲しいと聞いて、それと、俺が不在の時とかもあるのでシャーロットの事を頼みたいのですが」

「ああ、ちょうど良かったよ。お嬢ちゃん、ボチボチ手伝って」

「シャーロットです。お世話になります。よろしくお願いします」

 レオンの紹介だけあって、ジーナさんも人当たりが良さそうだ。

「早速、お皿洗いをしてもいいですか?」

「ああ、そこの山は、夕食後に新人騎士が洗うから明日の朝から頼めるかい?」

「はい」

 それも騎士の仕事なのかと返事をしたところで、調理場なのに、角のカゴの中にふくふくとした猫が丸くなっているのに気付いた。

 モフーが食べられないか、私には関係ないけどちょっとだけ心配だ。

「ああ、その子もレオンが拾ってきた子だよ。その子だけは私が引き取ってね。そんなにふくよかになったのは、私の責任じゃないよ。レオンがガリガリなのが許せないって、あっという間にね」

 私の視線に気付いたジーナさんが、それを説明してくれたけど、私も気を付けないと、ふくよかにされてしまうのか。

 横に立つレオンを見ると、愛しそうに目を細めて猫を見ているから、やはり気を付けなければと切に思った。



 翌日から調理場の手伝いをする傍ら、レオンという人を観察していた。

 真面目。

 堅物。

 面倒見がいい。

 周りの評価はそんなところだ。



「レオン。レインの奴がまた訓練をサボって、放置された新人が困っていたぞ」

「分かった。言っておく」

「レオン、喧嘩だ」

「分かった。止めに行く」

「レオン、迷子だ」

「分かった。親を探してくる」

「レオン。オヤツが足りなくて、団長が拗ねている」

「分かった。何か分けてもらえないか、ジーナさんに頼んでくる」

「レオン、隊長が港町で拾ってきた兄妹をどうにかしてやってくれって。兄の方は体調を崩しているそうで、妹の方は目が不自由らしい。あの人もすぐに何かを拾ってくるから困りものだ」

「分かった、顔を見に行ってくる」



 よく頼まれごとをされて、そして、それらを断る事なく全て自分で解決している。

 お人好しで、人を疑ったことがあるのかな。

 きっと、今まで生きてきた中で裏切られたことがないのだろう。

 何の疑いもなく、私をこんな所まで連れてきて。

 私が裏切ったら、どんな顔をするんだろう。

 レオンに大陸崩壊の片棒を担がせているって知ったら、どうするのかな。

 もう、人を信じられなくなるのかな。

 それとも、そもそも私を信用しているわけではなくて、いつどうなってもいいように、すでに何らかの対処はしているとか。

「シャーロット。ひと段落したから片付けを始める前に、あんたも昼ご飯を食べてきな」

「はい。では、行ってきます」

 ジーナさんから促されて調理場から一度出ると、そこへレオンが紙袋を持ってやってきた。

「シャーロット、千賀鳥の変異種を食べたことはあるか?」

「千賀鳥の、変異種?」

 千賀鳥自体を知らない。

「見た目は食欲が低下する色なんだが、味は一級品だ」

 レオンが差し出してきた包みの中は、黄色と黒の斑ら模様の肉で、確かに食欲が低下する。

「これをパンに挟めば色は見えないから、ちょっと食べてみて」

 建物のすぐ横に置いてあった椅子に座り、渡されたパンに挟まれた物を、おそるおそるかじってみた。

 お肉はとっても柔らかくて、確かに、

「美味しい……」

 思わず呟くと、レオンは満足そうに笑っている。

 またかじってモグモグと口を動かすと、そこでハッとした。

 あのふくよかな猫を思い出す。

 これは、罠だ。

 自分の手元を見る。

 大きめのサンドウィッチ。

 これ一つを食べれば、結構な量だ。

 この体がふくよかになってしまった姿を想像するけど、でも、結局、口に運ぶその手を止めることはできなかった。








しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。

ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」  出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。  だがアーリンは考える間もなく、 「──お断りします」  と、きっぱりと告げたのだった。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ
恋愛
 いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。 「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」 「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」  ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。  ──対して。  傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

別れ話をしましょうか。

ふまさ
恋愛
 大好きな婚約者であるアールとのデート。けれど、デージーは楽しめない。そんな心の余裕などない。今日、アールから別れを告げられることを、知っていたから。  お芝居を見て、昼食もすませた。でも、アールはまだ別れ話を口にしない。  ──あなたは優しい。だからきっと、言えないのですね。わたしを哀しませてしまうから。わたしがあなたを愛していることを、知っているから。  でも。その優しさが、いまは辛い。  だからいっそ、わたしから告げてしまおう。 「お別れしましょう、アール様」  デージーの声は、少しだけ、震えていた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。 ※この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...