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第3章

第151話 リリス14歳 憂慮2

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この日の放課後、授業を終えたリリスたちは城へ向かうため廊下を歩いていた。こうして皆で城へ出向くのは、あのカフェテリアの前でアーサーに誘われて以来2度目だった。アーサーはリリスやヘンリー、スタイラスたちと過ごす時間を大相気に入ったようだった。最初の時、皆が帰ったあと「次はいつ誘おうかな」と楽しそうに言っていたと、アーウィンがこっそり教えてくれたのだ。そして、それを聞いたアリーナとエリーゼは歓喜していた。

もう少しで校舎の出入り口が見えるというところで、突然リリスがヘンリーの腕を掴み、引き止めた。止められたヘンリーは驚いた表情でリリスを見るが、腕をを掴んだまま俯く彼女の表情を見ることはできなかった。

「リリィ?どうしたの?」

・・・・・

俯いて応えないリリスにもう一度「リリィ?」と声をかける。すると、リリスのかすかな声がヘンリーの耳に届いた。

「・・・行こう」

小さな声に聞き取れなかったヘンリーは聞き返す。

「なんと言ったの?もう一度言って?」

「森・・森へ行こう・・お城じゃなくて森へ行こうよ」

「リリィどうしたの?急に。今日は城へ行く予定だっただろう?昼休みに先生にもそう言ってたじゃないか」

「とにかくイヤなものはイヤ!」

顔を上げたリリスはさっきまでとは違いはっきりした声で言った。
その時、立ち止まったリリスたちに気付いたアリーナたちが戻ってきた。皆、怪訝な顔をしていた。

「ヘンリーどうかしたのか?」

スタイラスが尋ねると、ヘンリーは「いや、何でもないよ」と誤魔化し、先に馬車に行くよう言った。しかしこの時、リリスはアリーナたちを見て信じられない言葉を吐いた。

「なんであなた達と一緒に行かなくてはならないのよ」

「ちょっとリリィ!」

慌てたヘンリーがリリスの手を取り、いま来た廊下を戻ろうとする。しかしリリスは追い打ちをかけた。

「あなた達は私のおまけなのよ。おわかり?今から私たちは森へ行くの」

「リリィッ!」

誰もがその声に驚いた。いつも穏やかなヘンリーからは想像つかない大きな声だった。そしてそれには怒りの色を含んでいた。皆がヘンリーを見ると、彼の表情は怒りから心配へと変わりリリスを見つめていた。
廊下にしばらく沈黙が流れる。そしてその重い空気には似合わないあどけない言葉が発せられた。

「あら?みんなどうしたの?お城へ行かないの?」

声の主はリリスだった。目をパチクリさせ、その表情は幼い子供のようだった。
そして皆が戸惑い顔を見合わせた後、アリーナが声をかけた。

「リリス、いま城へ行かないって貴女が言ったのよ」

「えっ?嘘。そんな事言わないわよ」

リリスの答えにエリーゼは「まぁ」と口をおさえ驚いていた。アリーナ、スタイラスとアシュリーも目を見開き、驚いている。

「そう言えば今日の授業でも変だったわ」

エリーゼが思い出したように言った。ヘンリーが「それはどういう事?」と尋ねると、エリーゼは言葉を続けた。

「授業中にいきなり立ち上がってローブン先生に向かって『もっと楽しい授業しなさいよ』って啖呵を切ったんです。あれ、ごまかすの大変だったわ」

「「あー」」とスタイラスとアシュリーが遠い目をしている。ヘンリーはリリスに「本当?」と聞いた。それにリリスはキョトンとして「それが覚えてないの」と言った。ヘンリーは「ねえ、どこか身体の調子が悪いところない?」と聞くが、リリスは首を横に振り「だって健康診断でも問題なかったの知ってるでしょ」と言った。

「変よ。やっぱりリリス変よ。小さい頃からの付き合いだけど、貴女そんな事の言う子じゃないもの。ねえ、ヘンリー様。
素直で明るくてどっかの貴族みたいにお高く止まってないし、良くも悪くも公爵令嬢っぽくないの。そこがリリスの良いところで私は大好きなの。まあ、ちょっと天然で時々やらかしちゃうところはあるけど、でも先生や私たちにあんなこと言うなんて絶対におかしい」

アリーナはリリスの肩に手をのせ、真っ直ぐに瞳を視線そらさずに言った。

「ちょっと、アリーナ・・それって褒めてるの?酷い言われようなんだけど・・私そんなに酷い?」

そう言ってリリスが周りの面々に視線を移すと、皆は苦笑している。そしてスタイラスは言った。

「まあリリス嬢は人を傷つけるようなことを言わないのは確かだよ。アリーナ嬢が言うとおりちょっと変だな」

アシュリーがその言葉に何度も頷いた。

「もう、みんなして変・・変って・・・とにかく私どこも痛くないし、悪くないから・・ほら、もう行こうよ。殿下をお待たせしてしてしまうわ」

そう言ったリリスは肩に置かれたアリーナの手を取ると、出口へと進む。皆は戸惑いつつその後に続いた。ヘンリーも小さなため息をつくと、歩き始めた。スタイラスが「大丈夫かと?」尋ね、ヘンリーはそれに「ああ、大丈夫だ」と答えた。スタイラスは「そうか・・」と呟いたあと微笑むと「なにかあれば、力になるから」と力強く言った。ヘンリーは頼もしい友人の言葉に心から感謝したのだった。
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