163 / 202
第3章
第152話 リリス14歳 ナイトメア1
しおりを挟む
その後登城したリリスたちは、城の一室でアーサー等と共に談笑をしていた。
その中でリリスは西の森の噂についてその後どうなったのか切り出した。
「そう言えばその後、西の森の噂はどうなったのですか?進展はありましたの?」
リリスの問にアーサーは残念そうに言った。
「特に何も進展はないんだ。噂自体が落ち着いてきているからね。あれは誰かのイタズラだったのかもしれないな」
予想通りの答えだった。何か進展があればアーウィンがリリスに話すはず。それがないのだから、事態は変わっていないだろうと思っていたが、念の為確認したかったのだ。しかしあれだけ目立つ燃える木が噂にならないことに、リリスは首をひねった。金の獣もそうだが、そう広くもないあの森で生き物のように動かないあの広場に立っている樹木が誰の目にも触れないのは不思議だった。そうさせる何か不思議な力が働いているのかもしれないとリリスは思った。
「そう言えば、さっきリリス様は"森へ行く"とか言ってたわ」
エリーゼは先程の廊下でのやり取りを思い出したようだった。覚えのないリリスはとっさに誤魔化すことにした。
「あら、それはラック湖のことよ。ヘンリー様と今度行こうと約束してるの。ねえ、ヘンリー様」
リリスのでまかせにヘンリーは微笑むと「そうだね」と話を合わせた。
リリスは少し前まではいずれアリーナたちを森へ連れて行き、あの木を見せようと考えていたが、今は違った。何しろあそこには炎の精霊サラマンデルがいるのだ。おまけにディファナに闇の魔法が絡んでいることも分かっている。そんな何かが起こりそうな所に大事な友人を連れて行けなかった。巻き込みたくなかった。昨年の騒動ではリリスの悩みに真剣に向き合い、守ってくれた友人たちに隠し事するのは躊躇われたが、仮に何かあればそれこそ後悔しきれないという想いがあった。リリスは心の中でごめんなさいと謝罪をした。
「そう・・ラック湖ね。あそこは綺麗よね。特に夕暮れ時なんて、夕陽が湖面にあたってロマンチックなのよ」
「そう!そうなのよ」
一瞬戸惑いながらもリリスの言葉を信じたエリーゼに申し訳なさを感じつつ、リリスとヘンリーはほっと胸を撫で下ろした。
「せっかくなら私もグライン様をお誘いしてみようかしら」
エリーゼが婚約者であるグライン・トーゴの名を出すと、話は彼が通う騎士学校ダートライアル学院へと移っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜、リリスは再び夢を見ていた。しかし、この日のリリスは今までとは様子が違っていた。ベッドの中で魘されていたのだ。額に汗をかき、眉間にはシワを寄せ苦しそうな表情をしていた。布団から出た腕はギュッと布団を掴み、顔を左右に振っている。
「うぅぅぅ・・ん」
言葉にならないリリスの寝言だけが静かな部屋に響く。
「逃げ・・・・く・・」
やがて息づかいが荒くなる。
「・・・め・・どうし・・・」
いつの間にか起きたネージュが苦しそうに悶えるリリスの隣にやって来て、布団を握る手を舐める。その姿はまるで宥めているようだった。しばらくすると布団を掴んでいた手は緩み、左右に振っていた顔は仰向けで止まった。しかし、その表情は変わらず苦しいものだった。
ネージュは枕元まで移動すると、今度はリリスのこめかみを舐め始めた。最初ピクリと反応したリリスだったが、やがてその苦しそうな表情から眉間のシワが消え、ゆっくりといつもの穏やかな寝顔へと変わっていった。荒かった息遣いも静かな寝息へと変わっていた。
リリスのいつもの寝顔に安心したのかネージュは一度あくびをすると、いつものようにゆっくりと枕元で丸くなる。やがて部屋にはリリスとネージュの静かな寝息だけが響いた。
その中でリリスは西の森の噂についてその後どうなったのか切り出した。
「そう言えばその後、西の森の噂はどうなったのですか?進展はありましたの?」
リリスの問にアーサーは残念そうに言った。
「特に何も進展はないんだ。噂自体が落ち着いてきているからね。あれは誰かのイタズラだったのかもしれないな」
予想通りの答えだった。何か進展があればアーウィンがリリスに話すはず。それがないのだから、事態は変わっていないだろうと思っていたが、念の為確認したかったのだ。しかしあれだけ目立つ燃える木が噂にならないことに、リリスは首をひねった。金の獣もそうだが、そう広くもないあの森で生き物のように動かないあの広場に立っている樹木が誰の目にも触れないのは不思議だった。そうさせる何か不思議な力が働いているのかもしれないとリリスは思った。
「そう言えば、さっきリリス様は"森へ行く"とか言ってたわ」
エリーゼは先程の廊下でのやり取りを思い出したようだった。覚えのないリリスはとっさに誤魔化すことにした。
「あら、それはラック湖のことよ。ヘンリー様と今度行こうと約束してるの。ねえ、ヘンリー様」
リリスのでまかせにヘンリーは微笑むと「そうだね」と話を合わせた。
リリスは少し前まではいずれアリーナたちを森へ連れて行き、あの木を見せようと考えていたが、今は違った。何しろあそこには炎の精霊サラマンデルがいるのだ。おまけにディファナに闇の魔法が絡んでいることも分かっている。そんな何かが起こりそうな所に大事な友人を連れて行けなかった。巻き込みたくなかった。昨年の騒動ではリリスの悩みに真剣に向き合い、守ってくれた友人たちに隠し事するのは躊躇われたが、仮に何かあればそれこそ後悔しきれないという想いがあった。リリスは心の中でごめんなさいと謝罪をした。
「そう・・ラック湖ね。あそこは綺麗よね。特に夕暮れ時なんて、夕陽が湖面にあたってロマンチックなのよ」
「そう!そうなのよ」
一瞬戸惑いながらもリリスの言葉を信じたエリーゼに申し訳なさを感じつつ、リリスとヘンリーはほっと胸を撫で下ろした。
「せっかくなら私もグライン様をお誘いしてみようかしら」
エリーゼが婚約者であるグライン・トーゴの名を出すと、話は彼が通う騎士学校ダートライアル学院へと移っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その夜、リリスは再び夢を見ていた。しかし、この日のリリスは今までとは様子が違っていた。ベッドの中で魘されていたのだ。額に汗をかき、眉間にはシワを寄せ苦しそうな表情をしていた。布団から出た腕はギュッと布団を掴み、顔を左右に振っている。
「うぅぅぅ・・ん」
言葉にならないリリスの寝言だけが静かな部屋に響く。
「逃げ・・・・く・・」
やがて息づかいが荒くなる。
「・・・め・・どうし・・・」
いつの間にか起きたネージュが苦しそうに悶えるリリスの隣にやって来て、布団を握る手を舐める。その姿はまるで宥めているようだった。しばらくすると布団を掴んでいた手は緩み、左右に振っていた顔は仰向けで止まった。しかし、その表情は変わらず苦しいものだった。
ネージュは枕元まで移動すると、今度はリリスのこめかみを舐め始めた。最初ピクリと反応したリリスだったが、やがてその苦しそうな表情から眉間のシワが消え、ゆっくりといつもの穏やかな寝顔へと変わっていった。荒かった息遣いも静かな寝息へと変わっていた。
リリスのいつもの寝顔に安心したのかネージュは一度あくびをすると、いつものようにゆっくりと枕元で丸くなる。やがて部屋にはリリスとネージュの静かな寝息だけが響いた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
579
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる