勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~

時野洋輔

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幕間話2

SS お雑煮を作ろう(味噌・醤油編)

 さて、話は変わるが、東国は現在冬。ホム―ロス王国も冬だったので、当然なのだけれども、雪が積もっていた。
 ホム―ロス王国では初雪はあったが、積雪はまだだったため、アクリは目を輝かせた。
「雪なの!」
 アクリが元気に雪原を駆けまわったが、はしゃぎすぎて倒れたようで、私たちは思わず駆け寄ったが、当のアクリはというと嬉しそうに笑っていた。
 私はため息をつきながらも、笑顔でアクリの顔についた雪を払う。
 クルトお手製の防水手袋、防水コート、防水耳当てに防水帽子をつけているが、どうしても顔の部分は無防備だな。
 雪の上には小さな人型が出来上がっていた。
「冒険者なんてやっていると、雪なんて水汲みの手間が省ける以外は不便なものだと思っていたが、子供連れだと感想がまた異なるな」
「ユーリさん、黴の生えた餅だけに飽き足らず、雪なんて食べていらっしゃったんですか?」
「そのまま雪を食べてたわけじゃねぇよ。雪をそのまま食べたらダメだって、リーゼが前に読んでいた冒険者教本にも書いてあっただろ? ほら、クルトの取材に来た作家の……【今日から君も冒険者】って本だったか?」

 書いていることは、概ね間違ったことは書いていなかった。まぁ、私に言わせれば問題部分も多く、冒険者の指南書というよりかは、面白いサバイバル本だった気もする。

「その本を書いている作者でしたら、現在は創作作家に転向したそうですよ?」
「そうなのか? ……まぁ、兎も角、雪はそのまま食べずに一度煮沸させる必要がある。あと、雪の中には砂とか埃とかも多いから、不純物を取り除くのに道具を使ったほうがいい。茶こしとか便利だぞ?」
「ゴミを取り除くために茶こしを使ったら、紅茶を淹れるための茶こしがなくなってしまうではありませんか」

 生きるか死ぬかの状態で、紅茶を飲んでいる余裕なんてないんだけど……まぁ、生粋のお嬢様のリーゼにはわからない話か。

「ユーリママ、イグルー!」

 アクリが手袋の上に雪を積み上げて言った。

「イグルー? あぁ、そういえばアクリに話したことあったっけ?」
「ユーリさん、イグルーってなんですの?」
「イグルーっていうのは、圧縮した雪のレンガを使って作る家のことだよ。この国ではかまくらって呼ばれているものが近いかな」
「あぁ、クルト様が造っていらっしゃるあれですか?」

 リーゼがそう言って広場で完成しつつある建物を見た。

「あれもイグルー……でいいのかな?」
「雪のレンガで作った建物ですわよね」
「それはそうなんだが――」

 完成しつつある高さ三階建ての雪レンガの建物を見て、やっぱり違うだろ――と思った。

 クルトが作ったイグルーは非常に快適で、私たちはその日、その家に一泊した。
 快適すぎて寝坊したのは言うまでもない。

   ※※※

 翌日、私たちは米麹を扱っている場所に来ていた。
 私とリーゼは思わず鼻を摘む。アクリも鼻を摘み、「くちゃい」と言っていた。

「あはは、これは大豆を発酵させているにおいのようですね。納豆というものを作っている場所はもっと凄いにおいがするそうですよ。僕はこのにおいはそれほど嫌いじゃありません」

 クルトは冗談ではなく、本当にこの匂いでも平気のようだ。
 どうやら、私たち渡来人にとって、ミソと呼ばれる調味料の臭いが苦手なのは当たり前の話らしく、案内してくれたおばちゃんは少しおかしそうに私たちを見ていた。
 そして、米麹を見せる前に、味噌を見せてもらう。
 味噌もお雑煮の材料だからな。

「マジかよ……東国の人間ってこんなものばかり食べているのか?」
「私の国では発酵食品はあまりメジャーではありませんから、慣れないにおいはどうしても。チーズやピクルス、ザワークラフト等は昔からありましたが」
「しかし、この見た目は――」

 茶色くてドロッとした見た目は、ピーナッツクリームにも似ている気がするが、この独特な臭いと混ざるとなぁ。
 本当に、これでスープを作るのだろうか。

 ま、まぁ、クルトが作ればどんな素材でもきっと一流の料理を作るんだろうな。

 お雑煮の材料――米麹、大豆GET。

「ところで、嬢ちゃんたち。さっきの坊ちゃん、米麹から味噌を作るって言っていたけど、味噌は作ろうと思えば最低でも何カ月も必要になるんだけど、わかっているのかい?」

 おばちゃんが尋ねてきた。
 リーゼは笑顔で返す。

「ええ、クルト様なら、きっとすべてを理解していて、なにもわかっていないと思いますよ」
「……まぁ、クルトだからな」

 おばちゃんは不思議そうな顔で、「それならいいんだけどね」と言ってくれた。
 ちなみに、その日の夜、イグルーの三階倉庫に、完成した味噌と醤油の樽が並んでいたことは特筆するまでもない。

 
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