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第四話 腐れ縁

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 所持思念1:【灼熱の記憶】
 追体験:炎に包まれる
 効果:気力の消耗を代償にして、炎耐性100%上昇、精神異常耐性50%上昇

「…………」

 天へ祈りを捧げたことによって、俺が持っている思念についての情報が脳裏に浮かんできた。

 それまで追体験しかできなかったのが、効果まで付与されているのが確認できる。あと、思念に1がついていることからも、枠が確かに増えているってことだ。

 この思念は以前、指輪を拾ったときにそこから収集したものだ。持ち主の思いを追体験した際、燃え盛る炎に包まれながらも大切な人を思っているのがよく伝わってきた。だから呼吸できないほど苦しかったものの、そこに安らぎのようなものがあったことも確かだ。

 一度追体験さえすればもう苦痛はないので、これを使う機会があればありがたく使わせてもらうとしよう。

 なんせ、火中でもダメージがないんだから凄い効果だし、精神の異常にも効き目があるから使う機会は絶対に来るように思う。これさえあれば生き地獄として知られる異次元の監獄でも生き残れる可能性が高まるんじゃないか。

「――おい、囚人番号121、お前の出番だ!」

「はい」

 囚人番号の121番も即座に自分のことだと認識できるようになってしまった。幼馴染シェリアと誓い合ったそのあくる日、遂に俺の出番がやってきた。

「早く来い、ウスノロッ!」

 ロープで縛られた俺は、兵士に引っ張られるようにして、まもなく奥の部屋へ辿り着いた。

「ここは……」

 そこは魔法陣が床一面に描かれ、不気味な淡い光を発する部屋だった。

「へへっ、驚いたか。囚人番号121番、お前はこれから生き地獄と呼ばれる場所へ旅立つことになる。何か言い残すことはないか?」

「……別に」

「おい、強がりを言うな、121番! もう二度と帰っては来られんのだから、何か知り合いに言うことがあるだろう! 俺が伝えてやるから話せっ!」

「それならもう昨日面会のときに話した」

「ん、あの女か。121番、お前の母親とか父親はどうしたんだ、おい」

「父親は俺が産まれる前に亡くなったし、道具屋の母さんも俺が8歳になった誕生日に、店で酔っ払った男に絡まれて俺の目の前で絞め殺された」

「……な、なんだと……。そ、その男はどうなったのだ……?」

「そいつは村長の息子だったから揉み消されたが、数日後に罰が当たったのか転倒して頭を打って死んだ。それから羊飼いの叔父さんを頼って、疎まれながらも仕事を手伝って都で暮らせる資金を貯めたんだ。それで充分だろ」

「おいおい……苦労しやがったんだな、囚人番号121! 泣かせるなよ! しかし、そろそろが来る頃だが、遅いな……」

「あの男って?」

「【転送】スキルを持つヘルゲン・ラジャート氏だ。囚人たちを異次元の監獄へ送る役を任されている」

「あ……」

「なんだ、121番、お前の知り合いだったか?」

「少し……」

 ヘルゲンっていえば、救助者ギルドの元同僚じゃないか。

 とにかく偉そうな上、何故か俺に敵対心を剥き出しにしてくるので苦手だったが、彼のスキル【転送】のおかげで救助者をダンジョン外に脱出させられるので助かっていた。

 余所からいい話が来たってことで辞めてしまったのを覚えてる。そうか、この駐屯地で働いていたのか……。

「――っと、噂をしたら、早速来たようだ」

 兵士の視線の先には、欠伸をしながら歩み寄ってくる長身の男の姿があった。

「早くしてくださいよ、ヘルゲンさん、まったく。こっちは予定が詰まってんですから」

「なんだ? 貴様は一体、誰に向かって物を言ってる」

「き、気に障ったなら申し訳ねえです……」

「ふん、馬鹿め……」

 ヘルゲンとかいう男の高圧的な言動は、遅刻してきた人間のものとは思えなかった。

 兵士の次に俺をギロリと睨みつけてくると、右の口角を吊り上げていかにも小ばかにした様子で笑った。

「ククッ……なんだ、どこかで見た間抜け面だと思ったら、テッド・シールスじゃないか。随分惨めな姿になったものだな……」

「……元気そうだな、ヘルゲン」

「……フッ。ヘルゲン様と呼べ、クソゴミ以下の囚人如きが。貴様は既に囚人番号121番として、名前を失っているような罪深い立場なのだぞ」

「…………」

 俺はヘルゲンからの罵倒に対し、唇を噛むことしかできなかった。

 悔しいが素直に従うしかない。【転送】スキルを持つ人間は、異次元に送るとなるとこうした魔法陣や儀式が必要になるが、送る場所を微妙にずらすことだってできる。

 もしやつを怒らせるようなことをしたら、そのまま監獄の外へ送り込まれ、異次元のモンスターの餌食にされかねない。異次元の監獄の外には、普通のダンジョンよりもずっと強力なモンスターがいるそうだから。

「では、早速準備に取り掛かるとしよう。たまに位置ずれを起こし、囚人が石の中に閉じ込められて息絶えることもあるが、そこは仕方ない」

 さらっととんでもないことを言いやがった。この高慢な男の前では、兵士の横暴さがマシに見えるレベルだ。しばらくして、魔法陣全体が眩い光を発し始めた。いよいよか……。

「――用意はできた。さあ、地獄へ旅立つがいいっ……ゴミムシッ……!」

「うっ……うわああぁぁっ!」

 しばらくして、ヘルゲンがそう発言した直後だった。俺はまたたく間に光の中に呑み込まれていった……。
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