勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し

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第二章

32話 支援術士、潜る

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「グ、グレイス、覚えって?」

 アルシュがさも意外そうな顔をするのも無理はない。当事者の俺でさえ、本当によく考えなければわからないことだった。

「覚えがあるっていうか、まったくないわけじゃないってことなんだ」
「どういうこと……?」
「俺が兵士たちに連行されて、そこから帰ってきて一週間くらいして、忙しさにさらに拍車がかかってきた頃だったかな。なんか、嫌な感じがしたんだ。遠くから誰かに恨めしい目で見られてるような……」
「そうなんだ……」

 あのとき、おかしいと思って周囲を見回したとき、誰もいなかったんだよな。それで気のせいだ、疲れてるせいだと思ってすぐ忘れちゃってたんだ。客の誰かと喧嘩した覚えなんてないし、思い当たる節があるとすればもうここしかない。

「それでグレイス、どうするの?」
「記憶回復術を使う」
「え、えぇ……」

 アルシュの反応を見てもわかるように、記憶回復術は尋常じゃなく難しいが、成功すれば聞き込みのようなまどろっこしいことをせず、すぐ真犯人の正体がわかることになる。

「で、でも、あれって確か失敗しちゃうと大きなデメリットがあるんでしょ……?」
「ああ……」

 ライファという女の子の記憶を維持できない病に対してこの術を使ったとき、一応は成功したんだが、俺の腕そのものが未熟だったせいで完璧には治らなかった。

 だが、もし失敗していたらその反動を受けてこっちが記憶を失った可能性だってあったんだ。その代償は大きく、下手したら全てを忘れてしまうだろう。アルシュのことだけでなく、自分自身のことさえも。

「グレイス、お願いだからやめて……。その術はまだ完璧じゃないわけだし、地道に行くべきだよ……」
「……いや、やる」
「グレイス……」
「確かに失敗したら代償も大きいし、俺の記憶回復術もまだ未熟だが、ライファにやったときより今回のほうが難易度は低い」
「それはそうかもしれないけど、あれと比較したらなんだって難易度は低くなっちゃうよ。そりゃグレイスの腕は凄いけど、もしものことだって――」
「――アルシュ……」

 俺はアルシュの両肩を掴み、強い表情で彼女の瞳を見つめた。

「グ、グレイス……?」
「アルシュ、頼むからやらせてくれ。これは挑戦でもあるんだ。実践することでしか見えないものもあるし、未熟だからこそ上達していかないといけない……」
「……はあ、しょうがないね。でも私、神頼みなんてしないから。グレイスのこと、信じてるからねっ!」
「ああ、ありがとう、アルシュ……」

 ここまで我儘を聞いてもらった以上、失敗するわけにはいかない。いや、絶対に成功してみせる。

 人間、前があるなら後ろだってあるし暗さを消すことはできないが、ここでは後ろ向きな言葉を使ったらいけない。もしもじゃない、必ず成功させるんだ。もう上手くいくことしか頭にない、考えられない……。

 さあ、心の準備はできた。大胆かつ慎重に、回復術を行使して記憶をたどっていく。そのイメージとしては、静かな仄暗い海に潜るようなものに近い。

 とにかく薄暗くて息苦しいが何も見えないわけじゃなく、時折ぼやけて自身が経験してきたことがフワフワと漂ってくる感じなんだ。潜れば潜るほど過去へと進んでいく。

 ただ、気を抜くと溺れてしまうので注意が必要で、そうなるとそれこそ記憶の死、すなわち記憶喪失となってしまう。それは、自分というものを自分だと認識できなくなってしまうので、まさに死に等しいともいえるんだ。

 そこを回復術、治癒と補助でバランスよくでカバーしながら深く深く記憶を抉るように潜っていく。

 いくら記憶力に自信があっても、何気ないシーンまで思い出すことは難しいが、鍵となるものがあればそれを頼りに広げていくことができる。今回の件でいえば恨めしい視線だ。俺は息を止め、回復術を重点的にそこへ流し込んで思い出そうとすると、やがて俺の目の前に当時の光景が鮮やかに広がってきた。

 見える、見えるぞ。よし、上手くいった。お……遠くに誰かいるな。右目に眼帯をつけたとても長い髪の少女で、じっとこちらの様子を窺っているのがわかった。

 なんていうか、ただならぬ気配を感じる。あの様子だと普段から【なんでも屋】を見にきていて、たまたま感情が表に出てしまった形じゃないか。それくらい存在感がなく、隙も見当たらない子なんだ。もうこれだけで相当な手練れであることがわかる。

 ここまで情報が入ったなら問題ないな。テリーゼとジレードに聞いてみるとしよう……。
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