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一章 1週間の物語

7日目 ◇一人称視点

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「……様!  ね……サ……姉様!」


耳元でルイの声が聞こえてくる…。
必死で私を呼ぶ声。
泣いてるのでしょうか…?
声が震えていて弱々しいように感じます。
だとしたらなんで泣いているの、ルイ?
私は貴方には笑っていて欲しいです。
だって私は貴方の笑顔が大好きだから。


「……泣かないで、ルイ」

「ね、姉様……!」


大きな丸い瞳から零れる涙を拭ってあげれば、ルイの瞳が大きく見開かれました。

良かった。手が動いて。
貴方の涙を拭いてあげる事がまだ出来て。


「姉様! 皆さん、姉様が目を覚ましました!」


皆さん…?
そう言えば…ここは何処でしょうか?

私の私室とは違う天井。
それにフカフカで身体を優しく包み込んでくれる高級感のあるベッド。

そして…腕に付けられた無数の点滴の管を私がボーッと見つめていると


「ステラ様…!」

「ミ、ナ?」

「良かった、生きてて…本当に良かった」


ミナが私の前で崩れ落ちる様にして泣き出してしまいました。
困りましたね…。
私は大切な人の泣き顔を見るのは苦手なんですけどね…。


「ミナ…泣かないで」

「でも、私のせいでステラは毒を…!」


そうです。
私はあの時、毒を飲んだんでした…。

ミナの命が、ルイの命が危ないと思って…自分の命で2人を助ける事が出来るのなら……と何の躊躇いもなく、私は毒を飲んだのでした。

飲んだ瞬間、焼かれるように身体が熱くなってそれで…。


思い出そうとしても頭が回りません。
それに何ででしょう…?
とても、とても……眠いのです。


「ステラ」

「…アレクシア殿下?」

「あぁ、そうだ」


優しく私の名を呼ぶ声。
直ぐにアレクシア殿下だと分かりました。

殿下は私の手を優しく暖かい大きな手で握ってくれました。


「此処は城の医務室だ。ステラは毒を飲んで倒れて直ぐ、ここに運ばれたんだ」

「…倒れて直ぐに? でもどうやって…」

「ルイが俺を訪ねてきたんだ」


私はルイを見つめます。
するとルイは涙をグッと堪えながら、言いました。


「姉様が父様と母様に連れられて書斎に入っていくのが見えて…。それで僕、居ても立っても居られなくて…」

「そうだったんですね…。ルイ、ありがとうございます」


私は微笑む。
とは言っても微笑んであげていることが出来ているかも分かりません。

だって…もう感覚が全く分からなくなってきたから。

多分、もう私は死ぬのでしょう。
その証拠に部屋の隅に佇むお医者様がアレクシア殿下に何かをお伝えしているのが見えます。

なんて……本当は自分の最期くらい分かってしまうんです。




「……ルイ、ミナ、アレクシア殿下。お願いがあります。私の部屋に花の種があります。それを3人で植えて貰ってもよろしいですか…? 本当は4人で植えたかったんですが……もう、私は無理そうなので」

「や、やだよ! そんなこと言わないでよ…姉様。僕は姉様が居ないと嫌だ! 姉様の居ない生活なんて考えられない! 僕はずっと…ずっと姉様と一緒にいたいよ!」

「そうよ、ステラ! そんな事言わないで! 憧れの学園生活を送るんでしょ?  まだまだ沢山やりたい事があるって言ってたじゃない!」


ルイ…私もまだ貴方と一緒にいたい。
貴方の成長を誰よりも近くで見守っていたかった。
私は……貴方みたいな子が弟であること、とても誇りに思います。
本当にありがとう。

ミナ…貴方には色々無理をさせてしまいましたね。それでも、私のために頑張ってくれてありがとう。
支えてくれてありがとう。


「ステラ。君に出会えて良かった。そして…俺と出会ってくれてありがとう。何も…力になれなくてすまなかった」


アレクシア殿下。
私の方こそ……貴方と出会うことか出来て嬉しかったです。
力になれなかった? とんでもないです。
私の為に手を尽くして下さってた事、知っていますよ。
だから…そんな悔やんだ顔をしないでください。私は貴方に感謝してもしきれないほど感謝の気持ちでいっぱいなのですから。


死ぬのが怖かった。
だって…死んでしまったら大切な物を何もかも忘れてしまうのでは? と思ったから。


けど…もう平気。
だって……

こんなに大切な人達も

思い出も

全部

忘れる訳がない。

そう思ったから。



「……ありがとう、皆。こんな私を……愛してくれて」





そこで私の意識は途切れました。
私は…一生覚めることの無い永遠の眠りについたのです。

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