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しおりを挟む翌日。今日もまた朝、あんこを保育園へ送ってから時雨は学校へ登校した。
一年一組。それが時雨の所属するクラスである。
教室に入ればまだ誰も来ていなかった。時雨は席に着き鞄から教科書を取り出し机へとしまう。一通り準備が終わったらノートを捲りシャーペンを握った。
昨日の夜母親から新作の和菓子を考えて欲しいと頼まれ、その新作和菓子のイメージを書きとめようと思ったのだ。
それから少しすれば数人のクラスメイトがやって来た。
中には眠そうな人も居れば、黙々と勉強している人、他クラスに行く人だって居た。
そして気付いた時には余程集中していたのか八時になっていた。一旦シャーペンを置き、背伸びをしようとした時だった。突然両肩が思いっきり掴まれたのだ。
「おはよー。時雨!」
「お、おはよう。陽茉莉ちゃん。びっくりしたよ」
「ごっめーん! だって真剣な目で何か書いてるしさー?」
ノートへと視線が注がれていることに気づき、慌てて時雨はノートを閉じた。決して隠す程の物でもないが、咄嗟に閉じてしまった。
そんな時雨の態度に彼女――国木陽茉莉は気にする様子は無く、茶髪のボブヘアーの髪の毛先を弄りながら甘え声で話し始めた。
「それよりは時雨。私、そろそろ本気だそうかと思ってるんだぁ」
「ほ、本気って?」
「だから伊織先輩に告るの!」
伊織先輩。
昨日公園で偶然会ったあの槙野伊織だということは直ぐに分かった。
陽茉莉が入学当時から伊織を狙っていたことは知っていたが、まさかこうして告白する、なんて言い出すとは思ってもいなかった。だから驚きもしたし、度胸があるなと関心もした。
「けど、先輩さぁ。いつも早く帰っちゃうらしいのよねぇ」
それは恐らく藍のお迎えの為だろう。
だが、誰にも言わないと約束した。
だから時雨は知らない振りをした。
「噂によれば彼女は居ないらしいし、私可愛いからさ。ワンチャンいけると思うんだよねぇ」
陽茉莉はブレザーのポケットから丸いコンパクトな鏡を取り出し、念入りに前髪のチェックなどを始めた。
何故自分のような地味な女が、こんな目立つ女の子と共に居るのか時雨は今でも不思議に思っていた。しかし、それは名簿順というものによって後ろと前の先になってしまった時点で全ては決まってしまったのだ。
───そう言えば先輩、彼女居ないんだ
正直そっちの方が驚いたりもしていた。
何せあんなに女子に囲まれ、ちやほやされているのだ。
彼女が二、三人居てもおかしくないだろうに。
「おはよー。何の話?」
八時を過ぎた頃から次々に教室へと入ってくる生徒達。
その中には時雨がいつも共に行動している目立つ系女子のグループの女の子二人もやって来た。本当はこんな目立つグループ入りたくなかった。しかし、一番最初に声を掛けてくれた陽茉莉の誘いを断る事も出来ず、居場所を間違えている事を十分承知の上で時雨はこのグループで過ごしていた。
グループでは一気に伊織の話で持ち切りになった。
だから一旦時雨は席を外す事にした。
トイレからの帰り道、教室の扉に手を掛けた時だった。
「時雨」
そう名前を呼ばれ、振り返る。
「朝練お疲れ様。蓮」
そこには幼なじみの蓮の姿があった。
お茶屋を経営する蓮の実家は時雨のお隣という事もあって物心ついた時から時雨の傍には蓮が居た。
蓮の額に汗が滲んでいるのは、きっとバレー部の朝練終わりだからだろう。
「どうかしたの?」
「いや……どうかしたって訳じゃないけど」
「そっか」
「おう」
「放課後も頑張ってね」
「……おう」
蓮は二組のため、一旦ここでお別れだ。
彼を見送り、時雨は教室へと入った。
教室は既にクラスメイトが揃っており、話し声でいっぱいだった。
憂鬱な気持ちを抱えながら、時雨はいつものメンバーの所へと向かった。
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