妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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迷走編

33-3話【daily work】西 克彦:病棟長会議(西編)①

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 むむ? あれは、藍原先生。4階中央の病棟長は西園寺のはずだが? ……藍原先生。指導医セミナーの温泉ハプニング以来だな。西園寺のやつ、本当にうまく言いくるめたようだ。藍原先生はあのあと、私を責めるどころか感謝までして去っていった。ずっと私を苛んでいた良心の呵責がやっと薄れてきたころだというのに、こんなところで会うとは……。
 ん? 藍原先生……随分とお疲れのようだな。隅のほうで、船を漕いでいる。ああ、そんな姿でさえ愛らしい。おや、両肘をついて顎を手のひらに乗せ……ああ、とうとう机に突っ伏してしまった。当直明けか何かだろうか、ゆっくりと肩を上下させ、気持ちよさそうに寝息を立てているようだ。何というか……微笑ましい人だ。

「以上を持ちまして、3月の病棟長会議を終わります」

 みな藍原先生のことなど無視して続々と退室していく。あっというまに会議室は静まり返り、中には私と藍原先生だけになった。
 妙な緊張感の中、そっと先生に近づく。長テーブルに上半身を倒し、顔だけ横に向けてすやすやと眠っている。

「……藍原先生。会議、終わりましたよ」

 話しかけてみたが、反応はない。……参ったな、こういう場合は、体に触れて、揺り起こしてもいいものだろうか。寝ている女性の体に触れるなど……いや、今さら何をいっているんだ。私はすでに、気絶した藍原先生の乳房を、手拭いの上からこれでもかと揉んだではないか! あんな悪行を働いた自分を棚にあげて、今さら善人ぶっても……。

 結局決心がつかず、藍原先生の隣に座ってみる。

「……藍原先生。起きてください」
「ん……」

 反応するように、藍原先生が身じろぎした。手の甲に乗せられたピンク色の頬と、ぷっくりと半分開いた唇。そして、90度に折れ曲がった上半身は、長テーブルの影になって見にくいが、明らかに……重力を受けてたゆとうふたつの宝玉を、うやうやしく支える白衣が……そう、支え切れずに……! ああ、さながらブラックホールのような、万人を魅了してやまない危険で魅惑的な漆黒地帯となって、私を誘っている! この世でもっとも美しい影。それはまさに、ふたつの乳房によって生み出される、この深く温かい渓谷にほかならない! この誘惑に打ち勝てる男など、存在するのだろうか!?

「……藍原先生」

 もう一度、近くで囁いてみた。……反応がない。

 それは不思議な感覚だった。この一瞬だけ、己が己自身ではなくなったような、そんな感覚。……いや、それは私の言い訳なのかもしれない。とにかく私は……理性の塊といわれているこの私が、衝動を堪えることができなかったのだ。

 すべての気力と精神力を使って何とか胸の谷間から目を逸らした私には、もう、藍原先生の誘うかのように開いたなまめかしい唇に、抵抗する力は残っていなかった。
 ゆっくりと身を屈め、そっと、藍原先生のみずみずしい唇に、自身の唇を押しつけた。形容しがたい弾力が、私を受け止めるように優しく弾んで応えた。

「ん……」

 また先生の唇から甘い吐息が漏れ、わずかに動く。私は憑りつかれたようにその下唇を舐め、食み、そしてゆっくりと舌を入れた。藍原先生の咥内はすでにたっぷりとした唾液で満たされ、少し舌を回すだけでいとも簡単に濃厚な蜜が掬い取れた。
 口を開き、深く藍原先生を覆い、たっぷりと一度だけ、その蜜を味う。それは何とも甘く、たった一口で、私の脳の奥を完全に麻痺させた。唇を離すと、開いた先生の口の端から透明の唾液が溢れ出し、色白な手の甲に水たまりを作る。それはまさに、ピンク色の2枚の花弁から溢れ出る蜜のようで、それは彼女の、もうひとつの神聖な入り口を想起させ――

 体が一気に火照るのを感じた。何ということか、たった一度のキスで、私の陰茎は頭をもたげ、甘美な刺激を求めて主張してくる。私は無心でズボンを下ろした。上を向いた陰茎からはすでにカウパー腺液が漏れ出している。私はそのまま藍原先生に近づき……ああ、今彼女が目を覚ましたら、私は何と言い訳するつもりなのか? そんなことすらろくに考えず、私は、粘液で光る亀頭を、藍原先生の……唇に、押し当てた。

「う……っ」

 ぬるぬるとしたその感触に、思わず声が漏れる。左手で根元を支持して、ぐりぐりと唇を先端で撫でまわす。溢れる先生の唾液を浴びるように、口角から、上唇、そして下唇へ……。唾液とカウパー腺液が混ざりあい、すでに充分すぎるほど滑らかに潤った先生の口の周りは、どちらなのかもわからない粘液でべとべとだ。……ああ、美しく清らかな藍原先生の口が、私の陰茎に反応してよだれを垂らし……その奥には……ダメだ、中に入ってはいけない。さすがにそれはダメだ。いや、それをいうならば、私はもうすでにダメだ。

「ん……んふ……」

 藍原先生が眉をひそめて身をよじり、私ははっとして腰を引いた。私のものはもうはち切れんばかりに勃起している。しかし、これ以上はダメだ。
 異様な緊張感と噴き出す汗、そして激しい動悸を感じながら、私は何とか思いとどまって陰茎をズボンにしまった。……とりあえずしまったが、それはまったく収まる気配がない。このままでは帰れない……。
 ひとまずもう一度座り、勃起が収まるのを待つ。だいぶ目立たなくなってきたところで、もう一度藍原先生に声をかけた。

「先生、起きてください」

 うっすらと目を開け、藍原先生がとろんとした目で体を起こした。

「やだ、あたし、寝てました?」

 恥ずかしそうに頬を赤らめ、そして……手の甲で、さりげなく口の周りを拭う。同時にぺろりと、遠慮がちに飛び出た舌が口角を舐めとって……ああ、それは……あなたが今舐めた、その、その粘液は……っ!

 収まりかけた陰茎が、再び充血して頭をもたげる。そして、私の脳と体の指揮権を取り戻そうとしていた理性が、再び本能に押されて……もう、悪魔の囁きすら必要なかった。私は、自らの意志で、決断した。

「藍原先生……お疲れのようですね……もう少し、お休みになりますか」
「え?」

 返事も待たず、なるべく自然な動作でそっと彼女の肩に手を添え、私の膝の上にいざなう。……そう、藍原先生はこれまで、幾度となく私のラッキーエロの瞬間を、咄嗟の機転と優しい嘘でフォローしてきてくれた。私はその可愛い嘘を信じ、好意に甘えてきたのだ。……そして、今。私は藍原先生にならい、もっと大それたことをしようとしている。

「……夢ですよ。これはすべて、夢です」

 ……そう。これはあなたが昔私についてくれた、優しい嘘だ。あなたは今、私が同じ嘘をついても、私のように騙されてくれるのだろうか? あなたの優しさに付け込むあくどいこの私を、見て見ぬふりを、してくれるだろうか……?

「夢……ですか……」

 藍原先生が、ぽかんとした顔で私を見ている。私はこれが夢だと彼女に、そして自分自身に言い聞かせながら、ずっと私を苛んでいた愚かしい罪を告白した。

「あの日私は、あなたの胸を、揉みました。乳首を摘まみ、感じるあなたの姿を見て、自慰行為をしました……」
「いえいえ、だからそれはあたしの夢で……あ、そうか、夢を見てるから、夢で、いいんですね?」

 私はただ、許しを得て楽になりたかっただけだった。しかし、藍原先生の反応は不思議なもので……まさか本当に、これが夢だと、信じているのか?
 恥ずかし気に私を見つめる先生の頬が少しずつ朱に染まり……そしてにわかに、藍原先生の、あの甘い匂いが漂ってきた。次の瞬間。先生が私の股間に触れ、そして、おもむろにズボンを下ろし始めた……!

 こ、これはどういうことか!? 先生は、私に……私に抱かれたいということか!? ああ違う、これは藍原先生にとっては夢に過ぎないのだ、夢だと思い込んで突飛な行動に出ているだけ――ううッ!? 先生の温かい手が、私の勃起した陰茎を握り、そして腹を、直接まさぐり……ああ、なんだこの絶妙なタッチの愛撫は!? これはもう、私を誘っているとしか思えない! あの、あの清純で恥じらいのある、決して自ら男をたぶらかしたりなどしない藍原先生が! 羞恥に頬を染めて、ためらいがちに、私を……私を、求めている……!?

 もう私の呼吸と心拍数は、常軌を逸した速さでその数を増し、体中を暴れ回る。この想定外の事態にどう対処しようか頭を働かせる暇もなく、藍原先生が、奥ゆかしくも劣情をはらんだ熱い声で、震えながら囁いた。

「先生……あたしを好きに、してください……」
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