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第三章
Ⅱ
しおりを挟む「ねぇ、ちょっと」
「…お帰り、兄さん」
今日の彼女の迎えは兄さんの日だった。
「ただいま。
…ねぇ、龍海。翠ちゃんと仲良くなった?」
「は?」
いつも兄さんの話は急だ。
「翠ちゃんと話してる?」
先日、彼女と少し話したことを思い出す。
彼女が兄さんを話題に出した日。
「…」
「…お前、本当に分かりやすいね。」
兄さんが呆れたようにため息をつく。
「…何が。」
「あのさぁ、好きなんだったら自分から距離詰めないと」
…なんなんだ、兄さんは。
彼女を好きなのは兄さんの方じゃないのか。
彼女も兄さんが好きだろう。
彼女のことになると苛立つことが多い。
「…好きじゃないと、言っている。」
「はぁ?何言ってるの。」
「ずっと前から言っているだろう。
彼女のことはなんとも思ってない。」
「…本気?」
兄さんこそ何を言っているんだ。
思わず食ってかかる。
「…大体、彼女のことが好きなのは兄さんの方じゃないのか。あんなに気にかけて…
彼女だって兄さんのことが好きみたいだぞ。
迎えに行き始めたときだって、彼女は俺に怯えていたが兄さんにはそうじゃなかった。
今だってよく食事に行くんだろう。
俺とは食事なんか行かないからな。
それに…」
「ただいま~ちょっと、たっくん声大きい。
玄関まで聞こえてきたよ。どうしたの。」
琥珀の声に、我に返る。
いつの間にか帰ってきていたようだ。
「…」
「おかえり、琥珀。」
「うん、で、どうしたの?」
兄さんに喧嘩腰でものを言うことなんて、これまで無かった。
言いたいことを一方的に捲し立ててしまって決まりが悪い。
琥珀の質問に答えられないでいると、
「龍海が勘違いして、拗らせて、いじけてる。」
「え、詳しく。」
「ちがっ、兄さん!」
「たっくん黙って。たっくんの意見は後で聞きます。」
全員社会人になってから、家族の話し合い、のような雰囲気になるといつも仕切るのは琥珀だ。
こうなるともう口を出せない。
「はい、皆さん席に着いてください~」
琥珀が声をかけ、兄さんがダイニングチェアに座る。
ひとつ、ため息をついて兄さんのとなりに座った。
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