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経済不安でブラッククエストに飛びつきました3
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――こんな手のひらサイズの石ころだけで倒せって? ンなわけにいくか!
「うおぉぉぉっ!!!」
俺のあげた雄叫びは森中に響き渡る。
大地を蹴って、木を軽く足場にして飛び上がり。
「っ、とぉ!」
低空飛行する一匹 (一羽か?)に無我夢中でしがみつく。
それからそいつの首根っこを片手で引っ掴み、もう片方に持った短刀で思い切り切りつけた。
苦痛に絶叫する飛竜は瞬く間に空中をのたうち回り、落下を始める。噴水のように撒き散らされる血はドス黒くベタベタと粘着質だった。
「あぶねっ!?」
振り落とされる前に着地。そして次の瞬間には別の個体を迎え撃つ。
「やっぱり……剣の方がいいな」
不規則に飛び回り旋回し、突っ込んでくる魔獣どもを片っ端から切り伏せる。手応えとともに徐々に重くなって行く切れ味に、知らず知らずのうちに舌打ちが出る。
ああ、これだから竜は切りたくないんだ。
油っ気が多くて、すぐに刃がダメになっちまう。とは言っても、雑食とはいえ極めて草食竜に近いこいつらならその体液も脂肪もそこまで刃を錆びさせない。
少し拭う位でいいだろう。
だからまた身をひるがえし、走った。
「ベルっ、大丈夫か!」
あくまで俺の役割は、彼女が採取するためのアシスト。そこでふと目の端に鋭く尖った尾が彼女に迫るのをとらえた。
しかし。
「油断するなよ。【守護なる盾】!」
柔らかい光がほとばしり、彼女を包むと共に小さな火花が散る。
また断末魔が反響する中で少女が立ち上がり微笑んだ。
「ありがとね、スチル君」
「まったく。ちゃんと採取出来てるんだろうな」
「バッチリだよ。ほら、もう薬草はこれだけ集まったよ。キノコも」
「おい、倍以上の量だろ。もっと早く気づきなよ」
「えー? だって多い方がいいじゃん。あっ、あっちにもっとあるよ。取ってくるね」
「この森の薬草すべて乱獲するつもりかよ」
「うおーっ、がんばるぞー!」
「いやいや頑張るなと」
俺とスチルが守り、ベルがその隙に目的を果たす。これはたしかに適材適所の効率的な作戦だと思う。
俺はガチで相手に立ち向かい、実質的に防壁となるのは魔法使いであるこいつだ。
やっぱり投石じゃどうにもまどろっこしいから、こうやって文字通り身体張ってこのうるさい竜どもを仕留めていくわけだ。
その中でも彼女を攻撃するモノに対しては、防御系の魔法で守護がスチルの役目。
さらに予想以上の身体能力と動体視力は、言い方は悪いが野生動物のそれに匹敵していた。
必要な植物も、迷うことなく的確に選びとり刈り取っていく。
『えへへ。あたし少しばかり鼻がいいんだ』
照れくさそうに笑うが、前日の夜にちらりと聞いた話を思い出す。
『教会から逃げ出してすぐ、どうしてもお腹が空いてさ。薬草とかキノコとか採って、それを近くの薬屋のオヤジに売って必死で小銭稼いで食いつないでたんだよね』
それもかなり安く買い叩かれ、どうにもならなかったと困ったように笑う彼女を。
その記憶が今更ながら脳裏に浮かんできて、思わずその華奢な手を握りしめていた。
「ありがとう、ベル」
「え?」
「本当にありがとう」
ああダメだ。目頭が熱くなっちまう。そんな俺にスチルが。
「なに浸ってんだオッサン」
「痛ぇっ!」
容赦なく尻を蹴りあげできやがった。こいつもらしいというか。まあ、このガキの過去はほとんど知らないけどな。
聞いたのはパーティを追放されたことくらいだ。でも俺と違って、思い切り復讐しまくって去ったらしいけどな。
あー、こわ。
「感動すんのは後だ。次の依頼あるだろ」
「お、おう……」
いやわかるけど、別に蹴らなくてもいいじゃねえか。
だがまだまだ飛んでくる竜どもを見ると、ここは一旦は撤退が正しい気がする。
「次は小型魔獣の捕獲か」
双頭の蛇、とは言ってもその大きさは幼児なんかを軽々と丸呑みするレベルなのだが。
しかもそいつらはを好んで捕食するのが、この飛竜のような翼を持つ魔獣共なんだ。
例えば生息地は違うがコカトリスとかだな。こいつはここ数十年から生息が認められた、いわゆる複合獣。
首から上と足が雄のニワトリ。胴体と翼がドラゴン、尾は蛇という。一見すれば奇妙な見た目の生き物だ。
そういえば噂によると、どこぞの魔法使いだかが無理矢理に作り上げた禁忌の生物だとか。
俺も見たことはないが、それはもう恐ろしい見た目なのだと聞いた事がある。
そいつが好んで食べるのが蛇であると。
「まさかここにコカトリスは出てこねえよな」
「そろそろトチ狂ったか。オッサン」
「だからオッサン呼びはやめぃ、クソガキ」
さすがに虐殺の限り (言い方はすごく悪い)を尽くす俺たちを恐れたのか、飛竜どもはギャアギャアと鳴きわめきながら森の向こうに飛んでいく。
「お、これで残りの仕事がやりやすく……」
「うわあ! 大きな鳥がきたよ」
なぜか嬉しそうなベルの声に俺たちはそろって頭上を見上げた。
「すっごーい! ニワトリ? ドラゴン? 尻尾が蛇みたいだよ」
物珍しさかキャッキャとはしゃぐ彼女とは対照的に、互いに顔を見合わせる。
「うぎゃぁぁっ、コカトリスだぁぁぁッ!!!」
巨大かつ獰猛なキメラ型鳥竜種。コカトリスが空を覆うような翼を広げてこちらを睨みつけていた。
なんで生息域を軽々と超えて、こんなヤバい魔獣がいるんだよ!
俺はとっさに二人の手を引くと猛然と走りだした。
なんでかって? その殺気というかもうこっちを餌としてロックオンしちまったような面構えに、正直びびったんだ。
――森全体を震わせるような咆哮が反響する。
「うおぉぉぉっ!!!」
俺のあげた雄叫びは森中に響き渡る。
大地を蹴って、木を軽く足場にして飛び上がり。
「っ、とぉ!」
低空飛行する一匹 (一羽か?)に無我夢中でしがみつく。
それからそいつの首根っこを片手で引っ掴み、もう片方に持った短刀で思い切り切りつけた。
苦痛に絶叫する飛竜は瞬く間に空中をのたうち回り、落下を始める。噴水のように撒き散らされる血はドス黒くベタベタと粘着質だった。
「あぶねっ!?」
振り落とされる前に着地。そして次の瞬間には別の個体を迎え撃つ。
「やっぱり……剣の方がいいな」
不規則に飛び回り旋回し、突っ込んでくる魔獣どもを片っ端から切り伏せる。手応えとともに徐々に重くなって行く切れ味に、知らず知らずのうちに舌打ちが出る。
ああ、これだから竜は切りたくないんだ。
油っ気が多くて、すぐに刃がダメになっちまう。とは言っても、雑食とはいえ極めて草食竜に近いこいつらならその体液も脂肪もそこまで刃を錆びさせない。
少し拭う位でいいだろう。
だからまた身をひるがえし、走った。
「ベルっ、大丈夫か!」
あくまで俺の役割は、彼女が採取するためのアシスト。そこでふと目の端に鋭く尖った尾が彼女に迫るのをとらえた。
しかし。
「油断するなよ。【守護なる盾】!」
柔らかい光がほとばしり、彼女を包むと共に小さな火花が散る。
また断末魔が反響する中で少女が立ち上がり微笑んだ。
「ありがとね、スチル君」
「まったく。ちゃんと採取出来てるんだろうな」
「バッチリだよ。ほら、もう薬草はこれだけ集まったよ。キノコも」
「おい、倍以上の量だろ。もっと早く気づきなよ」
「えー? だって多い方がいいじゃん。あっ、あっちにもっとあるよ。取ってくるね」
「この森の薬草すべて乱獲するつもりかよ」
「うおーっ、がんばるぞー!」
「いやいや頑張るなと」
俺とスチルが守り、ベルがその隙に目的を果たす。これはたしかに適材適所の効率的な作戦だと思う。
俺はガチで相手に立ち向かい、実質的に防壁となるのは魔法使いであるこいつだ。
やっぱり投石じゃどうにもまどろっこしいから、こうやって文字通り身体張ってこのうるさい竜どもを仕留めていくわけだ。
その中でも彼女を攻撃するモノに対しては、防御系の魔法で守護がスチルの役目。
さらに予想以上の身体能力と動体視力は、言い方は悪いが野生動物のそれに匹敵していた。
必要な植物も、迷うことなく的確に選びとり刈り取っていく。
『えへへ。あたし少しばかり鼻がいいんだ』
照れくさそうに笑うが、前日の夜にちらりと聞いた話を思い出す。
『教会から逃げ出してすぐ、どうしてもお腹が空いてさ。薬草とかキノコとか採って、それを近くの薬屋のオヤジに売って必死で小銭稼いで食いつないでたんだよね』
それもかなり安く買い叩かれ、どうにもならなかったと困ったように笑う彼女を。
その記憶が今更ながら脳裏に浮かんできて、思わずその華奢な手を握りしめていた。
「ありがとう、ベル」
「え?」
「本当にありがとう」
ああダメだ。目頭が熱くなっちまう。そんな俺にスチルが。
「なに浸ってんだオッサン」
「痛ぇっ!」
容赦なく尻を蹴りあげできやがった。こいつもらしいというか。まあ、このガキの過去はほとんど知らないけどな。
聞いたのはパーティを追放されたことくらいだ。でも俺と違って、思い切り復讐しまくって去ったらしいけどな。
あー、こわ。
「感動すんのは後だ。次の依頼あるだろ」
「お、おう……」
いやわかるけど、別に蹴らなくてもいいじゃねえか。
だがまだまだ飛んでくる竜どもを見ると、ここは一旦は撤退が正しい気がする。
「次は小型魔獣の捕獲か」
双頭の蛇、とは言ってもその大きさは幼児なんかを軽々と丸呑みするレベルなのだが。
しかもそいつらはを好んで捕食するのが、この飛竜のような翼を持つ魔獣共なんだ。
例えば生息地は違うがコカトリスとかだな。こいつはここ数十年から生息が認められた、いわゆる複合獣。
首から上と足が雄のニワトリ。胴体と翼がドラゴン、尾は蛇という。一見すれば奇妙な見た目の生き物だ。
そういえば噂によると、どこぞの魔法使いだかが無理矢理に作り上げた禁忌の生物だとか。
俺も見たことはないが、それはもう恐ろしい見た目なのだと聞いた事がある。
そいつが好んで食べるのが蛇であると。
「まさかここにコカトリスは出てこねえよな」
「そろそろトチ狂ったか。オッサン」
「だからオッサン呼びはやめぃ、クソガキ」
さすがに虐殺の限り (言い方はすごく悪い)を尽くす俺たちを恐れたのか、飛竜どもはギャアギャアと鳴きわめきながら森の向こうに飛んでいく。
「お、これで残りの仕事がやりやすく……」
「うわあ! 大きな鳥がきたよ」
なぜか嬉しそうなベルの声に俺たちはそろって頭上を見上げた。
「すっごーい! ニワトリ? ドラゴン? 尻尾が蛇みたいだよ」
物珍しさかキャッキャとはしゃぐ彼女とは対照的に、互いに顔を見合わせる。
「うぎゃぁぁっ、コカトリスだぁぁぁッ!!!」
巨大かつ獰猛なキメラ型鳥竜種。コカトリスが空を覆うような翼を広げてこちらを睨みつけていた。
なんで生息域を軽々と超えて、こんなヤバい魔獣がいるんだよ!
俺はとっさに二人の手を引くと猛然と走りだした。
なんでかって? その殺気というかもうこっちを餌としてロックオンしちまったような面構えに、正直びびったんだ。
――森全体を震わせるような咆哮が反響する。
応援ありがとうございます!
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