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武揚会
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娘の伊佐に見送られ、加瀬甚蔵は四谷坂町の屋敷を出た。
今朝も伊佐は不機嫌だった。それは白阿寺の一件で、暫く家に帰らなかった事が原因だった。やっと戻れたのは昨日の夜。襲撃から七日が経っていた。その間は女中や下男が伊佐を見ていてくれるが、やはりたった一人の親の代わりにはなれない。
禄高は倍になり、給金も別で支給される。それで生活は楽になったが、家に帰れずに屯所で朝を迎える日が続いている。
「可愛いお嬢様ですね」
門前で待っていた伊平次が言った。今日は武士の恰好である。大小を腰に佩き、羽織袴を纏っている。すらっとした体躯の伊平次は、そこらの武士よりも様になっている。
「色目を使うんじゃねぇぜ」
「まさか。私とは身分が違います」
「何を言いやがる。元は武士だろ、お前さん」
「それは言えませんね」
そう言って軽く笑った伊平次の笑みには、誰も近寄らせない暗い影を帯びている。
「しかし、どうして急に。昨日までは中間の恰好だったろ」
四日前から、伊平次と二人で慈光宗の探索を本格的に始めていた。最初の二日は、羅刹道の資料を洗い出した。殺された人間の共通点を見つけようとしたのだ。そして二日前から羅刹道の捜査を名目に、慈光宗の寺院だけでなく、他の宗派の寺院を回って情報を集めた。
「あれだと何かにつけて軽く見られますからね。権威はあった方がいい」
「これからもずっと武士でいろよ。一番組は隊士が欠けているし」
「武士の間は、私を真山新之助と呼んでください」
伊平次が無視をして言った。
「真山ね。それがお前の本名かい?」
「その手には乗りませんよ。それで今日は何を?」
「巣鴨へ行こう。その道すがら、慈光宗の寺が二つある。ちょっと顔を出そうか」
「巣鴨というと、益屋ですね」
「そうだ。情報提供のお礼を言わなきゃいけないからね」
昨日一日組んでみたが、中々やりやすい男だった。話しかければ答えてくれるし、黙っていれば話さない。命令には従順だが、自分で考えて動く事も出来る。見ていていつ喧嘩を吹っ掛けるかわからない紅子とは大違いだ。それに伊平次は、笹子の鎌太郎一味の討伐や羅刹道の襲撃を一緒に生き延びた経緯がある。どこかで相棒に似た感情を抱いてしまうのも無理はない。
一つ目の寺は牛込の通寺町にある。真新しい寺だが、吹けば飛ぶような小さ建物だった。山門を潜り訪ないを入れると、ちょうど武士と妻女と思われる女とすれ違った。門徒だろうか。
住持は、甚蔵よりも遙かに若かった。二十歳も半ばだろうか。住持は羅刹道の襲撃について知っていて、まずは戦死した隊士に対し、お悔やみの言葉を告げた。
「あくまで羅刹道の一件で調べてんだがね」
と、庫裏に案内されると甚蔵が口を開いた。
しかし、住持は当然というべきか、何か真新しい事を話す事は無かった。羅刹道の関係も、「上州で討伐に協力したから」という事以外は知らないし、話さない。
そこで甚蔵は切り口を変えてみた。まず足を崩し、笑顔を見せた。
「いや、実はこういう堅苦しい御用は苦手でね。こいつがいるんで一応は様にしねぇといけねぇが、もう我慢ならん」
甚蔵は隣に座る伊平次を顎でしゃくった。
「はぁ」
「しかし、慈光宗さんも大した勢いだねぇ」
「それは民草が阿弥陀様と慈光大師様を求めておられるからでしょう」
慈光大師とは智仙の事だ。
「ちらっとすれ違ったんだが、門徒は武家も多いのかい?」
「ええ。最近は増えましたね」
「どうしてだい? やはり大奥の筋とか」
「これは、お調べでしょうか?」
住持が怪訝な表情を浮かべる。流石に訊き過ぎたかと思ったが、すかさず伊平次が、
「ご住持。これからも襲撃があるかもしれませんので、ある程度は把握しなくてはいけないのですよ。もしかしたら、大奥そのものが狙われるかもしれない」
と、割って入った。愛想のない伊平次らしくないが、間をしっかりとわきまえている。
「そうですか。仰る通り、大奥から広まっているとは思います。最近はお武家を熱心に布教をしていますので」
「ほう、それはどうして?」
「さぁ、私はそこまでは。全ては本山が差配していますので」
それ以上の話は聞けそうにないので、二人は辞去した。
二つ目の寺院は、真宗寺院に足を向けた。応対に現れたのは初老の僧侶で、慈光宗の評判を聞くと、顔を真っ赤にして批判を展開した。
これは昨日も見られた事だった。そして、その批判の殆どが〔阿弥陀如来の現生〕と詐称して、私物化している事だった。また、政治権力に近いという事を非難する者もいた。
三つ目は、小石川白山権現の裏手にある慈光宗の寺院だった。扁額には、万眼寺と記されている。白山権現の門前で茶屋を営む老爺に訊いたが、元は日蓮宗の寺院で廃寺となったところを買い取ったそうだ。
「お前」
驚いた事に、訪ないを入れて現れたのは円兼だった。
「ああ、加瀬様ではないですか」
円兼はそこまで驚いている風ではなかった。話を聞くと、住持ではなく視察の帰りだそうだ。
「隊務ですか?」
「ああ。羅刹道を追っていてね。お前さんは何か知らねぇかい?」
「いえ。知りませんし、思い出したくもありませんね」
円兼が目を伏せて言った。
羅刹道の襲撃に際し、円兼は岩陰に隠れて難を逃れたが、心に深い傷を負ってしまっている。一見して癒えたようにも見えるが、それと同時に何かが欠落したようにも思える。
「加瀬様は思い出しても平気なのですか?」
「仇を討ってないんだ。平気なわけがない。しかし、平気にもなってはいけねぇとも思う。それを背中の逃げ傷の疼きが教えてくれる」
「そうですか。やはり、加瀬様は強い。私は駄目です。今でも御門主の慈悲で傍近く仕えていますが、もう僧侶としては……」
「何故?」
「知ってしまったのです。無力さを。岩に隠れて震えていました。そして見ていたのですよ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と唱えながらも、無惨に殺されていく巡礼者たちを。どんなに、御門主が阿弥陀如来の現生した存在でも、仏眼を持つ存在でも、助けてはくれませんでしたよ」
そう言い残し、円兼は踵を返して庫裏へ消えていった。追おうとした甚蔵を伊平次が止め、首を横にした。
「また機会はありますよ」
「そうだな。昼飯でも食うか」
伊平次が小さく頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆
甚蔵は伊平次を連れ立ち、小石川掃除町にある飯屋に入った。屋号は〔いそじ〕という。この界隈をお役目で立ち入った時は、昼餉はここでと決めている店だった。
「ここは旨いぞ」
暖簾を潜ると、女将の景気のいい声で出迎えた。板場からも声が挙がる。去年の初春に店を継いだ、二代目である。
「おう、加瀬の旦那じゃねぇですかい」
板場から、二代目が出て来た。名前は憶えていないが、甚蔵の同年代の入り婿だという事は知っている。
先代の娘を女房にした二代目は、常連の心配をよそに見事な包丁捌きで店を益々繁盛させている。女房の女将は二代目より年上で、まんまるとした小太りで、表を差配する姿には貫禄があった。
「今日はお役目ですかい?」
「そうさ。ちょっとね」
「なら、奥の小上りをお使いください」
と、普段は使わないであろう、奥の座敷を指さした。
先代は長吉という男で、掃除町一帯を仕切る岡っ引きであった。料理人としても岡っ引きとしても腕っこきで、何かと忙しく働く姿を見ていた二代目は、その辺の応対も当然心得ているのだろう。
「気を遣わせるね。あっ、飯を二人分だ。今日の菜は?」
「沙魚のいいやつが入ったので、甘露煮にしています。一度串打ちにして焼いてから番茶で炊いているので、骨も柔らかく臭みもございやせんぜ。付け合わせは里芋の煮っころがしでさ」
「いいじゃねぇか。聞いてるだけで腹が鳴る。それを貰おうか」
「へい」
奥は三畳ほどの狭さだが、二人ならちょうど良い。女将から熱い番茶を受け取ると、入れ替わりのように二代目が飯を運んできた。
出されたのは、沙魚の甘露煮・里芋の煮っころがし、それに豆腐の味噌汁と、香の物が乗せた丼飯だ。
暫く二人で無言で食べた。里芋の染み具合も絶品だが、やはり沙魚だった。甘露煮の甘さが、飯に合う。伊平次も夢中に頬張っている。
「しかし、気になるな」
甚蔵は全てを平らげると、茶を啜りながら言った。
「武家の間に広がっているというのがなぁ」
「確かに不気味ですね」
「奴ら、幕府ごと乗っ取ろうって魂胆じゃねぇか?」
軽口のつもりだが、まだ食べていた伊平次が箸を止めた。
「冗談だよ。そんな大それた事をする馬鹿じゃあるまいよ」
やっと伊平次が食べ終えると、見計らったように女将が膳を下げに現れた。
「美味しかったよ」
そう言ってやると、女将がにんまりと笑み「ごゆっくり」と言って表に消えた。
「真山、お前さんどうして密偵なんかしてるんだい?」
二人になると、甚蔵は柱に背中を預けて訊いた。
「お前さんなら隊士で十分やっていけるだろ」
「加瀬様、俺には資格ってもんがないんですよ」
「資格?」
「ええ。隊士になる資格も、幸せになる資格も」
何故だ? と訊く事をさせない雰囲気が、目を伏せた伊平次から発せられていた。
「行きますか? 慈寿荘に」
「その前に手土産だ」
今朝も伊佐は不機嫌だった。それは白阿寺の一件で、暫く家に帰らなかった事が原因だった。やっと戻れたのは昨日の夜。襲撃から七日が経っていた。その間は女中や下男が伊佐を見ていてくれるが、やはりたった一人の親の代わりにはなれない。
禄高は倍になり、給金も別で支給される。それで生活は楽になったが、家に帰れずに屯所で朝を迎える日が続いている。
「可愛いお嬢様ですね」
門前で待っていた伊平次が言った。今日は武士の恰好である。大小を腰に佩き、羽織袴を纏っている。すらっとした体躯の伊平次は、そこらの武士よりも様になっている。
「色目を使うんじゃねぇぜ」
「まさか。私とは身分が違います」
「何を言いやがる。元は武士だろ、お前さん」
「それは言えませんね」
そう言って軽く笑った伊平次の笑みには、誰も近寄らせない暗い影を帯びている。
「しかし、どうして急に。昨日までは中間の恰好だったろ」
四日前から、伊平次と二人で慈光宗の探索を本格的に始めていた。最初の二日は、羅刹道の資料を洗い出した。殺された人間の共通点を見つけようとしたのだ。そして二日前から羅刹道の捜査を名目に、慈光宗の寺院だけでなく、他の宗派の寺院を回って情報を集めた。
「あれだと何かにつけて軽く見られますからね。権威はあった方がいい」
「これからもずっと武士でいろよ。一番組は隊士が欠けているし」
「武士の間は、私を真山新之助と呼んでください」
伊平次が無視をして言った。
「真山ね。それがお前の本名かい?」
「その手には乗りませんよ。それで今日は何を?」
「巣鴨へ行こう。その道すがら、慈光宗の寺が二つある。ちょっと顔を出そうか」
「巣鴨というと、益屋ですね」
「そうだ。情報提供のお礼を言わなきゃいけないからね」
昨日一日組んでみたが、中々やりやすい男だった。話しかければ答えてくれるし、黙っていれば話さない。命令には従順だが、自分で考えて動く事も出来る。見ていていつ喧嘩を吹っ掛けるかわからない紅子とは大違いだ。それに伊平次は、笹子の鎌太郎一味の討伐や羅刹道の襲撃を一緒に生き延びた経緯がある。どこかで相棒に似た感情を抱いてしまうのも無理はない。
一つ目の寺は牛込の通寺町にある。真新しい寺だが、吹けば飛ぶような小さ建物だった。山門を潜り訪ないを入れると、ちょうど武士と妻女と思われる女とすれ違った。門徒だろうか。
住持は、甚蔵よりも遙かに若かった。二十歳も半ばだろうか。住持は羅刹道の襲撃について知っていて、まずは戦死した隊士に対し、お悔やみの言葉を告げた。
「あくまで羅刹道の一件で調べてんだがね」
と、庫裏に案内されると甚蔵が口を開いた。
しかし、住持は当然というべきか、何か真新しい事を話す事は無かった。羅刹道の関係も、「上州で討伐に協力したから」という事以外は知らないし、話さない。
そこで甚蔵は切り口を変えてみた。まず足を崩し、笑顔を見せた。
「いや、実はこういう堅苦しい御用は苦手でね。こいつがいるんで一応は様にしねぇといけねぇが、もう我慢ならん」
甚蔵は隣に座る伊平次を顎でしゃくった。
「はぁ」
「しかし、慈光宗さんも大した勢いだねぇ」
「それは民草が阿弥陀様と慈光大師様を求めておられるからでしょう」
慈光大師とは智仙の事だ。
「ちらっとすれ違ったんだが、門徒は武家も多いのかい?」
「ええ。最近は増えましたね」
「どうしてだい? やはり大奥の筋とか」
「これは、お調べでしょうか?」
住持が怪訝な表情を浮かべる。流石に訊き過ぎたかと思ったが、すかさず伊平次が、
「ご住持。これからも襲撃があるかもしれませんので、ある程度は把握しなくてはいけないのですよ。もしかしたら、大奥そのものが狙われるかもしれない」
と、割って入った。愛想のない伊平次らしくないが、間をしっかりとわきまえている。
「そうですか。仰る通り、大奥から広まっているとは思います。最近はお武家を熱心に布教をしていますので」
「ほう、それはどうして?」
「さぁ、私はそこまでは。全ては本山が差配していますので」
それ以上の話は聞けそうにないので、二人は辞去した。
二つ目の寺院は、真宗寺院に足を向けた。応対に現れたのは初老の僧侶で、慈光宗の評判を聞くと、顔を真っ赤にして批判を展開した。
これは昨日も見られた事だった。そして、その批判の殆どが〔阿弥陀如来の現生〕と詐称して、私物化している事だった。また、政治権力に近いという事を非難する者もいた。
三つ目は、小石川白山権現の裏手にある慈光宗の寺院だった。扁額には、万眼寺と記されている。白山権現の門前で茶屋を営む老爺に訊いたが、元は日蓮宗の寺院で廃寺となったところを買い取ったそうだ。
「お前」
驚いた事に、訪ないを入れて現れたのは円兼だった。
「ああ、加瀬様ではないですか」
円兼はそこまで驚いている風ではなかった。話を聞くと、住持ではなく視察の帰りだそうだ。
「隊務ですか?」
「ああ。羅刹道を追っていてね。お前さんは何か知らねぇかい?」
「いえ。知りませんし、思い出したくもありませんね」
円兼が目を伏せて言った。
羅刹道の襲撃に際し、円兼は岩陰に隠れて難を逃れたが、心に深い傷を負ってしまっている。一見して癒えたようにも見えるが、それと同時に何かが欠落したようにも思える。
「加瀬様は思い出しても平気なのですか?」
「仇を討ってないんだ。平気なわけがない。しかし、平気にもなってはいけねぇとも思う。それを背中の逃げ傷の疼きが教えてくれる」
「そうですか。やはり、加瀬様は強い。私は駄目です。今でも御門主の慈悲で傍近く仕えていますが、もう僧侶としては……」
「何故?」
「知ってしまったのです。無力さを。岩に隠れて震えていました。そして見ていたのですよ。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と唱えながらも、無惨に殺されていく巡礼者たちを。どんなに、御門主が阿弥陀如来の現生した存在でも、仏眼を持つ存在でも、助けてはくれませんでしたよ」
そう言い残し、円兼は踵を返して庫裏へ消えていった。追おうとした甚蔵を伊平次が止め、首を横にした。
「また機会はありますよ」
「そうだな。昼飯でも食うか」
伊平次が小さく頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆
甚蔵は伊平次を連れ立ち、小石川掃除町にある飯屋に入った。屋号は〔いそじ〕という。この界隈をお役目で立ち入った時は、昼餉はここでと決めている店だった。
「ここは旨いぞ」
暖簾を潜ると、女将の景気のいい声で出迎えた。板場からも声が挙がる。去年の初春に店を継いだ、二代目である。
「おう、加瀬の旦那じゃねぇですかい」
板場から、二代目が出て来た。名前は憶えていないが、甚蔵の同年代の入り婿だという事は知っている。
先代の娘を女房にした二代目は、常連の心配をよそに見事な包丁捌きで店を益々繁盛させている。女房の女将は二代目より年上で、まんまるとした小太りで、表を差配する姿には貫禄があった。
「今日はお役目ですかい?」
「そうさ。ちょっとね」
「なら、奥の小上りをお使いください」
と、普段は使わないであろう、奥の座敷を指さした。
先代は長吉という男で、掃除町一帯を仕切る岡っ引きであった。料理人としても岡っ引きとしても腕っこきで、何かと忙しく働く姿を見ていた二代目は、その辺の応対も当然心得ているのだろう。
「気を遣わせるね。あっ、飯を二人分だ。今日の菜は?」
「沙魚のいいやつが入ったので、甘露煮にしています。一度串打ちにして焼いてから番茶で炊いているので、骨も柔らかく臭みもございやせんぜ。付け合わせは里芋の煮っころがしでさ」
「いいじゃねぇか。聞いてるだけで腹が鳴る。それを貰おうか」
「へい」
奥は三畳ほどの狭さだが、二人ならちょうど良い。女将から熱い番茶を受け取ると、入れ替わりのように二代目が飯を運んできた。
出されたのは、沙魚の甘露煮・里芋の煮っころがし、それに豆腐の味噌汁と、香の物が乗せた丼飯だ。
暫く二人で無言で食べた。里芋の染み具合も絶品だが、やはり沙魚だった。甘露煮の甘さが、飯に合う。伊平次も夢中に頬張っている。
「しかし、気になるな」
甚蔵は全てを平らげると、茶を啜りながら言った。
「武家の間に広がっているというのがなぁ」
「確かに不気味ですね」
「奴ら、幕府ごと乗っ取ろうって魂胆じゃねぇか?」
軽口のつもりだが、まだ食べていた伊平次が箸を止めた。
「冗談だよ。そんな大それた事をする馬鹿じゃあるまいよ」
やっと伊平次が食べ終えると、見計らったように女将が膳を下げに現れた。
「美味しかったよ」
そう言ってやると、女将がにんまりと笑み「ごゆっくり」と言って表に消えた。
「真山、お前さんどうして密偵なんかしてるんだい?」
二人になると、甚蔵は柱に背中を預けて訊いた。
「お前さんなら隊士で十分やっていけるだろ」
「加瀬様、俺には資格ってもんがないんですよ」
「資格?」
「ええ。隊士になる資格も、幸せになる資格も」
何故だ? と訊く事をさせない雰囲気が、目を伏せた伊平次から発せられていた。
「行きますか? 慈寿荘に」
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