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書類の提出と……(1)
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国家からの緊急依頼であれば依頼先のギルドに対して空欄を埋める程度の書式がギルド本部で用意され、そこに記入する事で完成する書類を提出する事で事務作業は終了となる。
今回の魔獣襲来の対策も、国王、つまりは国家からギルド本部へ依頼が出された案件であり、国家の依頼として処理されているので、穴埋め形式の書面が準備される。
この処理を実行する必要があるギルド本部の担当は、今回の功績が認められて目出度くSランクギルドに昇格した【癒しの雫】担当のラスカと、惨敗して醜態を晒したAランクギルド【勇者の館】担当のツイマだ。
基本的にほぼ全てが穴埋めで完了する書類である事は変わらないのだが、この両ギルドの為に準備される書類の中身は大きく異なる。
片や勝利してしっかりと成果を出したためにより詳しい状況を把握できるであろう【癒しの雫】と、無様に敗北しているので、知り得る情報は少ないであろう【勇者の館】。
前者は魔獣の種類、状態、今後の対策等多岐にわたる穴埋めが準備され、後者は、何故敗北したのか、どのような準備をしていたのか、どの程度の被害状況なのか、次に同じ状況になった場合にどうすれば対応する事が出来るのかと言った、やや後ろ向きの質問内容に対しての穴埋めになる。
当然一言二言で埋まるような内容ではない箇所も多数ある事は否めない。
「できました。確認をお願いします、マスター」
その様式が必要になると分かっていたラスカ。
【癒しの雫】が勝利したと聞いた瞬間から書類の準備を始めていたので、既に書類を書き上げており、出勤してきたギルドマスターであるラクロスに確認をお願いしている。
「…流石はラスカ君だ。良くできている。彼らは既にSランクギルドだから、こちらから足を運ぶのが礼儀だろう。これから頼めるかい?」
「承知しました!」
書類を持って笑顔で本部を出て【癒しの雫】に向かうラスカを尻目に、もう一つのギルド【勇者の館】担当のツイマは、未だ書類の作成にすら取り掛かれていなかった。
まさか無様に敗北するとは思っていなかったのも有るが、そもそもここまで即座に仕事をしなくてはならないと言う意識がないからだ。
「ツイマ君。君の担当の【勇者の館】用の書類はまだか?」
「は、はい。もう少々お待ちください。恐らく【勇者の館】も負傷者の対応等で混乱していると思われますので、一旦様子を見てまいります」
尤もらしい事を言ってこの場を去って行くツイマ。
一応その足は【勇者の館】に向かってはいるのだが、状況を確認した所でやるべきことは変わらないのだが、そのまま【勇者の館】に入る。
そこはツイマの予想以上の状態であった。
「おい!今回の依頼用に作った武具、いくらしたと思っているんだ!緊急依頼だから自腹で準備したんだよ。さっさと金を寄越せよ!」
「バカ言ってんな!俺達だって鍛冶の報酬を貰ってねーんだよ!」
「お前ら、黙れ!まだこの依頼の処理が本部側で出来ていない。そこから報酬が支払われてからの処理になる。そこまでは大人しくしておけ!」
早くも報酬に関するトラブルで冒険者や所属の鍛冶士らしき者達からのクレームを、何とか【勇者の館】の事務職を統括しているルーニーが抑え込んでいた。
そんな中に不用意に入って行ったツイマ。
当然ルーニーの視界に入ってしまい、早速声をかけられる。
「ツイマさん!早く書類を持ってきてください。ご覧の通り、ルーカス様が養生しているので、本部からの褒賞がないと彼らを抑えきれません!」
ギルドマスターのルーカスが万全であればこのような状態にはなっていない【勇者の館】。
Sランカーに逆らえる様な者がいないために、ある意味鶴の一声で大人しくなるのだが、今ルーカスは毒による攻撃を受けた結果、暫く養生している。
つまり、誰も手綱を握れる者がいなくなっているので、このようなAランクギルドにあるまじき状態、更に言うと、元Sランクギルドとは想像もできない状態になっている。
「うっ、そ、そうですね。わかっていますよ」
ルーニーの勢い、そして周囲の冒険者達の剣幕を受けたために、かろうじて了承するツイマだが、その心の中では、今迄どれだけ催促して書類を提出していなかった癖に…と言う思いが渦巻いている。
今回の魔獣襲来の対策も、国王、つまりは国家からギルド本部へ依頼が出された案件であり、国家の依頼として処理されているので、穴埋め形式の書面が準備される。
この処理を実行する必要があるギルド本部の担当は、今回の功績が認められて目出度くSランクギルドに昇格した【癒しの雫】担当のラスカと、惨敗して醜態を晒したAランクギルド【勇者の館】担当のツイマだ。
基本的にほぼ全てが穴埋めで完了する書類である事は変わらないのだが、この両ギルドの為に準備される書類の中身は大きく異なる。
片や勝利してしっかりと成果を出したためにより詳しい状況を把握できるであろう【癒しの雫】と、無様に敗北しているので、知り得る情報は少ないであろう【勇者の館】。
前者は魔獣の種類、状態、今後の対策等多岐にわたる穴埋めが準備され、後者は、何故敗北したのか、どのような準備をしていたのか、どの程度の被害状況なのか、次に同じ状況になった場合にどうすれば対応する事が出来るのかと言った、やや後ろ向きの質問内容に対しての穴埋めになる。
当然一言二言で埋まるような内容ではない箇所も多数ある事は否めない。
「できました。確認をお願いします、マスター」
その様式が必要になると分かっていたラスカ。
【癒しの雫】が勝利したと聞いた瞬間から書類の準備を始めていたので、既に書類を書き上げており、出勤してきたギルドマスターであるラクロスに確認をお願いしている。
「…流石はラスカ君だ。良くできている。彼らは既にSランクギルドだから、こちらから足を運ぶのが礼儀だろう。これから頼めるかい?」
「承知しました!」
書類を持って笑顔で本部を出て【癒しの雫】に向かうラスカを尻目に、もう一つのギルド【勇者の館】担当のツイマは、未だ書類の作成にすら取り掛かれていなかった。
まさか無様に敗北するとは思っていなかったのも有るが、そもそもここまで即座に仕事をしなくてはならないと言う意識がないからだ。
「ツイマ君。君の担当の【勇者の館】用の書類はまだか?」
「は、はい。もう少々お待ちください。恐らく【勇者の館】も負傷者の対応等で混乱していると思われますので、一旦様子を見てまいります」
尤もらしい事を言ってこの場を去って行くツイマ。
一応その足は【勇者の館】に向かってはいるのだが、状況を確認した所でやるべきことは変わらないのだが、そのまま【勇者の館】に入る。
そこはツイマの予想以上の状態であった。
「おい!今回の依頼用に作った武具、いくらしたと思っているんだ!緊急依頼だから自腹で準備したんだよ。さっさと金を寄越せよ!」
「バカ言ってんな!俺達だって鍛冶の報酬を貰ってねーんだよ!」
「お前ら、黙れ!まだこの依頼の処理が本部側で出来ていない。そこから報酬が支払われてからの処理になる。そこまでは大人しくしておけ!」
早くも報酬に関するトラブルで冒険者や所属の鍛冶士らしき者達からのクレームを、何とか【勇者の館】の事務職を統括しているルーニーが抑え込んでいた。
そんな中に不用意に入って行ったツイマ。
当然ルーニーの視界に入ってしまい、早速声をかけられる。
「ツイマさん!早く書類を持ってきてください。ご覧の通り、ルーカス様が養生しているので、本部からの褒賞がないと彼らを抑えきれません!」
ギルドマスターのルーカスが万全であればこのような状態にはなっていない【勇者の館】。
Sランカーに逆らえる様な者がいないために、ある意味鶴の一声で大人しくなるのだが、今ルーカスは毒による攻撃を受けた結果、暫く養生している。
つまり、誰も手綱を握れる者がいなくなっているので、このようなAランクギルドにあるまじき状態、更に言うと、元Sランクギルドとは想像もできない状態になっている。
「うっ、そ、そうですね。わかっていますよ」
ルーニーの勢い、そして周囲の冒険者達の剣幕を受けたために、かろうじて了承するツイマだが、その心の中では、今迄どれだけ催促して書類を提出していなかった癖に…と言う思いが渦巻いている。
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