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(17)聖盾ルナ

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 魔王モラルの背後に控えるように三傑の三人立っているので、最早何があっても前回のような醜態を晒す事は無いと確信している魔王モラル。

「よし。これで良かろう」

 こうしてモラルの力によってルナは多少の疲労感があると言う程度にまで回復されたのだが、これがルナにとって良かったのかは別問題だ。

 意識が混濁した状態から復活した瞬間に、目の前には少し前の広場で魔物に囲われた時以上の絶望が待っていたのだから。

「な、何故貴様達が生きていやがる?」

「これは異な事を言う。そなたらの攻撃程度で我らに致命傷を与えたと思うたか?この階層程度の魔物に四苦八苦するような攻撃が、本当に我らに致命傷を与えたと思うたか?滑稽。実に滑稽。そのような認識しか持てない連中である為に、仲間、いや、仲間の振りをしている連中を切って捨てるのも容易いのだろうな。そして最終的には自分も切って捨てられる」

 本当は実際に致命傷を食らっていたのだが、その時とは既に力の次元が異なっている上に、絶望を与えるためにあえてこのように伝えている魔王モラル。

 魔王モラルと三傑に一切のダメージがないと言う有り得ない事実と、仲間ではない為に裏切り、裏切られると言う醜い争いが起こっていると言う耐えがたい事実によって言葉を無くす<聖盾>のルナ。

「それで。私をどうしようってんだ?魔物の餌か?」

 口調だけは強がっているのだがその足は震えており、何とか言葉を発している状況になっているルナ。

「フハハハ、見苦しいの~。しょせんそなたは見捨てられた囮、何の価値もない駒。その程度の価値しかない者が我が至高のダンジョンの養分になれると思う事もまた不敬。良く聞くのじゃ。その方は温情。いや、そもそも温情を掛けるほどの価値すらない者として無事に放逐してやる。だがの、その方が勇者パーティーから受けた蛮行と、このわらわの無事。つまりは任務失敗をきっちりと報告するのが条件じゃ」

 自らが始末したはずの魔王一行が無事であり、その相手が自分を無事に地上に戻すと言っている。
 それも、有り得ない程に好条件で……だ。

「何が望みだ!」

 当然裏があるだろうと思い、ルナは睨みつけるのだが…‥‥

「貴様、余程死にたいのか!」

 その行動を見た三傑の一人であるクロックが、余りにも不敬な態度である為に軽く殺気をルナに叩きつけた。

「ひっぅ……」

 もちろんこの程度の殺気でも、ルナにとってみれば最大の恐怖以外の何物でもない。
 腰は抜け、歯はガチガチと音を鳴らしている。

「クロック。その程度にしておけ」

「承知しました。モラル様」

 あまりにも情けない態度のルナを見て、取り敢えず殺気を抑えるように指示を出すモラル。
 
「間もなくお前以外の勇者パーティーは地上に到着する。かち合うと面倒だろうから、そなたには数時間程度この場に留まって貰おうと思っておる。だが安心せい。その間に魔物がそなたを襲う事は無い。時間が来れば、一階層の入り口付近に転移しておいてやる。その間は自力で体力を回復せよ。流石にこれ以上回復の面倒は見んぞ」

 これだけ伝えると、四人はルナの前から姿を消した。

 一人この場に取り残されたルナ。

 魔王最後のセリフから、意識混濁状態からここまで回復させたのも恐らく魔王その人だと言う事位は分かるが、そうしなくてはならない理由に納得できる事は何一つ無い。

 いくら自分がダンジョンや魔王にとって無価値だったとしても、態々回復させたり、魔物の脅威から守ったりする事に繋がらない。

 勇者パーティーとしての任務は今起こった現実から判断すると確実に失敗しており、魔王からの交換条件としてパーティーの蛮行まで含めて事実を伝える事になるのだが、命に比べれば何と言う事は無い。

 この交換条件の一連の流れが魔王に何のメリットもないので訝しむのも当然だが、命には代えられないし、何より自分自身が勇者の蛮行を糾弾したい思いが強い。

 任務失敗の責程度は、甘んじて受けようと覚悟を決めていた。

 腹を決めたルナは魔王の指示通りに体を休め、周囲への警戒も一切行わなかった。
 その分回復速度は上がるのだが、魔物に襲われればひとたまりもない。

 しかし、ルナとしては警戒していても歯が立たない魔物に意識を持って行っても仕方がないし、何故かあの魔王の言葉は信頼できると思っていたのだ。

 そのおかげか、すっかり体力・魔力・気力共に完全回復したルナ。

 恐らくその姿を監視していたのであろう魔王の声が、ダンジョンから聞こえてくる。

「約束通りお前を入り口に送る。その後の行動、忘れるでないぞ」

 その言葉が終わった瞬間、目の前には外の日の光が差し込んでいる入り口が見えたのだ。

「ハハハ、ハハハハハ!戻ってきたぜ。無事に、戻ってきたぜ!」

 歓喜のルナ。

 だが、一瞬でその表情は厳しい物に変わる。
 そう、勇者パーティーに対しての恨みによるものだ。
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