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執務室にて

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 ティータイムが始まり、しばらくの間自己紹介やら他愛もない会話を続けていた。その中で私は、ただただ質問されたことに答えるだけだった。ダリア様のことを「夫人」と私は呼んでいたのだが名前で呼ぶようにと念を押されてしまった。私はダリア様の孫であるのだから「お祖母様」と一度呼んだのだけれど……。思い出すのも怖いような目で見られてしまった。夫人のことをダリア様と呼べば、子爵のことさえも「ダグラス様」と名前で呼ぶようにと言われてしまった。私が二人を名前で呼ぶのであれば私のことも名前で呼んでほしい、敬語もやめてほしいと頼めば少し躊躇していたが了承してくれた。

「そろそろ、リュシエンヌちゃんが執務室の前まで来ていた理由を聞いてもいいかしら」
 
 ティーカップの中が半分になってきた頃、ダリア様がそう言った。ダグラス様も頷いている。今、こう話してきて二人が両親のような人たちでないのはわかっている。それに今日のあった当初よりもどんな人なのかはわかってきているのだけど。それでも、このことを聞くのはすこし躊躇した。だけど、きっとこの人たちであれば。

「夕食の際、ダリア様がおっしゃっていた言葉の意味がよくわからなかった、からです。その言葉の意味を聞きたくて」

 絞り出したその声は、静かな執務室には十分な声量で。二人の耳までちゃんと届いた。

「それは私があなたのことを大切、といったこと?」
「はい」

 私がそれをなぜ疑問に思っているかをちゃんと全て話さなきゃ。私は一息ついて口を開いた。

「私は閣下にも公爵夫人にも愛されたことがないし、大切にされた覚えもありません。だから、なぜ初対面であるあなた方が私のことを大切に思ってくれているのかが分かりません。それに私は、お母様を殺してしまったも同然ですから」

 一度言葉を紡げば、次々に言葉が出てきた。答えはまだ聞けていないというのに、何か気持ちが軽くなった。

「リュシエンヌちゃん。私たちはあなたに娘を殺されたなんて一つも思ってないわ。だからそう思い込まないで。逆にあなたに感謝してるのよ?」
「ぇ」

 私は小さく驚嘆の声を漏らす。私を優しく見つめながらダリア様は私の隣に腰掛けた。

「だって、こんなにも可愛く生まれてきてくれたのだもの。ターニャにも感謝しないとね。こんなに可愛い孫を産んでくれてありがとうって」

 ダリア様は割れ物を触るかのようにそーっと私の頬を撫でた。そこから感じる体温はとても温かかった。どうしてこんなにもダリア様は温かいのだろう。

「わ、私が疎ましいのではないのですか」

 私の中の不安が一つこぼれ落ちた。そこをなぞるように一つ。また一つと。溢れ始めて仕舞えば抑えが効かなくなってしまった。
 
「私に今まで会いに来てくださらなかったじゃないですか。大切だってそう言われてもならなんで会いに来てくださらなかったんですか!会いに来てくださってたら私――」

 リリアを殺そうとしなかった。そこから先は言わなかった。今、私がこうやって怒ってしまっているのもただの責任転嫁だ。誰かが本当に私のことを大切に思ってくれていたら、私を愛してくれていたら、何か変わったのだろうか。いや、それはわかりきっている。答えは変わらない。だって私は両親からの愛を求めていたのだから。自分ではわかっているのだ。だけど今私は理不尽にダリア様達を怒鳴りつけている。

「あ、ごめんなさい。ダリア様達に罪はないのに」

 血が昇ってしまった頭はすぐに冷えた。今自分がしてしまったこと。どんな表情で二人が私を見つめているのかを理解すれば今すぐにこの場から消え去ってしまいたかった。

「私、へやに――」

 私はダリア様にいつの間にか抱きしめられていた。
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