スピリット・マイグレーション

ヘロー天気

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狭間世界編

第九話:暗躍する者達




 四大国の代表が集まったカルツィオ聖堂。
 和平会談の報告会が行われようとしている中、コウはこの会場に潜入している栄耀同盟敵対勢力の工作員とその協力者達に『目印の花』を付与(強制)して回っていた。

 概ね配り終えたコウは、栄耀同盟工作員の中でもリーダー格と思われる壮年男性から読み取った情報に重要なモノがあったので、対処する事を考えていた。
 その内容は、今日ポルヴァーティアからやって来る大使一行の中にも、栄耀同盟の同志が紛れ込んでいる、というモノだった。

(今のうちにユースケおにーさんに報せておこうかな)

 一旦闇神隊のところへ戻ろうとしたコウだったが、カルツィオ聖堂の周囲を監視している見張り役より、汎用戦闘機接近の報が発せられた。

(あれ、来ちゃったか。じゃあ先にマーキング済ませちゃおう)

 それから間もなく、ポルヴァーティアから派遣された大使達の到着が告げられた。

「どれ、緊張しておるじゃろうからワシが案内してやろうかの」
「ヒヴォディル、お前もGOだ! またアユウカスさんに全部持ってかれるぞ」
「そ、そうかっ、ここは同じく向こうに出向いた僕の出番だね!」

 ポルヴァーティアの大使達と顔見知りになっているアユウカスが出迎えを買って出るも、彼女の狙いを読んだ悠介がフォンクランク代表のヒヴォディルを嗾ける。

「ええい、敏くなったのう!」

 抜け駆けの阻止を講じられたアユウカスが、ぼやきながら駆け足になる。皆の注目がそちらに向いている隙に、コウは一足先に大使達のところへ向かった。


 並んで着陸した汎用戦闘機から、ポルヴァーティアの大使達が下りて来た。彼等を案内するべく集まる警備兵に交じって近付いたコウは、さっそく内面を読み取りながら魔力の花を付与する。

「ようこそー、これどうぞ」
「ああ、ありがとう」

 大使達は『そういう演出なのだろう』と、特に気にせず歓迎の花を受け取った。そんな彼等の内心からは、不安と期待の入り混じった心情が読み取れた。
 指導者や価値観の異なる複数の国家が共存するという、ポルヴァーティアには無い統治システムを持つカルツィオの大地。
 自分達がそれぞれどの国に派遣されるのか、そこでの生活に想いを馳せているようだ。そこへ、アユウカスが駆け足でやって来た。その後ろから追いかけるようにヒヴォディル達が続く。

「むむ? いつのまに」

 コウの存在を認めたアユウカスが、『先を越されたか?』と一瞬訝しむ表情を見せた。
 今回派遣されて来た大使達の中には、ポルヴァーティアの魔導技術に詳しい者と、そうでも無い者とが居る。
 技術に詳しい者を、人材交流役の大使として自国に招き入れられるか否かは、各国代表の交渉力と努力次第。その最初の一手は――単純に早い者勝ちである。
 アユウカスが真っ先に動き、その意図を理解する悠介がヒヴォディルを嗾けた背景には、そういう事情があったのだ。

「おおっ、アユウカス殿、それにヒヴォディル大使も」
「此度はよく来てくださったのぅ。ささ、会場へ案内しよう」
「先日ぶりですね。是非我々こちらの文化を楽しんで行って下さい」

 ポルヴァーティアでの和平会談で席を共にした大使が、アユウカスとヒヴォディルの出迎えに顔をほころばせる。
 彼等ポルヴァーティアの大使達にとって、カルツィオは未知の世界である。なので知り合った仲の人間が居る事は心強く感じるようだ。
 コウは、そんな彼等双方から情報を読み取っては、レポートを纏めていた。
 大使達の約半数は、アユウカスやヒヴォディルとも面識がある壮年の者達で、真聖光徒機関しんせいこうときかんの中でも高い地位にある。残りの半数はこれからの新しい時代を担うべく選出された若者達であった。
 ――その中に二人ほど、栄耀同盟の関係者が居た。

(チェックおーけー)

 悠介達に報告する内容をまとめたコウは、情報収集と事前準備の結果に満足しつつ、大使達一行と、彼等を出迎えたアユウカスやヒヴォディル達に交じって聖堂内へと戻るのだった。

 会議室に戻ると、唐突に濃厚な魔力が空間から染み出すように広がり、朔耶が現れた。どうやら地球世界から直接この会議室に転移して来たらしい。

「うん? やほー、悠介君」

 朔耶は現れるなり怪訝な表情を浮かべると、何時もよりテンション低めに何時もの挨拶をする。

「こんちゃー、どうかしましたか? コウ君、こっちこっち」

 悠介も朔耶の様子に小首を傾げつつ挨拶を返すと、コウに手を振って呼び寄せる。花配りの意図を尋ねようと考えているようだ。

「うーん、何かあたしの精霊が『戦いの気配が膨らんでる』って警告してるんだけど」
「それは……」

 朔耶が使役する精霊『神社の精霊』から、危険が迫っている旨の警告が発せられているという。二人のところにやって来たコウは、挨拶がてらその警告に関連する情報を提供した。

「やほー朔耶。それって『栄耀同盟えいようどうめい』って人達の事だと思うよ」
「栄耀同盟?」
「今ガゼッタとかでこそこそ動いてるポルヴァーティアの工作員みたい」

「っ!」
「!?」

 カルツィオに潜伏して活動しているポルヴァーティア人系の組織だが、向こう側ポルヴァーティアでも存在が公にされていない地下組織らしく、真聖光徒機関とも対立している武装集団。今現在、この会場にも何人か確認している。

 コウの割ととんでもない情報提供で闇神隊の空気が変わる。悠介の近くをキープしている闇神隊の中でも、戦闘力の高いシャイードとヴォーマルが警戒態勢に入った。
 他のメンバーもさり気なく間合いを詰めて、悠介隊長を護るように周囲を固めている。

「コウ君、それってもしかして、当人達から読み取った?」
「うん、それで目印つけてたんだ」

 悠介の問いにそう答えたコウは、皆に付与して回った装飾魔術によって作り出した『魔力の花』の効果と狙いについて説明した。
 後から特定の魔力を足す事で、任意の色に変えられる魔力の花。これを付与する事で目印とし、警備兵に紛れ込んでいる栄耀同盟の工作員など、明確な害意を持つ者をまとめて燻り出す。

「そんな意図があったのか……」
「その栄耀同盟ってのは、ここで何か起こす気なのか?」

 周囲を警戒しつつ、声を潜めながら訊ねるヴォーマルに、コウは栄耀同盟の計画と段取りを説明した。

「えっとねー、先に外のなかまが砲撃で騒ぎを起こして、それから作戦開始するんだって」
「作戦?」
「アユウカスさんと、ついでにユースケおにーさんの暗殺を狙ってるみたい」
「……」

 顔を見合わせる闇神隊の面々。彼等もガゼッタの不穏な動きの裏には、ポルヴァーティアの暗躍があったところまでは掴んでいたらしい。
 コウの諜報活動により、それらの概要が詳細に示された。あまりにあっさりと明かされた事で、少々戸惑っているようだが。

「朔耶が来たから、マークしてる人教えるね」

 流石に他の人達に聞かれるとマズい情報なので『交感』を求めて朔耶を見上げると、その意図を読み取った彼女は意識の糸を繋いで交感に応じた。コウはさっそく『工作員情報』を提供する。

『この人と、この人はリーダー役の人だから特に注意』
――右の奥にいる二人組みの警備兵ね。把握したわ――
『あと、ガゼッタの人達はほとんど利用されてる感じだよ』
――ふむふむ、黄色い花の人は反応見てから処置を決めればいいのね――

 コウは朔耶と朔耶の精霊向けに、記憶情報から直接人物像のイメージを送っては、栄耀同盟の工作員と覇権主義勢力の若者との関係についても捕捉する。
 そうして優先的に制圧すべき相手を絞っていく。やがて、コウが『要警戒』に指定した複数人の工作員の位置などを覚えた朔耶が顔を上げた。

「おっけい、大体捉えたわ」

 この会議室内に居る要警戒指定人物に『意識の糸』を結び付けたので、不審な動きをすれば即座に鎮圧出来るそうな。

「何か頼りっ放しで申し訳ない」
「気にしないで。こういうのは出来る人が出来る事をやればいいのよ」

 情報収集から襲撃対策まで、本来は部外者である筈のコウと朔耶に頼り切りになっている状況を詫びる悠介だったが、朔耶は手をひらひらさせてそう答えた。
 そして、会議室内を見渡しながら付け加える。

「ただ見落としも居そうだから、警戒はしておいてね」

 朔耶の忠告に、闇神隊のメンバー達は悠介の近くに集まる。ポルヴァーティアの大使達が会議室に用意されている席に着き、いよいよ報告会が始まろうとしていた。

 ふと、中央のテーブルを挟んだ正面に陣取るアユウカスに視線を向けた悠介が呟く。

「アユウカスさんにも教えておいた方が良さそうだけど」

 悠介と目が合ったアユウカスは、コウ達との『密談』が一段落したと見たのか、声を掛けて来た。

「お主達、なにやら深刻な顔で話しておったな。大事な話かえ?」

 アユウカスがそう訊ねると、ブルガーデンとトレントリエッタの代表もこちらに注目する。
 悠介の隣に立つコウは、同じく反対隣をキープする朔耶と共に悠介に視線を送った。事を起こすタイミングを悠介に託す。すなわち、栄耀同盟の工作員が動く前に摘発して制圧するのだ。

「……」

 悠介は現状を確認しながら、慎重に考えを巡らせている。『――今なら、作戦開始前の敵の不意を突ける』そんな心情が読み取れた。一つ深呼吸をした悠介が闇神隊メンバーを振り返る。
 彼等との短いやり取りを通して『隊長の判断に任せます』という意思表示を受けた悠介は、コウと朔耶に目配せを返すと、自身の正面に光の枠を浮かべた。
 カルツィオの邪神・田神悠介の能力、あらゆる物質に干渉して改変する『アイテム・カスタマイズ・クリエート』のメニュー画面だ。

 本来は悠介本人と、邪神の力に共鳴して模倣する能力を持つアユウカスにしか視認できない画面だが、コウの視点からはハッキリ視る事ができた。ちなみに、朔耶にはうっすらと視えるらしい。
 メニュー画面にはカルツィオ聖堂の全体図が表示されている。
 悠介は、聖堂が砲撃を受けても直ぐに修繕できるよう準備をしながら、アユウカス達に向き直って告げた。

「実は、この前アユウカスさんが言ってたガゼッタで暗躍してる集団が、この聖堂内に潜入してる事が分かりました」
「ほう……」

 悠介の発言に、スッと目を細めるアユウカス。彼女を護衛している戦士達も表情を険しくすると、周囲に警戒の視線を向け始める。

「その口ぶりから察するに、其奴そやつ等の目星は付いておるのかの?」
「ええ、大体は把握出来てるみたいです。後、連中の計画も掴んでます」

 ざわつく会場。警備兵の何人かが顔を引き攣らせている。悠介は、ちらりと朔耶に視線を向け、軽く頷きを返されると、ここで仕掛けた。

「という訳でコウ君、頼む」
「はーい」

 朔耶が魔法障壁を展開するのを確認しながら、コウは部屋の全体を見渡せる位置へと移動すると、両手を広げて宣言した。

「まりょくほうしゃー」

 部屋の隅々まで行き渡るよう放射状に魔力を放ち、装飾魔術の花に変化を起こす。聖堂の警備兵やポルヴァーティア大使達の胸元で白く光っていた花がひときわ輝くと、黄色や赤色に変わった。

「おお?」『光が強くなったぞ?』
「これは……」『何が始まるのだ?』
「一体なにを――」『余興か?』
「っ!?」『マズい! 我々の仲間がバレている!』

 戸惑う者、感嘆する者、訝しむ者が居る中で、色の規則性に気付いて狼狽する者達が居た。コウはそんな彼等の内心を読み取りながら、変化した花の色の意味を告げる。

「赤い花を持ってる人はポルヴァーティアの栄耀同盟えいようどうめいっていう組織の人だよ。黄色い花を持ってる人はガゼッタの覇権主義勢力派の人」

 胸元で煌々と光る花が、実に分かり易くその者の所属を示し、敵味方を判別してみせた。

「ボク、人の心が読めるんだ」

 ザワリッ――という一瞬の大きなどよめきと共に、赤色の花と黄色の花をつけた警備兵が、一斉に周りから距離を取られた。

「く、くそ!」『と、とにかく行動しなければ!』

 黄色い花をつけた若い兵士の一人が考え無しに剣を抜く。すると、彼と同郷である同じく黄色い花をつけた二人の若い兵士も、つられて剣を抜こうとした。

『え、ここでやるのか!?』
『段取りと違うけど良いのか!?』

 しかし、アユウカスの近くにいたその二人は、カカーーンという乾いた音を響かせる朔耶の電撃を受けて倒れ伏した。
 最初に剣を抜いた兵士や、赤い花をつけた兵士は、周りの兵士達に威嚇されて動けない。

 その時、外から何かが爆発したような轟音が響いて建物全体に振動が走った。栄耀同盟の工作員が内心で『同志の砲撃だ!』と、本来の襲撃の合図に反応している。
 彼等の元々の計画では、この砲撃による混乱に乗じて暗殺を実行する手筈だったのだ。
 聖堂の壁が破壊されれば、まだ巻き返しのチャンスはある――彼等が内心でそんな事を思った瞬間、壁や床が光に包まれ、小さな光の粒を立ち昇らせながら消えた。
 悠介が聖堂の建物全体にカスタマイズを反映させて補強と修繕を施したのだ。爆発音はまだ続いているが、壁を叩く音は遠くなり、振動もほとんど伝わって来なくなった。

「ユースケか?」
「ええ。外から砲撃されたんで、聖堂を補強しました」

 アユウカスの問いに答える形で、会議室内の全員に現状を伝える悠介。出入り口も封鎖したので、脱出も侵入も不可能。そうして敵対勢力に降伏を呼び掛けた。
 皆が注目する中、敵対勢力の印赤い花をつけられた面々は顔を見合わせると、一人の壮年男性が歩み出た。朔耶に『要警戒指定』したリーダー格の者とは別の工作員だ。

「流石はカルツィオの勇者か……どうやら我々の計画は失敗のようだ」

 彼の後に続くように、赤い花をつけた警備兵――に化けた栄耀同盟の工作員が、会議室の開けた一角に集まる。
 白い花をつけた味方の警備兵達が、彼等を包囲しようとしたその時、工作員の内心を探っていたコウは、『死なば諸共』的な思考を感じ取り、そちらに意識を集中させた。

 そうして読み取れた内容は『銃で奇襲すれば、剣を使う野蛮人共に遅れはとらない』という自信の籠もった、攻撃性の高い『決意』だった。

(あ、これマズいかも)

 栄耀同盟の工作員は、この状況から起死回生の行動を起こそうとしている。そう判断したコウは直ちに警告を発した。

「拳銃みたいな武器で不意打ち狙ってるよ!」
「っ!」

 コウが警告を発するのと、栄耀同盟の工作員達が動いたのは同時だった。
 懐から、腰から、袖の中から、それぞれ忍ばせていた魔導拳銃――ボウガンを小型化したような形の護身用携帯武器を取り出して周囲に発砲したのだ。
 ほぼ無差別な乱射だったが、リーダー格の工作員は明確にコウと、暗殺対象であるアユウカスを狙い撃ちにしていた。
 彼等の使う魔導拳銃は射程こそ短いものの、至近距離であれば十分な殺傷力を誇る。

 パシッと音がして視界がぶれ、コウは背中から倒れた。どうやら頭を撃ち抜かれたらしい。次の瞬間には青白い閃光と共に乾いた音が響いたので、朔耶が速攻で鎮圧したようだ。
 コウは倒れた状態のまま、喧噪の中を飛び交う人々の思考を読み取り、会議室の状況を把握する。闇神隊とその周囲は、朔耶の護りがあるので当然ながら無傷。
 アユウカスも無事であると確認出来た。しかし、今の玉砕攻撃で数人の負傷者が出たようだった。

(うーん、ボクも警告だけじゃなく制圧に協力しておけばよかったかな)

 死者が出なかったのは不幸中の幸いとしつつも、コウは諜報の役回りに拘り過ぎたかと、少年型召喚獣の損傷修復を待ちながら考えていた。

「おい、まだ息があるぞ!」
「しかし、頭を射貫かれたように見えたが……」
「水技の使い手は!」

 コウが倒れた近くには、ブルガーデン国とトレントリエッタ国の代表達が居て、双子姉妹っぽい女官や、緑メッシュでボーイッシュな赤髪の女性と、どこかエルメールにも似た雰囲気で豊満な身体ボディを持つ豊かな緑髪が特徴的な女性が、兵士達に交じって心配そうに集まって来ていた。
 治癒の力を持つ水技の使い手が駆け付けたが、コウの頭部の銃創がみるみる塞がっていく様子に戸惑っているようだ。
 やがて、活動可能な状態まで回復したコウは、元気に立ち上がる。

「ふっかつ!」

 頭部の穴は既に塞がっており、痕も残っていない。集まっていた人々からどよめきが上がった。

「お、おい、大丈夫なのか?」
「うん、心配してくれてありがとうね」

 唖然としているボーイッシュな緑メッシュの女性に礼を言ったコウは、とりあえず朔耶や悠介達と合流して次の行動に備える事にした。



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