スピリット・マイグレーション

ヘロー天気

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狭間世界編

第十八話:諸々の事後処理




 どこか騒然とした空気が漂っている、一夜明けたパトルティアノースト。
 伝書鳥で中枢塔に帰って来たコウは、出迎えに現れたアユウカスに、外で見つけた拠点は無力化した事を報告した。

「もしかしたら、まだ他にも拠点があるかも」

 既に完成している機動甲冑が何機か稼働中らしい事、パトルティアノースト内にも隠されている可能性がある事などをアユウカスに伝える。

「うむうむ、よくやってくれた。ご苦労じゃったなぁ」

 コウの働きを労うアユウカスは、栄耀同盟の『切り札』の正体も分かったので、さっそく対策を練らねばと考えているようだ。

「ところで対策と言えばコウよ、実はお主の事で今ちと面倒な話になっておってな」
「ふむふむ?」

 アユウカスは、コウがおこなった諜報活動に関する流れで、少し騒ぎが起きていると告げる。

 ――時は少し遡り、コウが栄耀同盟の拠点で自爆装置に偽装工作を仕掛けたりしていた頃。深夜のパトルティアノーストでは、コウが集めて来た情報をもとに覇権主義派のアジトを急襲、幹部と構成員を拘束する一斉取り締まりが行われていた。

 事前に部隊を編成するなどの準備は一切無く、突発的に行われたこの作戦によって完全に不意を突かれた覇権主義派は、次々に身柄を押さえられた。彼等と活動を共にしていた栄耀同盟の構成員も、把握している凡その総数の半数近くを捕らえる事が出来た。

 これでパトルティアノースト内の覇権主義派と栄耀同盟の拠点をほぼ壊滅させられたが、両組織の指導者達がまだ見つかってない。
 栄耀同盟の魔導兵器を使った反撃が警戒される中、パトルティアノーストは厳戒態勢に移行したまま朝を迎えた。

 今回の騒ぎは軍民問わず、この街に住む殆ど全ての住人にとっても寝耳に水の出来事であった。兵舎で寝泊まりしていたタリス達もこの突発作戦の最中に叩き起こされ、同僚の何人かが覇権主義派として逮捕されていく中、即席の取り締まり部隊に編入されて朝まで走り回る事になった。

 この時、普段は囚人の取り調べなどには関わらない白刃騎兵団に所属する戦士達が、人手不足もあって臨時で取調室の監視任務に就いたのだが、その監視役にタリスの姿もあった。
 そして取り調べが進められていく内、タリスに籠絡工作が行われていた事が明らかになった。
 更にはその籠絡工作員として、先日タリス達と知り合い、訓練場に招待された少女フョルテが、覇権主義派の実行部隊に拉致されて洗脳を受けたらしい、という話が漏れ広がったのだ。

「それで、一部の戦士達からフョルテという娘の捜索と救出を嘆願されておってなぁ」
「あー」

 一応、コウには秘密裏に動いてもらっていたので、今の状況で少女フョルテの正体を明かすのは少しまずい。

「まあ問題と言うほど深刻なものではないがの、お主の暗躍を隠蔽する為には、件の娘フョルテの存在を明確にして処理する必要がある」

 このまま行方不明にして放置すると、一部とはいえ若い戦士達の間に不信感をもたらし、全体の士気にも悪影響を与え兼ねない。ただでさえ同僚の戦士達が大勢『反逆者』として摘発されている現状、少しでも戦士達の心を癒す吉報をと考えるアユウカスから、一つの提案を持ち掛けられた。

 コウにはもう一度フョルテになってもらい、タリス達と会ってきちんと話をした上で、街を離れるなどして別れるという計画。

「気持ちにケジメを付けさせてやってくれんかの」
「いいよー」
「相変わらず小気味良い返事よの」

 いつもながらの、コウの迷う素振りも見せない即行の了承に、カッカと笑うアユウカスであった。

 そうしてこの日の昼前。コウの変装によって生み出された架空の少女フョルテは、覇権主義派と栄耀同盟による陰謀の被害者という立場で、タリス達と再会した。

「フョルテちゃん……」
「皆さん、ご心配をおかけしました」

 天才魔導技師アンダギー博士が手掛けた『奉仕用女性型召喚獣ハイエンドクラス』の人気モデル。搭載されている演出効果の中から、この場に最も適した効果を選んでONにする。
 京矢と交信が繋がっていれば自重を促される場面だが、ツッコミ不在の現状でコウの過剰演出を阻める者はいない。

「私、この街を出る事になりました」

 以前の交流で披露した、見る者をほっとさせる快活で朗らかな笑顔がなくなり、どこか影の有る憂いを帯びた表情。見る者の庇護欲を煽りまくる、幸薄少女な雰囲気が醸し出される儚い微笑みがタリス達の胸を打つ。

「あ、あの、俺に出来る事があったら……」
「俺達じゃ頼りないかもしれないけど、君の力になりたいんだ」

 コウは、本気で心配しているタリス達に悪いなぁと思いつつ、療養の為にフォンクランク方面に行く事を告げて別れる。

「それでは皆さん、お元気で」

 去り際にぺこりと頭を下げたフョルテコウは、タリス達を始め、先日の訓練場で一緒にお茶を飲んだ大勢の若い戦士達に見送られながら訓練場前の通りを後にした。


 商店街の大通りで人混みに紛れ、雑踏を抜け出して適当な路地に入る。周囲を飛び交う思念を探った限り、特に尾行などこちらを意識した思考は感じられない。
 路地を曲がって人目に付かないところで変装を解こうとしたコウだったが、突然目の前の空間が歪んで魔力があふれる様子が見えた。
 まるで空間の裂け目から産まれ落ちるかのように、魔力に包まれた朔耶が現れる。

(なるほどー、あんな風に転移して来るんだ)

 直ぐに周囲の状況を探ろうとしたらしく、朔耶から意識の糸が広がり始めたところに声を掛けた。

「朔耶~」
「え、誰?」

 振り返った朔耶は、一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、朔耶の傍に浮かぶ精霊の光が明滅すると、目を瞠って呟く。

「え、コウ君なの?」
「ボクだよー」

 マジで!? と驚いている朔耶に、コウはこの姿で諜報活動をしていた事を説明する。
 そうして集めた情報をアユウカス達に報告した結果、昨夜はパトルティアノースト内で栄耀同盟や覇権主義派を相手に小競り合いが起きていた。

「もしかして、まだお仕事中?」
「ううん、ボクのおしごとは終わったよ。今はじごしょりを済ませたところ」

 少女フョルテとしての活動の中で、結果的にタリス達と仲良くなり過ぎたので、その清算をして来たのだ。

「何をして来たのか気になるような、聞きたくないような……」
「つつもたせに近い餌づけみたいな?」

 タリス達がこれ以上架空の女性フョルテを想って追う事の無いように、あと腐れなくお別れを告げて来た事を説明する。

「それはエグイわコウ君」

 何故かドン引きされてしまった。

 とりあえず変装を解いていつもの少年型に戻る。そんなコウを眺めていた朔耶がふと思い出したように訊ねる。

「そういえばコウ君、昨夜はあの施設で何してたの?」
「拠点を無力化してついでにポッケナイナイしたよ」
「なにそれ?」

 コウは、パトルティアノースト内で暗躍する覇権主義派の幹部から、街の外に造られた栄耀同盟の拠点に関する情報が手に入ったので、アユウカスとも話し合って対処に出向いたと説明した。
 拠点から栄耀同盟の構成員を全て追い出し、施設を丸ごと異次元倉庫に取り込んだ事も明かす。

「朔耶が見に来たのは、拠点から人を追い出す為に自爆装置の細工をしてた時だね」
「え、あたしが見てるのに気付いてたの? ていうか、施設を取り込んだって、あの建物を全部そのまま?」

 まさか夢内異世界旅行中の姿を視られるとは思わなかったと驚いている朔耶に、あくまで気配と視線を感じただけだと伝える。

「いや~それでもコウ君の視通す力って凄いわね……それに施設丸ごとって?」
「うん、丸ごと。中身もけっこう残ってるから、こんど探索するんだ」

 異次元倉庫内で下調べはするが、施設の機能や稼働状態などをしっかり確かめておきたいので、一度悠介にも見て貰う予定である。

「ユースケおにーさんに強化してもらったら、外でも使えて便利だろうしね」

 施設の中には日用品など生活全般に必要な魔導製品も揃っているので、何処に出しても壊れないようカスタマイズ強化してもらえば、常に巨大な快適空間を持ち運べる。

「ほえ~……あ、魔導製品で思い出したけど、その施設の中に魔導動力装置みたいなのって余ってない?」

 朔耶の話によると、アンダギー博士が『転移装置』など古代魔導文明の魔導製品を動かす為の、安定した魔力供給装置を研究しているのだが、開発にかなり手古摺っているらしい。

「ポルヴァーティアの魔導技術で造られた施設の中に、古代文明の魔導動力装置の代わりになるような装置があれば、悠介君のところでコピーしてもらえないかなと思って」
「それ、いいかも」

 コウは、狭間世界の魔導技術で、異世界の古代文明の遺産である魔導製品を動かすという発想に、面白さを感じた。
 施設の中に魔力を供給する装置はあった筈なので、悠介のところに行った時はその話をしてみると約束する。

「あ、それとねー」

 悠介を話題にしたついで、パトルティアノーストでの諜報活動の中で掴んだ『闇神隊長の暗殺未遂事件』の真相を朔耶にも教えておく。

「それはまた、火種になりそうな情報ね~」

 朔耶の精霊が、朔耶の言葉に反応するように明滅している。コウはもうしばらくガゼッタに滞在する予定だ。暗殺未遂事件の真相については、朔耶から悠介に伝えておくと約束された。
 朔耶は、今日はこれからポルヴァーティアのアルシアの所に寄って、栄耀同盟に関する話を聞いてから、悠介の居るフォンクランク国の首都サンクアディエットに飛ぶらしい。

「アルシアって、前に言ってた勇者のアルシア?」
「そう、勇者の方のアルシアちゃんね」

 まだ直接会った事は無いが、朔耶から話に聞いている。狭間世界の神によって、冒険者アルシアから複製召喚されたポルヴァーティアの勇者。カルツィオの邪神悠介と同じような立場の人物だ。
 ポルヴァーティア大陸とカルツィオ大陸が融合した時の、大陸間戦争の時には悠介達に敵対していたが、今では共闘する仲間である。

「そう言えば、こっちにある栄耀同盟の拠点の材料とか武器とか、潜水艇で海底から持ち出したらしいよ?」
「え、潜水艇?」

 コウは、拠点の構成員から読み取った記憶情報の中で、彼らが潜水艇を使って海底に沈んだ艦隊から色々運び出していたらしい事も伝えた。

「それは中々貴重な情報だわ、ナイスよコウ君」
「えへへー」

 朔耶は、勇者アルシア達にも栄耀同盟の本部を探す手掛かりとして伝えておくそうだ。

「コウ君はまだこっちに居るのよね?」
「うん、栄耀同盟の機動甲冑とか魔導拳銃とか、結構あぶない武器もってる人が残ってるからね」
「そっか。あたしの精霊もまだ戦いの気配が燻ってるって警告してるから、気を付けてね」

 朔耶はそう言って一歩離れると、ひらひらっと手を振って姿を消した。恐らく、一度地球世界に還って、そこからポルヴァーティアの勇者アルシアの所へ飛ぶのだろう。

「ボクも報告に戻ろう」

 アユウカスに事後処理が済んだ事を報告するべく、コウは中枢塔に向かって歩き出すのだった。




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