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狭間世界編
第二十一話:ガゼッタの白い亡霊
悠介達が来たのなら、中枢塔は任せておけば大丈夫だろう。そう判断したコウは、周辺を飛び交う風技の波動に乗った思考を読み取り、街に侵入している覇権主義派の情報を拾って対処に向かう。途中、何度かパトルティアノーストの街中に『カスタマイズ・クリエート』の波動が広がっていた。
どうやら悠介のカスタマイズ能力に共鳴してオリジナルと遜色ない力を発揮するアユウカスが、シフトムーブを駆使して伝令や軍部隊を直接現場に送り込むという戦術を使っているらしい。
コウは伝令の発した風技の伝達から機動甲冑に苦戦している現場を探り、そちらを優先的に援護して回るべく魔導輪で駆け抜ける。
未明の騒動で住人の大半は就寝中なのか道行く人もおらず、街中の大通りは閑散としており、魔導輪で疾走しても誰かにぶつかりそうになる事も無い。
やがて、前方に機動甲冑部隊と思われる大きな人影を見つけた。閉じられた門前に立つ、六機の機動甲冑と、複数人の戦士達。
その内の三機と数人の覇権主義派の戦士が何処かへ移動し、残った三機は門を破壊して戦士達を施設内へと侵入させた。
そこはガゼッタ軍の訓練場施設で、コウは女装しながらの諜報活動で訪れた事がある。タリス達が泊まっている兵舎のある施設だ。
(何かと縁があるなぁ)
機動甲冑一機と覇権主義派の戦士二人ほどが門前を見張る為に留まり、残りは施設内に突入している。コウは魔導輪で突っ込みがてら、敵方の思考を読み取って彼等の作戦内容を確認した。
「うわっ! なんだこいつは!」
『仲間の機体じゃないっ、さっき中枢塔攻略班からの通信にあった奴か!』
見張りの戦士と機動甲冑が、滑り込むような体勢で突っ込んで来た複合体コウに驚く。こちらの機動甲冑は、大盾と大剣を装備している通常仕様の機体だった。
覇権主義派から読み取れた作戦は、籠城するのにも適した訓練場施設を押さえ、収容施設に収監されている仲間を解放してそれぞれの訓練場施設に集結。中枢塔が制圧されるまで籠城戦で時間を稼ぐという内容だった。
先日の一斉検挙から逃れた隠れ覇権主義派も居るので、彼等の協力も得て速やかに訓練場施設を占拠するつもりのようだ。
先程門前から出発して行った三機と複数人の戦士達は、収容施設の襲撃に向かったらしい。
(これは、早目に収容施設にも向かった方がいいかも)
門前の機動甲冑の目前まで距離を詰めたコウは、その勢いを保ったまま魔導輪を仕舞い、流れるように踵を石畳に擦らせながら複合体を立ち上がらせると、取り出した魔導槌で横薙ぎにした。
レイオス王子の魔導剣技を参考にした突撃滑走から一撃。ゴインッという重々しい激突音が響いて火花が飛び散り、機動甲冑の大盾の一部が陥没する。
思いの外強力な一撃にたたらを踏んだ機動甲冑は、どうにか踏ん張ると反撃の大剣を振るった。サイズは大剣だが、機動甲冑はそれを片手で扱うので、実質長剣と同じ感覚で振り回している。
双方、二メートルを超える大柄な機動甲冑と複合体ゴーレムの近接戦闘。
流石に剣を使った戦いに慣れている白族の戦士。彼等が駆る機動甲冑は、栄耀同盟の熟練搭乗者のような立体的な機動は見せないものの、剣と盾の扱いが巧みで、なかなか手強い。
無力化するには動力部分を抜き取るのが確実だが、それには機体に組み付いて精神体を突っ込む必要がある。
振り下ろされる途中でいきなり加速する複合体コウの魔導槌を大盾で逸らし、大剣でカウンターを狙って来る機動甲冑の白族戦士。
こういう真っ向から剣術を活かした戦いになると、ほぼ我流の戦闘術しか知らない冒険者のコウに対し、軍で正規の訓練を受けて来た戦士は有利だ。
(うーん、ボースト使ってごり押しでもいいけど、ここは温存しておこう)
負ける気は欠片もしないものの、どうにも攻めあぐねていたコウは、冒険者らしく搦め手で崩す事にした。
(朔耶のお兄さん直伝、なにはともあれ――)
強引に接近して何度目かの鍔迫り合いに持ち込んだところで、仕掛ける。
「ヴォーッ!」(ろーっ!)
『なにっ!?』
ゴズンッという鈍い音を立てて、機動甲冑が体勢を崩す。
人型戦闘機同士の戦いでローキックをかまして来るとは予想が出来なかったのか、虚を衝かれてよろめく機動甲冑に、複合体コウが素早く組み付いた。機動甲冑の動力部分が精神体の届く距離に入ったので、そのまま抜き取ろうとして気付く。
(あれ? これって自爆装置?)
こちらの機体には、中枢塔に来た機体には無かった自爆装置の爆弾があった。先に爆弾を回収し、続けて動力部分も抜き取る。
動力を失った機動甲冑は、糸の切れた操り人形のように力なく崩れ落ちた。
「ヴォヴァヴォー」(とったどー)
等とお約束のボケも一応やっておいたが、ツッコミ役が居ないのでただの勝ち鬨になった。
とりあえず、門前の見張り役戦士を殴り倒して無力化すると、覇権主義派の機動甲冑の残り二機も無力化するべく、訓練場施設に突入した。
訓練場内では、施設を制圧しようとする覇権主義派の戦士と、防衛に徹するガゼッタの正規兵や訓練生達の攻防が繰り広げられている。
屋内訓練場の部分には機動甲冑二機が待機しており、施設から応援を呼びに出られないよう建物の出入り口を封鎖している。コウはまず、この二機に奇襲を仕掛けた。
魔導輪と魔導槌の内燃魔導器加速で一気に距離を詰めて、勢いを付けた状態で立ち上がりながら魔導槌を振り抜く。門前の機動甲冑戦では胴狙いの横薙ぎが盾で防がれたので、中枢塔の空中庭園で戦った時のように脚狙いだ。
訓練場の砂を捲き上げながらアッパースイング気味に放たれた一撃は、それを防ごうとした盾を弾き飛ばした。狙った脚には当たらなかったが、盾を弾かれた機動甲冑は大きく体勢を崩す。
もう一機がカバーに入ろうとするも、複合体コウはそのまま魔導輪の浮力と魔導槌の内燃魔導器の加速を利用して横に一回転しつつ、低い姿勢で滑るように間合いを詰めた。
その思わぬ軌道に反応が遅れる機動甲冑。がっしと複合体を組み付かせて精神体を伸ばしたコウは、先にこの僚機から動力部分を抜き取った。がくりと、力が抜けるように崩れ落ちる僚機。
(やっぱりこっちにもあるなぁ)
門前の機動甲冑には自爆装置が内蔵されていたが、こちらの機体にも同じ場所にあった。それもしっかり抜き取っておく。
(そういえば、さっきちらっと朔耶の視線を感じた気がしたけど……)
もしかしたら朔耶も応援に来るかもしれない。そんな事を思っている間にも、体勢を崩した方の機動甲冑が再び臨戦態勢に入ろうとしたので、動かなくなった僚機をぶん投げて牽制した。
『な、なんだと!? うわぁ!』
まさか投げて来るとは思わなかったらしく、思わず受け止めようとしてそのまま押し潰された。勢いよく飛んで来る同じ重量の同型機を、そのままキャッチ出来るほどのパワーは無かったようだ。
コウは悠々とその機体からも動力部分を抜きに掛かろうとして、ふと、こちらに向けられた強い思念を感じて読み取る。
『――ええい、役立たず共め! 所詮は野蛮な原住民か、付け焼き刃ではこんなモノだな――』
どうやら覇権主義派の機動甲冑部隊には、機体に不具合が発生するなどの不測の事態に備えて、栄耀同盟の工作員が指揮官として付き添っていたらしい。
その指揮官は、覇権主義派の駆る機動甲冑が『ガゼッタの新型』に敵わないと見るや、機動甲冑の自爆装置を起動させて諸共吹き飛ばそうとした。
自爆装置の爆弾は既に抜き取って異次元倉庫に仕舞ってあるので、当然何も起きない。本来なら機体の肩と頭のランプが自爆信号を受けた事を示す赤の点滅を繰り返すらしいのだが、動力部分も抜き取ってあるので完全沈黙状態だ。
(うん?)
ふと、コウは異次元倉庫内の自爆装置の様子を確かめてみた。自爆装置の爆弾はそれ単体で信号を受けて爆発するようになっているらしく、倉庫内で起爆実行状態になっていた。
異次元倉庫内では時間が止まっているというか、取り込んだ物体の事象が進まない状態でキープされる。状態を変化させる事自体は可能。
収納しているエイネリア達の魔力充填でいうと、魔力が減った状態から満タンの状態に変化させる事は出来るが、消費しないので減る事は無いし、倉庫内では自律的に動く事も無い。
以前、意思疎通の手段として取り込んだ紙に文字を書いていたように、倉庫内での変化はコウの一存に左右される。
取り込んだ自爆装置の爆弾は、倉庫内で炸裂こそしないものの、爆発のスイッチが入った状態だ。
(これ、もしかして取り出した瞬間に爆発する?)
『いいこと思い付いた』と、複合体を異次元倉庫に仕舞って精神体になったコウは、自爆装置の爆弾を倉庫の外へ放り出した。
瞬間、大爆発が起きる。無力化した機動甲冑は爆風に煽られ、少し離れた場所まで転がった。
それらの様子は、凄まじい勢いで捲き上がった砂煙に隠されて、自爆装置を起動させた栄耀同盟の指揮官の目を欺いた。
「よし、やったぞ!」
複合体を自爆に巻き込めたと、したり顔を浮かべる指揮官だったが、コウはその場に再び複合体を取り出して憑依した。
(これは不意の攻撃手段にも使えそうだなぁ)
そんな事を思いながら鎮圧の続きに取り掛かるコウ。何事も無かったかのように歩いて来る複合体コウを見て、栄耀同盟の指揮官は顔を引き攣らせる。
――今の現れ方はおかしい。
「まさかっ、亜空間シフト技術が完成していたのか!? いや、そんな筈は……」
かつて、ポルヴァーティアの魔導技術省で研究されていた空間転移技術。
異世界から勇者が召喚される事実から、異なる世界が存在している事を念頭に、召喚の仕組みを解析して移動や運搬効率の飛躍的な向上を図ろうという試み。兵器への転用による軍事力の大幅な増強なども期待されていた。
しかし、そもそもが勇者の召喚される瞬間を観測出来る機会は三百年に一度。しかも大陸のどこに現れるか分からない。
ポルヴァーティアの魔導技術研究者達の中では、あまりに長期的過ぎる為に理論のみ残されて、すっかり廃れた研究として知られていた。
(へー、そうだったんだ~)
どうやら元ポルヴァーティアの魔導技術研究者だったらしい、現栄耀同盟の指揮官から興味深いポルヴァーティアの歴史秘話など読み取りつつ、複合体パンチで制圧するコウなのであった。
「ヴァウヴァウ」(かんりょう)
コウが機動甲冑二機を無力化した事で、この施設に攻撃を仕掛けていた覇権主義派の部隊は背後を脅かされる形となり、押し返して来た施設の防衛部隊によって逆に包囲制圧された。
施設を護っていたガゼッタ軍の正規兵や訓練生達は、途中で乱入して来た複合体コウに警戒を向けながら中枢塔に連絡を行っているようだ。
次は収容施設に向かおうかとコウが考えていると、訓練場内にカスタマイズ・クリエートの力が働いて、光の粒を舞い散らせながら石の台座が現れた。
そして、防衛部隊で風技の伝達を使っていた伝令役の兵士が、小走りでやって来て告げる。
「中枢塔よりアユウカス様とユースケ殿から、コウ殿に伝達です!」
内容は『シフトムーブで送るので、可能なら他の場所の応援を頼む』との事。コウが了承の意を示すと、即座に風技の伝達で中枢塔の悠介達に伝えられた。
コウは複合体のまま台座の上に乗る。すると、シフトムーブが発動してパトルティアノーストに点在する訓練場施設の一つへと瞬間移動した。
先程の施設と同じく、二機の機動甲冑が屋内訓練場部分に陣取って出入り口を塞いでおり、施設内部からは戦闘の音が響いている。
先手必勝とばかりに、コウは複合体に魔導輪を装着して滑走態勢に入る。コウの接近に気付いて振り返った機動甲冑の一機にスライディングキックを浴びせて転倒させ、すかさず精神体を突っ込んで動力部分を抜き取る。
そのまま自爆装置も抜き取りつつ、活動停止した機動甲冑の大盾を拾って構えると、異次元倉庫の中から先の戦いで起爆状態になっている方の自爆装置の爆弾を大盾の向こうへと放り出す。
瞬間、大爆発。爆風に煽られて倒れたもう一機の機動甲冑に素早く接近して、動力部分と自爆装置の爆弾を抜き取り、無力化と安全確保をした。
「ヴォウヴァウ」(しゅんさつ)
突然の爆発と機動甲冑二機の戦闘不能に加えて謎の機動甲冑の強襲を受け、この場所を襲撃していた覇権主義派の部隊は浮足立つ。
しばらく睨みを利かせていれば、先程の施設と同じく防衛側が反撃に転ずるだろう。コウはそう判断すると、複合体を立たせたまま異次元倉庫内を少し整理し始めた。
機動甲冑の動力部分は、小型の魔導動力装置だと思われる。朔耶の要請でアンダギー博士に渡す予定だった、支部施設の倉庫に仕舞われていた船舶用魔導動力装置とどちらがいいか考える。
(両方わたせばいいや)
おそらく、船舶用魔導動力装置は博士の研究所にメイン動力として組み込まれる事になるだろう。機動甲冑の小型魔導動力装置は、持ち運び可能な高出力魔導装置として博士が色々使い道を考えてくれる筈だ。魔導輪や魔導船にも更なる改良が加えられるのは間違いない。
当然、兵器類も強力になっていくと思われる。複合体専用の武器に、レーザー系の兵器など追加されるかもしれない。
コウは、狭間世界の冒険が終わったら地球世界に行くつもりだったが、複合体のオーバーホールも兼ねて一度、博士のところに戻った方が良いかもしれないと、今後の予定を見直した。
異次元倉庫内で魔導動力装置と自爆装置の爆弾、機動甲冑の大剣や大盾などを整理していると、施設を襲撃していた覇権主義派の部隊が防衛側に鎮圧されたようだ。
中枢塔からこちらの施設にも伝達で連絡が届いているらしく、複合体コウに対して警戒する素振りは見られ無い。寧ろ、拳を掲げてコウの健闘を称える鬨を上げている。
間を置かずして、先程と同じようにカスタマイズ・クリエートの力が働いて台座が現れたので、臨戦態勢で複合体を乗せた。
(さあ、つぎの場所だ)
台座から光のエフェクトが立ち昇り、景色が切り替わる。薄く赤茶けた乾いた砂地に、訓練用の杭が並ぶ開けた空間。ここも訓練場施設のようだ。
先程までのような屋根のある屋内訓練場と違って空が見える。そこから確認出来る中枢塔の位置により、ここは東側の防壁沿いにある施設だと分かった。
(敵はどこかな~?)
訓練場の部分は屋外だが、戦士達が寝泊まりする兵舎はパトルティアノーストの城塞部分の中だ。が、そちらから戦闘の気配は感じない。前の二ヵ所と違って、不自然に静まり返っている。
既に覇権主義派によって制圧されている可能性もあるが、それならば中枢塔から何かしら連絡がなければおかしい。制圧されたのが逆でも然り。
コウは周囲の意識を探りながら複合体を進ませる。ズシンズシンと砂地に軽く砂塵を巻き起こしながら兵舎に近付いていくと、数歩先辺りから警戒を滲ませる思念を拾った。
『――来た、あれが連絡にあった新型の白い奴か――』
『――攻撃ラインを越えたら、一斉に仕掛けるぞ――』
魔導技術の通信具で話しているらしく、確認出来た思考は四人分。彼等の思考から位置情報や作戦内容を読み取ってみる。
(ふむふむ、地面に穴をほって隠れてるのかー)
機動甲冑を地中に潜ませ、背後から奇襲を仕掛ける算段らしい。最初の訓練場施設の前でコウが見た覇権主義派の部隊は、機動甲冑六機と歩兵十数人だった。
ここに来るまでの二ヵ所で五機の機動甲冑を無力化してある。中枢塔で戦った栄耀同盟の四機と合わせて九機撃墜。
出発前の情報では、覇権主義派の戦力は三機編制の小隊が四部隊との事だったので、まだ七機の機動甲冑が動いている計算になる。
(収容施設に向かった三機もこっちに呼び寄せたのか~)
どうやら栄耀同盟の中枢塔攻略班を全滅させ、訓練場施設の覇権主義派部隊も次々と制圧して回る複合体コウを脅威と見做して、残りの機動甲冑を全機こちらに向かわせているようだ。
現在ここに隠れているのは四機。追加の三機ももう直ぐやって来る。
(よし、じゃあ全部あつまったらボーストで一気に片付けよう)
このまま相手の作戦に乗って先に四機を引き摺り出すのも手だが、それで残りの三機が逃げ出したら厄介だ。変な場所で自爆装置を使われでもすると、街に甚大な被害を出してしまう。
コウは彼等の定めた『攻撃ライン』を越えない位置で止まると、きょろきょろと周囲を見渡して見せた。そうして自身に向けられる意識から思考を読み取り、相手の動きを観察する。
『――警戒しているな。やはり静かすぎたか――』
『――ああ……だがこのままいけば、味方の合流も間に合う――』
そんな彼等のやり取りから読み取れた情報によれば、ここの施設は既に覇権主義派に占拠されているようだ。
中枢塔から未だ交戦中と誤認されているのは、この施設に勤務していた隠れ覇権主義派達による欺瞞情報らしい。
膠着状態でやや優勢、援軍無しでも対処可能と伝達を送り、後回しにさせていた。彼等の情報工作も、なかなか侮れない。
やがて、収容施設から応援に寄越された三機の機動甲冑が、訓練場の敷地内に飛び込んで来た。内蔵されている浮遊装置を使った低く長い跳躍という、ほぼ低空飛行な移動法で翔けて来たようだ。
浮いて移動する部分を見れば、魔導輪の上位互換のような機能ともいえなくもない。
(浮遊装置はべんりそうだなぁ。こんど複合体にも付けてもらおう)
悠介に頼むか、浮遊装置の現物を渡せば博士でもどうにかしてくれるだろう。それはさておき、やって来た三機の機動甲冑に向き直ると、地面に隠れていた四機も姿を現した。
複合体をぐるりと包囲する位置取りでそれぞれ武器を構える。七機の機動甲冑の武装は標準装備の大剣と大盾、それに光弾を放つ固定式の短弓。
正面に剣と盾を構えた二機が並び、その隙間から一機が短弓で狙う。背後の四機は剣と盾を構えて半円状に散開している。
包囲網を完成させて攻撃態勢を整えた彼等は、仕掛けるタイミングを計るべく通信具で話し合う。
『――光弓の一撃を合図に始めるぞ、訓練通りにやれ――』
『――俺とベインが正面から仕掛けたら、コードとリグは少しずらして背後を突け――』
『――エイダとグオンは斜め後方から波状攻撃だ。コード達との連携を崩すなよ?――』
『――いいか、こいつは一機で教官達を屠った強敵だ、決して油断するな――』
そんな彼等の作戦を、コウが思考からちゃっかり読み取っていた。
(ふむふむ、寄せてくるなら防御からのボーストカウンターで一気にいけるかな)
古代魔導文明の遺跡で発見された、緊急自動治癒装置『人工精霊・ボー』の製造工場。
そこから運び出されたボーの材料である原液を、複合体に注入して『超回復能力』を持たせた際に付いて来た副次効果。一時的に力と速度が上昇する『ボーの素ブースト』略して『ボースト』。
複合体の切り札のような特殊能力だが、それを使っても、空中庭園で戦った栄耀同盟の使い手が見せたようなアウトレンジ戦法を取られると、強力な遠距離武器の無い複合体では決め手に欠ける。
相手から接近戦を仕掛けてくれるなら、コウとしてもありがたい。正面中央で短弓を構えた機動甲冑が光の矢の発射体制に入る。
コウは『やっぱり遅くない?』等と内心ツッコミながら、二秒弱ほどで放たれた光の矢の一撃を、前の施設の機動甲冑からがめて来た大盾で防ぐ。中々性能の良い盾らしく、完全に弾き返した。
(いい拾いものしたなぁ)
いきなり盾が出現した事に一瞬驚く覇権主義派の彼等だったが、作戦通り正面の二機が左右から突っ込んで行き、背後からも一呼吸の間を置いて二機が急襲を仕掛ける。
四機の機動甲冑が複合体との近接戦闘の距離まで詰めたタイミングで、斜め後方の二機も突撃を開始する。正面で短弓を構える一機は、全体の動きを見ながら仲間に適切な指示を出す。
完璧なチームワーク。前後と斜め後方左右から、六機の機動甲冑が複合体に攻撃を仕掛けようとした瞬間、コウは大盾を構え直しながら切り札を発動した。
「ヴォウヴァウ」(ボースト発動!)
ヴォンッと、全身に魔力を巡らせてブースト状態に入った複合体コウが、大盾を構えたまま凄まじい勢いで前進して正面の二機に突貫を仕掛けた。
『っ!?』
あまりの速さに反応出来ず、まともに体当たりを喰らって吹き飛ばされる二機の機動甲冑。
コウは大盾を異次元倉庫に仕舞いつつ、体勢を崩して宙に浮いている二機の片方、右側の機体にゴーレムパンチを打ち下ろす。まずは一機。
ゴガァンッという、重々しい金属の衝突音を響かせて地面に叩きつけられる機動甲冑。搭乗者の意識もその一撃で沈められた。動力装置を抜き取る暇は無いので、一先ず放置しておく。
そして隣で、同じように撥ね飛ばされて背中から落ちようとしている最中の機体を左手で掴むと、一気に引き寄せながら後方の二機を目掛けてぶん投げた。
『うわぁ!』
『なんだとぉ!?』
横に回転しながら結構な勢いで飛んで来た味方の機体に、後方からの急襲を仕掛けていた二機は避ける間もなく激突する。
二機掛かりで何とか受け止めた時には、複合体コウがゼロ距離まで間合いを詰めていた。投げると同時に踵を返して、機体を追い掛けていたのだ。
味方の機体を抱えた状態になっている二機は対応出来ず、複合体コウから同時に一撃を喰らう。ほぼ無防備な体勢だったので、この二機へは精神体での動力装置の抜き取り攻撃になっていた。
動力源を失った二機の機動甲冑が、ガシャリと崩れ落ちる。投げ付けられた機動甲冑の搭乗者も、中で目を回していた。これで四機。ボーストを発動してから、この間約五秒。
斜め後方の左右から突撃していた二機が思わず急停止するも、既に地面を蹴り出していた複合体が右側の一機に迫る。咄嗟に盾を構えて防御態勢を取る機動甲冑。
コウは盾にぶつかる直前で、足元に風の塊を発現させながら強く踏み込んだ。
(バーストめくらましっ!)
ズドンッという足音と共に、破裂した風の塊が砂を巻き込み、噴き上がった砂塵の壁が複合体と機動甲冑の姿を覆い隠す。
目の前でいきなり地面が爆ぜて砂の煙幕に視界を奪われた機動甲冑の搭乗者は、瞬時に背後へと回り込んでいた複合体の一撃で意識も奪われた。
機動甲冑の動力部分も抜き取ってしっかり無力化したコウは、砂塵が晴れる前にこの機体の盾を正面に構えながら、左側のもう一機に向かって突進する。
砂の煙幕の中から盾を構えた影が飛び出して来るのを確認した左側の一機は、地面が爆ぜる直前の光景から、味方の機体が砂塵の中を突っ切って来たものだと誤認した。
『おい、あの白い奴はどこに――』
ズガンッと、突進の勢いも乗せた盾の一撃――シールドバッシュを喰らって仰け反る機動甲冑。その足をローキックで掃って転倒させた複合体コウは、トドメの一撃のように打ち下ろしたパンチの先から、精神体を突っ込んで動力部分を抜き取った。これで六機。
残りは最初に開戦の光の矢を放った機体だけだ。魔導槌を装備した複合体コウが、ズシンズシンと距離を詰めていく。途中、一纏めに重なるように横たわる機動甲冑から、まだ抜き取っていない動力装置と、やはり組み込まれていた自爆装置も回収しておく。
短弓を構えたまま動けずにいる最後の一機の動きに注意しつつ、複合体コウは足元に倒れている最初に仕留めて放置していた機動甲冑から動力部分と自爆装置を抜き取った。
搭乗者は気を失っていたが機体は稼働状態だった機動甲冑は、動力の消失により完全に機能停止。搭乗者の動きに合わせて何時でも起立出来るよう、綺麗な仰臥位(仰向け)を維持していた機体は、胸部に手を当てる複合体にまるで命を吸い取られたかのように、ぐったりと姿勢を崩した。
(これでよし)
六機の機動甲冑から動力部分と自爆装置を回収したコウは、魔導槌を肩に担ぐようにして複合体を立ち上がらせる。
既にボーストは解除しているが、瞬間的に身体を巡った過剰魔力の排出により、蒸気の様な白い魔力のオーラを纏った複合体。
元々が魔物の細胞で構成されている身体の為か、その威圧感が凄まじい。
『う、うわああああ! 来るなあああぁ!』
得体の知れない怪物を幻視した機動甲冑の搭乗者は、恐怖に駆られて光の矢を放ちながら後退る。それらを魔導槌の切っ先で弾きながら、コウはズンズン寄せて行く。
ようやく他の武器の存在を思い出した機動甲冑が大剣を振り被ったところへ、魔導槌の内燃魔導器に点火しながら一気に肉薄。加速した魔導槌の先端で薙ぎ倒した。
(これで機動甲冑はぜんぶ倒した。あとは――)
最後の動力部分と自爆装置を回収したコウは、先程から兵舎の方より向けられている警戒と困惑の思考を読み取って、覇権主義派に占拠されている建物内の様子を窺う。
(ここはもともと隠れ覇権主義派の人達がおおかったんだね)
今回の襲撃は突発的に決まったものだが、襲撃計画自体は以前からあったので、普段から人事異動などで人員の配置を調整していたらしい。
中枢塔にここの状況を誤魔化せたのも、前もって伝達系の職員を隠れ覇権主義派で固めていた為、襲撃開始当初から偽の情報を上げていたようだ。
各収容施設まで襲撃部隊が容易に辿り着けたのも、彼等の働きが影響している。やはり情報工作は侮れないなと、コウは改めて思うのだった。
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