スピリット・マイグレーション

ヘロー天気

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オルドリア大陸編

第一話:王都フレグンス

 フレグンス城の庭園に設けられた竜籠発着場に、無事着陸を果たした魔導船団。フレグンス側の歓迎を受けたレイオス王子達一行は、朔耶の案内で城の謁見の間に向かっていた。

「中々古風で趣のある城ですな」
「ああ。こういうこじんまりとした城も悪くない」

 金色の剣竜隊の副長がフレグンス城の雰囲気を評すと、レイオス王子も同意する。
 レイオスの『こじんまりした城』発言に、フレグンス側の護衛騎士達が頬をひくりとさせたが、別に悪気のある言葉ではない。グランダール王国の王都、トルトリュスの巨城に比べれば、大抵の城は小さくまとまった規模の建造物に感じられるのだ。

 王子達が無自覚にフレグンスの騎士に対抗心を芽生えさせたりしている一方、ガウィーク隊では参謀のレフが、護衛騎士達の魔力をこっそり観測するなどしていた。その結果が、ガウィーク達に告げられる。
 フレグンスの護衛騎士達の装備には、魔力がほぼ全く感じられないという。

「……彼等は、魔法効果の無い装備を使っている」
「ここにいる護衛全員が? 王宮勤めの騎士達だぞ?」

 思わず聞き返すガウィークに、レフは頷いて答える。ここではそれが普通らしいのだと。
 フラキウル大陸では整備された街から離れれば、そこら中に変異体や魔物がウロウロしているが、オルドリア大陸にはそういった危険な生物はほとんど存在しない。人外との戦闘がそもそも想定されていないオルドリアでは、魔法による武具の強化もフラキウルほど進んでいないのだ。

「……おそらく、攻撃魔術を防ぐ手段もほとんど無い」
「まじか……」

 敵に魔術士がいたらどうやって戦うんだと、素で不思議に思うガウィーク達。それが標準とされる世界にあって『サクヤ』のような異常な存在は、神か悪魔の如く崇拝されたり畏れられたりしているのではないかと推察する。ガウィーク達の推察は、実は概ね間違っていなかった。

 そんなこんなと道中のやり取りをしている内に、一行は謁見の間に通された。

「グランダール王国第一王子、レイオスと申します。此度の歓迎、感謝致します」
「遠路遥々よくぞ参られた。ゆっくり旅の疲れを癒されよ」

 フレグンスの国王カイゼルと、レイオス王子の挨拶が交わされる。
 王子達『金色の剣竜隊』の後ろに控える『ガウィーク隊』の中で、皆と一緒に畏まっていたコウは、壁際にいる朔耶に『意識の糸』を繋いで対話する精霊術、『交感』を試みる。
 朔耶に向かって意識の糸を伸ばすと、『交感』に応じた朔耶が自分の意識の糸を繋いだ。交感を通じて『どうしたの?』という訪い掛けの想いが伝わって来る。

『沙耶華はきょうは来るの?』
――沙耶華ちゃんは夕方頃に連れて来る予定よ――

 コウの本体である御国杜みくにもり京矢きょうやと、同じ飛行機事故で異世界こちらに飛ばされた遠藤沙耶華えんどうさやか
 凶星騒動の時に発生した『魔王の誕生』の調査で朔耶がフラキウル大陸に来訪し、彼女の協力の元、紆余曲折あって二人は元の世界に還る事が出来た。
 その後も朔耶の協力で度々世界を渡っており、現在、京矢はナッハトーム帝国で皇女殿下の傍に仕える身。
 沙耶華はレイオス王子の想い人として、グランダール王国が誇る天才魔導技師アンダギー博士の研究所に身を寄せつつ、冒険飛行中の魔導船団にも時々顔を出している。

――この式典が終わったら次の歓迎パーティーまで時間があるから、その時にちょっと相談したい事があるのよ――
『わかったー』

 朔耶とそんな約束をしつつ交感を終える。やがて式典も一段落し、皆がパーティー会場へと移動を始めた。レイオス王子達はそのまま歓迎パーティーに出席し、グランダール王国の代表として、色々と政治的なお仕事をするらしい。
 レイオス王子が王族としての公務をこなさなければならない一方で、コウ達ガウィーク隊の面々は一介の雇われ冒険者集団として気楽な立場である。

「さーて、俺達はまずは腹ごしらえといくか。その後は街の観光だな」
「宮廷で飲める酒はさぞかし美味ぇんだろうなっ」
「楽しみだ」
「お前達、飲み過ぎるんじゃないぞ?」

 ガウィークがこの後の方針を挙げると、ダイドやリーパは異国の酒に感心を示し、副長マンデルから羽目を外し過ぎないようにと釘を刺されている。
 フレグンス側のお偉いさん達に囲まれているレイオス王子達と、少し距離を置きながら移動するガウィーク達に、朔耶が声を掛けて来た。

「みんなお疲れ様。パーティーで美味しい物食べて行ってね」
「ああ、そこは期待してるぜ」

 式典の厳粛な空気に「肩凝っちまったぜ」と笑うガウィークを労った朔耶は、コウに向き直ると、先程の交感で話した相談事を持ち掛ける。

「そろそろティマちゃんとネリアちゃんを会わせてみようと思うのよ」
「記憶、もどったの?」
「ううん、まだみたい。でも少しずつ思い出してるらしいわ」
「そっかー」

 エイネリアやエティスと同じく、無人島の古代遺跡から回収されたガイドアクターの一体であるレクティマは、稼働していた二体と違い、故障してほぼ朽ち果てた状態での回収だった。
 彼等をほぼ新品の状態まで修理してくれたのが、『狭間世界』という世界と世界の通り道にある世界で生きる『邪神・田神悠介』という存在。
 凶星騒動の元凶の舞台でもあった狭間世界に、その世界の神に相当する存在から特別な力を授けられて複製召喚された彼は、あらゆる物体に干渉して形状や性質を改変する能力を操る。その力をもって三体のガイドアクターはレストアされた。機体の修理は完璧だったのだが、記憶が戻らないレクティマは悠介の下に預けられ、リハビリをしているのが現状である。

 ちなみに、悠介は覚醒した凶星の魔王トゥラサリーニを討伐する際に協力してくれた事もあり、その時にコウの複合体にも特別な処理を施している。
 朔耶の話では、狭間世界むこうも大陸同士の大事な交渉が始まろうとしている時なので、エイネリアを連れて行く時期については、なるべく邪魔にならないよう空いた期間を狙いたいという。

「じゃあ魔導船団が帰るころになっても、ボクはこっちに残ってようか?」

 元々フレグンスの観光を済ませた後は、京矢の定期帰郷に合わせて地球世界に遊びに行く予定だったコウは、多少遅くなっても構わない旨を伝えた。地球世界むこうに渡れば、またぞろフリージャーナリストの『彩辻美鈴あやつじみすず』にくっ付いて彼方此方出掛けるつもりなので、朔耶が力を十分に発揮出来るこちらの世界に居た方が都合が良いだろう。

「そうね。レイオス王子達の滞在期間が過ぎても調整付かなかった時は、そうしてもらえる?」
「わかったー」

 そんな話をしている内にパーティー会場に到着。間もなく宴が始まった。沢山のテーブルに豪華な料理が並ぶ。堅苦しくならない立食スタイルになっていた。

「わ~コレすご~い、あま~い」
「……おいしい」

 カレンとレフが、目をキラキラさせながらフレグンス産のクリームケーキを堪能している。
 元々は、朔耶が地球世界から持ち込んだショートケーキをフレグンスの王女と王妃に振る舞い、感銘を受けた王族母娘が開発支援をして、今やオルドリア中に広めたものらしい。

「こんな機会滅多に無いからな、食えるだけ食っておけよ」
「了解」
「こりゃうめぇ! こりゃうめぇ!」

 ガウィーク達男性陣も豪華な宮廷料理に舌鼓を打っている。食事の必要が無いコウは、一足先にパーティー会場を後にする。

「じゃあボクは先に出掛けてるね」
「おう、後で俺達も街に出るぞ」
「しかしアレだな、食う楽しみを味わえねえってのも難だなぁ」
「うう~、コウちゃんといっしょに行きたいけど、ケーキをたべるのをやめられない」
「……食べすぎ注意」

 そんな賑やかなガウィーク達に見送られつつ会場を出たコウは、出入り口付近で寛ぐ朔耶と合流した。今は時間が空いているので、王都観光に付き合ってくれるらしい。
 それならばと、コウは観光場所に朔耶が通っている大学院を見てみたいと伝える。

「学校に興味があるの?」
「うん、冒険者の訓練学校なら知ってるけど、普通の学校って見た事ないから」

 京矢や沙耶華、朔耶が地球世界で通っていた、同じ制服を纏って勉学に励む沢山の生徒達が居るという場所に興味があったのだ。

「なるほどね。それじゃあ案内するよ」
「よろしくー」

 斯くして、コウはフレグンスで最初の観光場所として、王都大学院に招待される事になった。


 王都大学院は一般開放区という、王宮区から三つほど外の区画にある。王宮区の周りに上流区、その周りに貴族街。一般開放区はさらにその周りを囲む区画だ。ちなみに、朔耶の工房や屋敷も、この区画にあるらしい。一番外側は一般区で、所謂平民達が暮らす区画である。
 王宮区から一般開放区の大学院まではかなりの距離がある為、王宮を出たコウは朔耶に抱えられて空輸されていた。

「そう言えば、コウ君って空飛ぶの慣れてるよね?」
「うん、いつも鳥君たちに憑依してるからね」

 しかしながら、少年型の姿のまま飛ぶのは初めてなので、割りと新鮮な気分であった。

「何か、コウ君ならそのうち自力で飛べるようになりそうな気がするわ」

 上空から見下ろす王都の街並みは、魔導船の甲板越しに見る光景とは、また違った趣があった。やがて、魔導船からも見た覚えのある大きな建物施設が見えて来た。

「あれが王都大学院よ。着陸するね」
「けっこう大きいねぇ」

 五階建ての中央塔と、四つの三階建て学び塔を持つ校舎。大学院の中庭部分に降り立った朔耶は、まずは中央塔のサロンに案内するという。
 今の時間なら朔耶と親しい生徒グループも居るはずなので、紹介してくれるそうな。とりあえず、コウは異次元倉庫からエイネリアを取り出す。

「何でまたネリアちゃんを?」
「エイネリアなら、大昔のこの辺りに何があったか分かるから」

 未発見の古代遺跡が見つかるかもしれないので、観光のついでに調査もするのだと説明すると、朔耶も納得した。

「ああ、そう言えばそうだったわね」

 オルドリア大陸の地下には古代遺跡が結構点在している。既存の遺跡はほぼ全て調べ尽くされているが、今もその機能の一部が使われているような場所もある。
 完全な未発見の遺跡が見つかれば、自分達冒険者にとっても、フレグンス側にとっても有意義な発見になるだろう。などと思っていると、エイネリアが指向性のある音声――対象を絞って伝達する場合などに使われる、特定の範囲にしか届かない音声で報告をして来た。

『地下の施設から、信号が発信されているようです』
『信号? 地下の施設ってなんの?』

 コウが念話の要領で直接エイネリアの思考を司る人工精霊に問い返す。

『緊急避難用区画の一部が稼働しているようです』

 エイネリアの説明によると、オヒューバム時代のこの地域一帯は大図書地区に指定されており、古い巻物状の書物から最新の影晶型えいしょうがた記録媒体に至るまで、あらゆる情報を閲覧出来る書庫施設が集中している地区だったらしい。
 中でも、この場所にあった施設は最大規模のもので、地下十階、食糧生産や水の精製機能の他、一度に数百人を収容出来る宿舎や、病院、娯楽施設も完備した、非常用シェルターの役割も果たせる施設だったという。
 そして現在、詳細は不明ながら、その地下施設と思しき座標から何らかの識別信号が発せられているそうな。

『その施設のこと、もう少し詳しく調べられる?』
『では、識別信号の解析と書庫施設への情報照会を行ってみます』

 エイネリアと内密にそんなやりとりをしつつ、コウは朔耶に連れられて中央塔の一階大ホールにやって来た。
 沢山のテーブルが並び、多くの大学院生や教員達で賑わう空間。サロンとして使われているこの場所は、各塔への通り道にもなっているらしい。
 院生達の中に友人の姿を見つけた朔耶が手を振っている。そんな朔耶の後に続いてコウがサロンに踏み入った瞬間、周囲の院生達が一斉にざわめいた。
 朔耶の友人達らしき人達も、驚いた様子でこちらを見ている。彼等から読み取れた思考は一様に『戦女神サクヤ(様)に子供が!』だった。
 ふと悪戯を思いつく。京矢と交信していたら絶対『やめとけ!』とツッコまれそうな内容だが、インパクトのある自己紹介としては中々良いアイデアではないかと思うコウ。
 ざわつく周囲の雰囲気を気にした様子も無く、友人達が揃っているテーブルまで進んだ朔耶は、そこに着いている男女のグループに声を掛けた。

「やほー、みんな」
「サ、サクヤ、あなた……その子」

 グループの中でもひときわ煌びやかな印象のある、金髪縦ロールなお嬢様が、驚きと困惑の表情を浮かべながら、朔耶の後ろに付いて来るコウを指す。
 朔耶がコウの事を紹介しようとした時、金髪盾ロールお嬢様の隣に座る貴族っぽい青年がこんな事を訊ねた。

「サクヤの隠し子って本当かい?」
「あほかい」

 即座に朔耶のツッコミが入る。彼等と朔耶との関係に、本物の友情らしい親しさを感じたコウは、これなら先程思い付いた悪戯を仕掛けても大丈夫そうだと判断すると、直ちに決行した。

「おかーさーん」

 などと呼び掛けながら朔耶の腰に抱き着く。瞬間、サロンの空気が凍り付いた。ざわめく院生や職員達。朔耶の友人グループも固まっている。

「コウ君……」

 ギギギッと振り返った朔耶に、奉仕用召喚獣渾身の『無垢な笑顔』など返しつつ距離を取ると、意識の糸を伸ばして交感で悪戯の意図を伝える。
 それを把握した朔耶は、悪戯に応じる意識を返して行動に出た。

「そういう性質の悪い冗談言う子には、お仕置きが必要ね!」

 朔耶の身体から、バシュッと噴き出すように漆黒の翼が生えた。対するコウは――

「きんきゅうかいひっ」

 頭上に手を伸ばし、精神体で手の先ギリギリまで抜け出しながら少年型召喚獣を解除。拡散する魔力の光に包まれつつ、異次元倉庫から複合体を取り出して憑依した。
 ズシンと地響きを立ててサロンに現れる白い甲冑姿の巨漢ゴーレム。傍目からはコウが甲冑巨人に変身したように見えただろう。続けて大盾も取り出し、装備して準備完了。念の為、魔王討伐の時に邪神悠介から付与してもらった対魔術効果も起動しておく。

 サロンに吹き荒れる魔力の奔流。朔耶の漆黒の翼から無数の電撃がほとばしると、大盾を構えてそれらを防ぐ複合体コウ。ボス戦の如く派手な攻防が繰り広げられるが、実は交感で示し合わせた通りの余興である。ピタリと交戦を止めた二人は、固まっている院生達を振り返って一言。

「とまあ、ちょっと騒ぎを起こし易い子だけど、今日からしばらくよろしくね」
「ヴァヴァヴォヴァー "よろしくー"」

 朔耶のそんな紹介に合わせて、複合体コウは光の文字を浮かべながら挨拶するのだった。

「とても似た者同士ですわね……」

 ポツリと呟く金髪盾ロールのお嬢様のツッコミに、他の院生達も無言で頷いた。


 インパクトのある自己紹介と挨拶を済ませたコウは、現在朔耶の友人グループに囲まれて質問攻めにあっていた。他の院生達は遠巻きにしながら様子を覗っている。
 基本、誰とでもフレンドリーに接する朔耶だが、やはり『戦女神』としての特別な存在感は大きいらしく、院生達の思考からは『畏れ多さ』が強く感じ取れた。朔耶が分け隔てなく接しようとしても、周りの腰が引けている状態。
 さらに、このグループのメンバーもリーダーの金髪縦ロールお嬢様が公爵家の令嬢だったりと、結構な上流貴族で構成されているので、気軽に近づき難い空気を作ってしまっているようだった。
 さておき、見た目は小柄で女の子のような少年が、実は召喚獣の身体で中身は西方大陸でも名の知れた冒険者という変わりたね要素てんこ盛りなコウには、彼等も興味津々のようだった。

「へぇ~、向こうの魔術士って攻撃専門とか治癒専門にはっきり分かれてるんだ?」
「やっぱり突き詰めると細分化されるものなのかもね」

 見習い魔術士らしき少年少女が、フラキウルで一般的な冒険者の職業システムに関心を示すと、がっしりした体格の近接系っぽい青年二人が、フラキウルの武具市場について関心を示す。

「……魔法の効果付きの武具が普通に売られているというのも凄いな」
「恐ろしい魔物がごろごろしてる土地柄なんだろうか」

 向こうフラキウルでは、アンダギー博士のような魔導技士達が魔法の効果付き武具の製造を手掛けており、それなりに高価ではあるが、コネがあれば一般の冒険者でもそこそこの物が手に入る。
 対してオルドリアでは、魔術士に大金を払って質の良い武具に呪文を刻んでもらう、というのが常識らしく、効果も聞いた限りは微妙な物のようだ。

「コウ様は~、こんなに小さいのにぃ~、冒険者さんなのですね~~」

 一人、ワンテンポ遅れて話題に付いて来る女生徒も居る。朔耶の友人達も割と個性派揃いのようだった。コウがそんな事を思っていると、先程の『サクヤの隠し子』発言でツッコまれていた青年がエイネリアを指しながら訊ねた。

「ところで、そちらの女性は?」
「おお、流石ドーソン。ネリアちゃんに気付くとは」

 朔耶がそう言って感心する。いつ誰が気付くか、気付かなければどのタイミングで教えようかと考えていたらしい。
 大学院に通う院生達には貴族も多く、侍女や使用人を連れている事も珍しく無い。その為、コウの傍に控えるエイネリアに対しても『客人付きの使用人』と認識され、誰も気に掛けなかったのだ。
 ドーソンと呼ばれた青年と朔耶の一言によって、皆の注目がエイネリアに注がれる中、コウはエイネリアの出自を明かした。

「ええっ! 古代の発掘品ですって!?」
「魔導人形って、人間じゃないって事?」
「……凄いな」

 サロンに居合わせている他の院生達も含め、皆コウの少年型召喚獣や複合体に十分驚いていたが、古代文明の遺産という肩書を持つ存在エイネリアに唖然としている。
 学友達のそんな反応に、朔耶は「まあ、びっくりするよね」と苦笑しつつ納得していた。


 ひとしきりエイネリアと古代文明を話題に盛り上がったところで、コウはわざわざエイネリアを連れている理由について語った。
 古代魔導文明時代の、様々な情報が蓄積されている彼女の記憶を使えば、オルドリア大陸でまだ未発見の古代遺跡を見つける事が出来るかもしれないという内容。

「そう言えば、この大学院の地下にも遺跡がありましたわね?」

 金髪盾ロールお嬢様――エルディネイア嬢が地下にある遺跡について言及する。彼女の思考から情報を読み取ると、以前、事件に巻き込まれて地下遺跡の一室に監禁された事があるらしい。その事件は朔耶が解決に貢献したようだ。

 王都ではここ数年の間にも何度か大きな事件があり、その内の幾つかは王都の地下を走る遺跡の通路などが、街への侵入ルートとして利用されたらしい。ここ王都フレグンスは、古代遺跡の上に建造されているという話。

「あたしが意識の糸で調べた時は、地面の所々に空間があって、あの長い抜け道もそれで見つけたんだけど、ネリアちゃんなら大昔ここに何があったか正確に分かるらしいわよ?」

 朔耶がそう言って水を向けて来たので、コウはエイネリアに応対の許可を出して説明させた。

「この一帯は大図書地区に指定されており、多くの記録情報を閲覧出来る施設がありました」

 ありとあらゆる情報媒体を参照出来る、書庫施設が集中している場所だった事が明かされると、多くの院生達から興味を抱く思考を拾い取れた。
 純粋に古代文明に想いを馳せている生徒もいれば、新たな遺跡発見で一躍有名人になる事を夢想したり、発掘品を掘り当てて大儲けを企んだりと様々だ。

「へー、大図書館――いや、地区かぁ」
「……この一帯の土地が、丸ごと図書館のような場所だったという事か」
「そんな場所に大学院が立ってるってのも、面白いね」

 朔耶の友人グループからも関心の呟きが囁かれる。すると、先程のドーソンがこんな事を言った。

「それなら、もしかしたら地下通路を探せば古代の本とか見つかるかも?」
「バカバカしい。あの通路の小部屋は土砂も撤去して、調査隊が全部調べていたでしょう?」

 発掘品があるならとっくに見つかっている筈だとツッコむエルディネイア嬢に、ドーソンは冗談を言ってみただけだよと返している。
 そんな二人のやり取りに、投げ掛けられるコウからの一言。

「おにーさん達が知ってる場所よりもっと深いところにも、部屋とか通路があるみたいだよ?」
「もっと深い所?」

 コウの言葉に、朔耶を含め皆が注目する中、エイネリアが再び説明を始める。この場所にあった書庫施設は地下十階にまで及び、緊急時には数百人を収容して水や食料の供給も出来る他、病院や娯楽施設も完備した最大規模のシェルター機能を持つ施設であったと。

「地下十階!」
「そう言えば、あの無人島の遺跡も地下六階まであったっけ」

 エルディネイア達が施設の規模の説明に驚いている隣で、朔耶は件の無人島リゾート遺跡の事に触れながら推測する。

「シェルターにもなるって事なら、深い場所の建物はまだ残ってるかもしれないって事?」

 朔耶のそんな鋭い問い掛けに、コウは大学院に来てエイネリアを取り出した際、彼女から報告された内容を教えた。

「実はさっき、エイネリアが地下の信号をキャッチしたって言ってたんだ」
「えっ、マジ?」
「まじまじ」
「……? どういう事ですの? サクヤ」

 コウと朔耶のやり取りに、困惑した表情のエルディネイアが皆を代表して問い掛ける。朔耶は、コウと同じポーズで地面を指し示しながら答えた。

「大学院の地下に、まだ動いてる古代遺跡があるらしいって」
「……ええーーっ!」

 一瞬の間をおいて、エルディネイア達から驚きの声が上がった。

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