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第一話
しおりを挟むこの世界には人間に似た、けれども異なる種族がいる。それが【鬼】だ。
額に角が生えており、人間よりも図体がデカく力も強いらしい、しかし人間より数は少ないとも。
人間は鬼の力に怯えおり、伝承では鬼は悪の側面として伝わっている。
土地によって人間と鬼の関係は異なるらしい。
ーーーーー
「ふぅ…疲れた…」
雪が溶け、暖かくなってきてちょくちょく桜が咲き始めてきた季節。
私【ハル】は村から離れた海が見える崖に来て岩の上に座った。
潮風が私の長い桜色の髪をなびかせ、父親譲りの黄緑色の目を細める。ここは私にとって唯一安らげる場所だった。
目の前には【鬼ヶ島】が見える。その名の通りその島は鬼が住んでいる。噂によれば沢山の金銀財宝を隠し持っているとか。
私自身は鬼と会ったことはないが、恐ろしい存在ということは知っている。
だから目の前に見える鬼ヶ島に住む鬼達はどんな生活をしているのだろうか、私人間と同じような暮らしをしているのだろうかと妄想している。
とは言っても鬼ヶ島は簡単に入れないだけで普通に人と交流しているらしいが。
春になったとはいえ、潮風はまだ冷たい。従兄弟のお下がりであるボロい茶色の着物は絶妙に風から肌を守ってくれていない。
「…戻りますか。」
着いたばかりだが長いは出来ない。私は立ち上がり村の方に帰る。
村に着くと、複数の人影が私の前に立ち塞がる。
「よう、ノロマ。どこに行っていたんだよ?」
視線を下にしていた私は見上げる。そこにいたのは一つ上の従兄弟である【トウヤ】だった。
癖のある黒髪に私よりも背が高いことを利用して緑色の目で私を見下していた。
「別に、貴方には関係には関係ないことです。」
そっけない回答に、私はそのまま通り過ぎようとした。
しかしトウヤは私の髪を引っ張って自分の方に寄せてきた。
「誰に対してそんな口聞いてるんだ?あ?」
「ゔっ…」
トウヤは髪を引っ張った後、そのまま地面に私を放り投げた。
起き上がれない私の髪を今度は鷲掴みしてくる。
トウヤの取り巻きはニヤニヤしている。
「まったく、自分の立場がわかってねぇみてぇだな?火事で孤児になったお前をわざわざ引き取って飯とか与えてやってるのによ。」
確かに私は幼い頃、火事で両親を失い、トウヤの家族に引き取られた。トウヤの父親は私の父親の兄でありこの村の村長である。引き取ったのはあくまで村長でありトウヤではない。
何故か彼は私を気に入らないらしい。こうして私を虐めてくる。今来ている着物も彼がわざわざボロボロにして渡してきたのだ。
それに飯を与えてると言っているが、自分が渡されるのは従兄弟家族の残飯、しかも食べられない日だってある。
「あ、そうだ。親父がお前のこと探していたぞ。」
「村長が、ですか?」
「あぁ、ったく、気にいらねぇ。」
トウヤは一瞬眉を潜め、立ち上がり倒れている私を再び見下す。
「さっさと行けよな、ノロマ。」
そう言ってトウヤは取り巻きを連れて何処かに去っていった。
立ち上がり服に付いた砂埃を叩き、家に戻る。
通り過ぎる村人達はこんな私を見て見ぬ振りする。無理もない。村長に口答えなんて出来る訳がない。
叔父とその妻である叔母、そしてトウヤの兄であるもう1人の従兄弟は私のことは放置している。
とはいえ引き取ってくれたこともあるし、必要最低限な支援はしてくれている。だから少なからず私は彼らに感謝していた。
「失礼します、ハルです。」
家に戻り、叔父の部屋に尋ねた。中に入れと言われたので中に入ると、叔父と叔母が座っていた。
「来たか、お前に頼みたいことがあってな。今夜亥の刻に村外れの空き家に行ってきて欲しい。」
「それは、何故?」
「…客人が来るのだ、今夜その空き家に泊まるんでな、客人の安全を確認しようにも繊細な方らしくて男が苦手らしいのだ。けれども夜に女を歩かせる訳にはいかない。お前は見方によっては女に見えるから良いと思ったのだ。」
と説明される。けれども疑問点がいくつかある。客人は何者なのか、何故客人を空き家に泊まらせるのか、わざわざ夜中に確認しにいく必要があるのか。でも。
「わかりました。」
「そうか!助かるぞ。」
どっちにしろ私に拒否権は無いのだから。それに確認しに行くぐらいなら大した負担もない。
そして亥の刻。叔父に頼まれた私はさっそく村外れの空き家を訪れた。灯りが薄らと見える。
そういえば客人って女性なのだろうか?男性が苦手らしいと言っていたが。私はノックする。
格子戸が乱暴に開いた。見上げると4尺はあるのだろうか。ガタイの良い男がこちらを見下ろしていた。
「来たか。」
ガタイの良い男は断りもなく私の腕を掴み、空き家の中に引き連れた。
そしてそのまま私を床に押し倒す。
何が起きたのかわからないまま私は男の額を見て驚愕する。
人間には決して生えることがない角が生えていた。
「お、鬼?!」
初めて見た鬼に私は震えが止まらない。それだけじゃない。何故鬼がここにいるのか。それにこの状況に嫌な予感してしまう。
「ほっせぇ身体だなぁ、まぁいいか。」
「ま、待ってください!一体何が?!」
「何がって、わかってるだろ?」
鬼は舌なめずりをする。そして私の着物を脱がしてきた。
「?!!やめてください!」
必死に抵抗するが鬼の力があまりにも強すぎてびくともしない。抵抗も虚しく着物が脱がされてしまう。
しかし鬼は私の身体を見て目を丸くしていた
「?!、なんだこれ…火傷の跡?」
見られた。
私の身体には鎖骨から太ももまで大きな火傷の跡がある。火事で逃げ遅れてその時火傷を負ってしまった。
出来るだけ隠したくて髪を伸ばしていたぐらい私はこの火傷の跡が嫌いだった。
「…気持ちわりぃ…」
「?!!」
鬼は眉をひそめた。その目はまさに嫌なものを見てしまったような、軽蔑な眼差しだった。
何故襲われた上にこんなことを言われなくてはいけないのか。
私は鬼が呆然してる隙に着物を掴んで逃げ出した。
「あっ、おいっ!」
私は必死に走り出した。家に戻らずにあの崖に向かう。
崖に付いた私は岩に座って涙を流していた。
すると足音が後ろから聞こえてきた。後ろを振り返るとトウヤだった。
「はっ、ザマァねえな。親父に利用されるとは。」
「それはいったい…」
「親父達、あの鬼になんかやらかしたらしくて鬼はお怒り、んで許してもらう為にお前を売ったってわけ。」
売った?
それを聞いて私は動揺する。そんな私にトウヤは肩を組んできた。
「ま、無理もないよな。誰もお前を大事に思っちゃいない。鬼でさえ。その身体、見られたんだろ?」
「?!!」
「本当、気持ち悪い身体だよな。お前があの時逃げ出せれば、両親は死ななかった。その火傷の跡は親を殺した証、だもんな。」
それを聞いた瞬間、身体中が熱くなる感覚に襲われた。そして気がついた時にはトウヤを突き飛ばしていた。
「うわっ、いてぇな。」
けど私は力がない為、トウヤは突き飛ばしはしたが倒れることなくふらつく程度で立っていた。
「戻れよ。」
「いやです。」
トウヤはじわじわと近づいてくる。私は後退りする。
けれども後ろを気にする余裕がなかったのか、崖っぷちに立ってしまい、そして足元を滑らした。
「?!!おい!!」
身体が宙に浮く。いや、落ちていく。
あぁ、もうこのまま死んでもいいや。
私は意識を失った。
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