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第10話

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「あれほどの愛があるなんて、ピート様はすごいのね」
「メーベル様が羨ましいわ」
「すごいな、よく婚約なんてできたよな。俺、ピートのこと尊敬するぜ」
「メーベル様に愛されるなんて、きっとピート様も立派な方なのでしょうね」
「メーベル様に誘われたことがあったけど断って良かったと思う。本当に」

ピート様とメーベル様の婚約は大々的に発表され、二人の関係は学園内でも知らない者がいないほどになった。
でも表面的な祝福以外には、よくあのメーベル様と婚約したものだという侮蔑のような陰口が多かった。
だって…メーベル様といえば性に奔放なことで有名だし、好きになった相手には異様に執着するし、何をするかわからない恐ろしさがあるもの。
きっと令息の皆様はメーベル様のターゲットにならなくて済むと安堵したに違いない。

それよりも一番驚いたのはメーベル様が令嬢たちに牽制するためなのか、ピート様が浮気したらピート様を刺すと公言したことだ。
実際に浮気しようとしたピート様を刺したとも言っていたので、みんな引いていた。
そのような行為をしたメーベル様に関わりたいと思う令嬢はいないだろうし、そこまでのリスクを負ってピート様と浮気するような人はいない。
メーベル様の過激な言動は、きっと周囲から距離を取られることで二人だけの世界を邪魔されないようにするためなのだと思う。
私だって関わりたくないし。

「もう私とは関係ないし、二人で幸せになってくれることを願うばかりだわ」

そう私が考えていてもメーベル様は違っていた。
私に感謝の手紙を寄越したのだ。
要約すると「浮気未遂を教えてくれてありがとう」という内容だった。

私が書いたのは復縁を申し込まれて断ったという事実。
そのようなピート様の振る舞いに困っているという意思表明。
ピート様がどう釈明したのかは知らないし、メーベル様がその釈明で納得できたのかも知らないけど、私は嘘なんて書いていない。

私が意図したのは嫉妬心を煽って二人が強く結ばれる切っ掛けを与えること。
メーベル様の気持ちに火をつけ、ピート様がメーベル様の身を焦がすような愛を一身に受けてもらうため。
私の気遣いが功を奏したのだからメーベル様が感謝の手紙を送ってくれたのだろう。
大成功に終わり私も嬉しい。

それと嬉しい誤算は、モーゲット子爵家が渋っていた慰謝料をピンクルー伯爵家が代わりに支払ってくれたことだ。
メーベル様の強い意向があってのことだったけど、きっとピート様とはもう関わらないように、というメッセージを込めてのことだと思う。
安心してください、もうピート様とは関わりたくありませんから。
それと慰謝料の肩代わり、ありがとうございます。
本人に直接伝える勇気はないから、心の中だけでメーベル様には感謝しておく。

* * * * * * * * * *

婚約関係になった二人の距離は近い。
どこへ行くにも二人は一緒。
楽しそうに話しかけるメーベル様と、魂が抜けたようなピート様の姿は異様なものでしかなかった。
でもそれが二人の愛の在り方なのだろう。

「まあ、見て、あの二人の熱愛ぶり」
「本当、愛し愛されているのね」

下手なことを言うとメーベル様が何をするかわからないので、みんな心にもないことを口にする。
万が一本人に聞かれても問題ないように。
言葉の裏を読めないようでは貴族として失格だ。

「ピート様も本当の愛を手にできたようで良かったわ。私ではピート様には相応しくなかったもの。メーベル様とピート様は結ばれる運命だったのよ」

私も心にもない言葉を口にする。
でも二人が結ばれて本当に良かったと思う気持ちに嘘偽りはない。

あんなにも歪な関係、全然羨ましくないわ。
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