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第8話

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用があって貴族街のほうにやってきたが、服装からして平民としか思えないような格好の俺には場違いとしか思えなかった。
小綺麗にしているつもりはあったが、このままでは不審者扱いされかねないと考えていたとき、前方から一人の女性が歩いてくる姿を確認した。
貴族の令嬢にしては供も連れないのはおかしい。
かといって明らかに場違いと言えるような服装でもなく、貴族の令嬢としてはみすぼらしい服装で、中途半端だと思えた。

だがこれは俺にとって必要な出会いだったのだと思う。
本当に一人なのか、何か事情があるのか確認したほうがいいと思い、俺は話しかけた。

「あの…」
「何よ?何か用なの?」
「いや、一人なのかなって思って」
「ふーん、一人ならどうするつもり?」
「困っているなら手を差し伸べようかなって思ったんだ」

そう言った途端、女性は態度を胡散臭い者を見下げるようなものから利用できそうな獲物を見つけたように積極的に話しかけるものへと変化していた。

「ちょうどよかったわ。行く場所も何も無くて困っていたのよ。だから遠慮なく助けてよ」
「遠慮なくって……。もしかして家出?」
「そんなのじゃないわ。家から追い出されたのよ。家族だと思っていたのに酷い人たちだったわ」
「それは大変だったね。行く場所がないならどうにかできるかもしれないけど…ちょっと離れたところまで行かないといけないし、貧民街のほうだし、どうする?」
「…しかたないわ。他に当てもないもの。案内して」
「ああ。ついてきて」

貴族の令嬢だとは思えなかったが困っているというのは本当だろう。
そういった人に手を差し伸べるのも俺の役割だと思う。

道中、散々愚痴に付き合わされて事情も把握できた。
間違いない、彼女は貴族家の養女だったが縁を切られて追い出された人物だ。

「それにしても貴方がいて助かったわ」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「良い心掛けだわ」

もう貴族の娘ではなくなったというのに相変わらず偉そうな口ぶりに苦笑してしまう。
だが俺にとっては良い出会いだったことは間違いない。

事前の情報通りだと思った。
貴族家との縁が切れた元孤児。
失踪したところで誰も気にしない存在。

売ったところで高くはないだろうが、足が付かない相手だから悪くはない。
自分を待ち受けている未来を知らずに偉そうにしていられるのも今のうちだ。
せいぜい嗜虐趣味の金持ちにでも買われて後悔すればいい。

「こんな私を放り出すのよ。酷いと思うでしょ?」
「ああ、そうだね」

こんな酷い人なら放り出されても当然だと思ったし、売り払ったところで心も痛まない。

「もうすぐ着くよ」

俺たち人身売買組織の拠点の一つ。
そこまで行けばもう逃げられやしない。

相手のほうからホイホイついてくるような簡単な仕事は滅多にない。

「私にはもっと相応しい場所があるに決まってるわ」
「本当にそう思うよ」

相応しい場所は虐げられ許しを請おうが許されず後悔する場だろうけどな。
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