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リゼッタは、後宮の庭を歩きながら思っていた。
―広くて素敵。けれど、息苦しい。
豪奢な回廊、整えられた庭。
どれもが美しく、完璧だ。
「皇后陛下」
女官の声に、背筋を正す。
皇后になってから、まだ日が浅い。
それでも、誰もが彼女を「陛下」と呼ぶのは当たり前だが、リゼッタは心もとなかった。
ふと、視線の先に人影が見えた。
―貴妃。
蓮胡蝶。
本来であれば、胡蝶が皇后に選ばれるはずだった。
そう教えられていたはずなのに、胸に浮かんだ感情は警戒ではなかった。
背筋を伸ばして歩く姿。その一歩一歩に、迷いがない。
綺麗な人だ。
思わず、そう思ってしまったことにリゼッタは驚く。
西の国では、女性が武を学ぶことはなかった。
女性は淑やかに、守られるべき存在だと教えられてきた。
けれど胡蝶は違う。
誰かの後ろではなく自分の足で立ち、前を向いている。
視線が合った。
一瞬、胸が跳ねる。
だが胡蝶は、皇后であるリゼッタに深く一礼した。
そこには、敵意も媚びもなかった。
そのことに、なぜか胸が温かくなる。
「皇后陛下」
女官長・麗蘭が、静かに近づいてきた。
「後宮での暮らしに、お困りのことはないでしょうか」
「いえ」
そう答えかけて、言葉を飲み込む。
本当は、分からないことだらけだ。
立ち振る舞いも、この場所で“正しい皇后”である方法も。
「…少しだけ聞きたいことがあるの」
リゼッタは、意を決したように言った。
「貴妃は、どんな方なの?」
麗蘭の視線が、ほんのわずかに揺れる。
「強く、誇り高いお方です」
それだけを告げて、女官長は口を閉じた。
その短い言葉が、なぜか胸に残る。
強く、誇り高い人。
―ああ、あんな人がそばにいてくれたら。
そう思ってしまった自分に、リゼッタは小さく笑う。
皇后の座も、不老の加護も、本当はまだ実感がない。
ただひとつ、確かなことがあった。
この後宮で、胡蝶という存在が自分の世界を変える。
そんな予感だけが、胸に静かに芽吹いていた。
―広くて素敵。けれど、息苦しい。
豪奢な回廊、整えられた庭。
どれもが美しく、完璧だ。
「皇后陛下」
女官の声に、背筋を正す。
皇后になってから、まだ日が浅い。
それでも、誰もが彼女を「陛下」と呼ぶのは当たり前だが、リゼッタは心もとなかった。
ふと、視線の先に人影が見えた。
―貴妃。
蓮胡蝶。
本来であれば、胡蝶が皇后に選ばれるはずだった。
そう教えられていたはずなのに、胸に浮かんだ感情は警戒ではなかった。
背筋を伸ばして歩く姿。その一歩一歩に、迷いがない。
綺麗な人だ。
思わず、そう思ってしまったことにリゼッタは驚く。
西の国では、女性が武を学ぶことはなかった。
女性は淑やかに、守られるべき存在だと教えられてきた。
けれど胡蝶は違う。
誰かの後ろではなく自分の足で立ち、前を向いている。
視線が合った。
一瞬、胸が跳ねる。
だが胡蝶は、皇后であるリゼッタに深く一礼した。
そこには、敵意も媚びもなかった。
そのことに、なぜか胸が温かくなる。
「皇后陛下」
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「後宮での暮らしに、お困りのことはないでしょうか」
「いえ」
そう答えかけて、言葉を飲み込む。
本当は、分からないことだらけだ。
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「…少しだけ聞きたいことがあるの」
リゼッタは、意を決したように言った。
「貴妃は、どんな方なの?」
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「強く、誇り高いお方です」
それだけを告げて、女官長は口を閉じた。
その短い言葉が、なぜか胸に残る。
強く、誇り高い人。
―ああ、あんな人がそばにいてくれたら。
そう思ってしまった自分に、リゼッタは小さく笑う。
皇后の座も、不老の加護も、本当はまだ実感がない。
ただひとつ、確かなことがあった。
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そんな予感だけが、胸に静かに芽吹いていた。
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