プレアデスは遥か彼方(2025.10.5完)

継永乃々佳@J庭59ぬ11b

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3章 Crescendori

Crescendori#5

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「りっちゃーん、ただいまー。四日ぶりの愛しの我が家だー」
「だから、ここは昴の家じゃないし、ていうか僕の家ってわけでも無いんだけど……まあ、おかえり」
 ――十二月の金曜日。バイト上がりでニコニコと満面の笑みを浮かべた昴が、親に内緒で持たせた合鍵を使い理月の住むマンションへと帰ってきた。理月は片眉を上げ、顔に呆れを浮かべて挨拶を返す。

 彗上学園大学一年生となった理月は春から一人暮らしを始めた。大学入学以降は一人暮らしをしても良い決まりとなっていたため、意気揚々と実家がある世田谷区から離れ、藤原家が保有するマンションの中から港区のタワーマンションの一室へと引っ越したという流れ。一人暮らしは許可されていても、大学生期間の物件は藤原家の持ち物の中から、という決まりがある。決まりばかりの藤原家だが、家の持ち物から選ぶこととなったとしても一人暮らしが出来ることは有難い。ピアノ演奏可のマンションだから、こっそりアップライトピアノを買って運び入れた。

 実家には執事にシェフに家事担当と、その他にもお手伝いさんが多数居たから生活する上では何の苦労も無かった。だから一人暮らしに戸惑うこともあったけれど、それから八か月が経った今は一人暮らしにもすっかり慣れたものだ。
 昴は世田谷区で一人暮らしをしているけれど、理月の住まいと同じ港区にあるノットゥルノにて相変わらずピアニストのバイトを続けているため、バイト上がりには決まって理月の家に立ち寄っている。

「ねえ、今日『恋人と一緒に食べなー』って中村さんから試作品のドルチェ貰ったんだ。りっちゃん、一緒に食べよ」
「僕は恋人でも無いだろ……昴、僕のこと中村さんになんて話してるの?」
「大好きな人って話してるー」
「その言い方じゃ誤解されるだろ。大好きな友達とか言わないと」
 昴は理月に試作品のドルチェが入った箱を手渡して、話を続けながらアイランドキッチンのシンクで手を洗う。中村さんはノットゥルノのパティシエで、強面のおじさんだ。昴はノットゥルノのスタッフの中では当然最年少で、中村さんだけではなくスタッフ全員から猫かわいがりされている。昴は猫と言うより、犬っぽいが。

「――しかし昴、また大きくなった気がするな……今何センチ?」
 シンクで手を洗う昴の姿を眺め、改めて『大きくなったな』と感じてそう言った。初めてこのマンションに招いた時は目線が同じくらいだったのに、今や少し見上げなければ目が合わない。可愛らしかったチワワの頃の面影は残っているものの、大きく育ったなあ、という感じだ。

「今一八四センチだよー。まだ大きくなるかな?」
 出逢ってすぐの頃の昴は、身長一六八センチ。理月より背が低くて、可愛らしい弟のような感じだった。高一の夏のコンクール時点では身長にほぼ変わりはなかったけれど、夏から月に一センチ伸びる形で急激に伸び始め、冬のコンクールの時点では一七四センチまで身長が伸びていた。勿論、夏のコンクールも冬のコンクールも出た部門で優勝した。
 高二に進級した昴は、高二のコンクールでもやはり最優秀賞や金賞を飾った。身長は相変わらず伸びていて、高二の夏のコンクール頃には理月の背を抜かし一八二センチとなっていた。伸びる速度は落ちたものの、それからもじわじわ伸び続けている。

「昴、毎日牛乳飲んでるしもうちょっと伸びるかもね。でも、これ以上大きくなったら服買う時に困りそう。昴、最初はチワワみたいだったのに、今はゴールデンレトリバーみたいだよね」
 そんな会話を続けながら理月がダイニングテーブルの上で箱を開けると、中には長方形にカットされたケーキが三つと、プリンが一つ入っていた。夜空の星のように銀箔を散らして満月のような丸い金箔を乗せた夜空モチーフのオペラ、ピアノの鍵盤をかたどったホワイトチョコのケーキ、ト音記号型のチョコと苺を乗せた長方形のショートケーキ、八分音符型のチョコを乗せたプリン。夜空と音楽のモチーフだ。

「なんだか全部昴をイメージしてるみたいに見えるね。夜想曲(ノットゥルノ)って店名に合わせてるんだろうけど」
「星とピアノと音符だもんねー。店のみんなも僕っぽいって言ってた。あ、そうだ、夜空のオペラには金箔で月も乗せてって僕がお願いしたんだよ。もっと綺麗になったと思わない?」
「綺麗だけどさ、コストが上がっちゃうだろ。別に、銀箔だけで十分綺麗なのに」
「そう言うと思ったー。だから、これは試作品。店で出すのは銀箔だけになるんじゃないかな。それ、りっちゃんが食べて良いよ。オペラ好きでしょ?」
 昴は濡れた手をタオルで拭くと、勝手知ったる調子で食器棚から二枚の皿とカトラリーを取り出してダイニングテーブルへと運ぶ。

「半分こで良いよ。切り分けて全部半分ずつで良いんじゃない?」
「とも言うと思ったから、ちゃんとナイフも持ってきたよ。僕、りっちゃんのことなら何でも分かっちゃうんだな~」
 昴はニコニコと機嫌よく三つのケーキを半分に切り分け「プリンは切れないなあ~」と言いそのままに。小さくなったケーキをふたつの皿に三つずつちょんちょんと乗せて、理月と向かい合ってテーブルに着いた。
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