21 / 60
4章 星降る夜に
星降る夜に#2
しおりを挟む
「わあ……綺麗だね。本当によく見える」
肉眼で見る昴――プレアデスは、都内の公園から肉眼で見上げる程度だとギリギリ分かる程度だ。けれどレンズ越しのプレアデスは肉眼よりもずっと鮮明に青白い光がきらきらと見えて、まるで夜空に散りばめた宝石のようだった。真っ暗な夜空にはっきり浮かび上がるコントラストの対比が美しい。肉眼では見えない多数の小さな星々が星団の周りに広がっていて、ただ綺麗だ。
「でしょ。この望遠鏡、父さんのお下がりなんだけど、お気に入り。ちっさい頃に、この望遠鏡で昴を見せてもらって……綺麗だなーって感動した。僕の昴って名前もお気に入り」
「初めて逢って名前を聞いた時、僕も本当に綺麗な良い名前だなって思ったよ。昴にぴったりの良い名前だなって」
「嬉しいなー。僕も星の昴みたいに、きらきら光れてたら良いんだけど。それとも、ちゃんと光れてたのかな? だからりっちゃんに見付けてもらえたのかな」
「昴との出会いは、光ってたから見付けた……っていうより、彗星みたいなものだけどね。あれは昴が僕にぶつかってきた、って感じだろ。昴の音は彗星みたいに、剛速球で光ってたよ」
一昨年の春を思い出し、くつくつ喉を鳴らして笑った。昴との出逢いは本当に、青天の霹靂の彗星のようだった。
「僕もあの時、りっちゃんが光って見えたよ。お月様みたいな人だな、って。それから、名前も。本当に綺麗だなって思った。ほら、この間『りっちゃんがもっと納得出来る理由を考える』って言ったの覚えてる? それで、りっちゃんが納得出来る理由を考えてみたんだけどさ」
望遠鏡を覗き込む理月の隣に立ったまま、昴は言葉を続ける。
「やっぱり僕は、単純に月が好きなんだよね。衛星だっていう知識はあるけど、それだけ。りっちゃんが好きな『月光』だって、月があるから生まれたわけじゃん? たくさんの芸術家が月を想って曲を作ったり、絵に描いたり、物語にしたり……月ってたくさんの人に愛されてる存在だよね。僕も月が大好き。単純に、眺めてると綺麗だなって思うし。沢山の人が綺麗だって思うから、この世に月をモチーフにした作品がたくさんあるんだよ。月が光って見えるのは太陽の光を反射して光っているから――っていうのは常識だけど、惑星なんてみーんなそうじゃん。自分で光ってるのは恒星だけでさ。光ってない新月の時も、僕は好きだな」
「新月が好きなのはなんで? 全く見えないのに」
「静かな夜って感じで良いなって。僕はあんまり新月に対して悲しいとか寂しいってイメージは無くて、隠れてる時も優しいイメージがあるなあ。暗い夜道を明るく照らしてくれる存在でもあって、優しく夜の闇で覆い隠してくれる存在でもある、みたいな。そんな感じしない? ほら、内緒話する時とかに良さそう」
昴はそう言って理月の横にしゃがむと、耳元に手を当ててこしょこしょと囁いてきた。くすぐったさに身じろぎして、望遠鏡から目を離す。ちらりと昴に目を向けると、ぱちりと視線が交差した。目が合えばふにゃりと柔らかく笑いかけられ、釣られてふっと頬が緩む。
「りっちゃんが納得出来る理由を考える、って言った割に『僕は月が好き』としか根拠が出せないんだけど。何かに対してどういう印象を持つかは個人の自由だし、りっちゃんが月を嫌いでも仕方ないとは思うんだけどさ――でも、自分の名前にマイナスなイメージがあるのって、嫌だろうなって思うし。だから、りっちゃんも好きになってくれたら良いなって思う。月は『昴が好きなもの』ってことにして、イメージ上書きしてみない?」
「昴は優しいね。それから、ロマンチスト。そういうところがピアノの音色に現れてるのかな。昴が好きになってくれるなら、月も悪くないなって思えてくる」
「好きだよ。ずーっと好き。月もりっちゃんのことも。星の昴は恒星だから自分で光ってるけど、月の光には全然敵わない。僕はりっちゃんが月光を弾いてる姿を見て――本当に、月みたいな人だなって思った。今夜は夜空に月が出てないけど、僕にとってりっちゃんはいつでもぴかぴかに光ってるお月様だから、今日も月が綺麗だなあって思う。りっちゃんのことが大好きだよ」
昴は微笑んで理月を見つめ、そう口にした。
「僕より昴の方が、ずっと凄いだろ。過大評価だよ。でも、ありがとう。衛星じゃなくて、昴が好きな月だって思うと、自分の名前が良いものに思える」
「りっちゃんがそう思ってくれたら、僕も嬉しい。僕は、りっちゃんの『理月』って名前、すごく好きだよ」
昴は笑みを浮かべたまま、けれど少し眉を下げてそう返す。そして「じゃあ、本格的に色々観て行こっか?」と続け、プラネタリウムの生解説よろしく望遠鏡を交互に覗きながら星の解説を始めた。解説を聞きながら時折質問してみては、昴のすらすらとした返答に感心する。
昴が理月の名前について真剣に考えて、天体観測に連れて来てくれたのだろうと感じて嬉しかった。そんな昴のおかげで、複雑な思いを抱いていた自身の名前が、ようやく好きになれた気がした。
これが昴との初めての天体観測で――後になって思えば、多分、初めての昴からの告白だった。
肉眼で見る昴――プレアデスは、都内の公園から肉眼で見上げる程度だとギリギリ分かる程度だ。けれどレンズ越しのプレアデスは肉眼よりもずっと鮮明に青白い光がきらきらと見えて、まるで夜空に散りばめた宝石のようだった。真っ暗な夜空にはっきり浮かび上がるコントラストの対比が美しい。肉眼では見えない多数の小さな星々が星団の周りに広がっていて、ただ綺麗だ。
「でしょ。この望遠鏡、父さんのお下がりなんだけど、お気に入り。ちっさい頃に、この望遠鏡で昴を見せてもらって……綺麗だなーって感動した。僕の昴って名前もお気に入り」
「初めて逢って名前を聞いた時、僕も本当に綺麗な良い名前だなって思ったよ。昴にぴったりの良い名前だなって」
「嬉しいなー。僕も星の昴みたいに、きらきら光れてたら良いんだけど。それとも、ちゃんと光れてたのかな? だからりっちゃんに見付けてもらえたのかな」
「昴との出会いは、光ってたから見付けた……っていうより、彗星みたいなものだけどね。あれは昴が僕にぶつかってきた、って感じだろ。昴の音は彗星みたいに、剛速球で光ってたよ」
一昨年の春を思い出し、くつくつ喉を鳴らして笑った。昴との出逢いは本当に、青天の霹靂の彗星のようだった。
「僕もあの時、りっちゃんが光って見えたよ。お月様みたいな人だな、って。それから、名前も。本当に綺麗だなって思った。ほら、この間『りっちゃんがもっと納得出来る理由を考える』って言ったの覚えてる? それで、りっちゃんが納得出来る理由を考えてみたんだけどさ」
望遠鏡を覗き込む理月の隣に立ったまま、昴は言葉を続ける。
「やっぱり僕は、単純に月が好きなんだよね。衛星だっていう知識はあるけど、それだけ。りっちゃんが好きな『月光』だって、月があるから生まれたわけじゃん? たくさんの芸術家が月を想って曲を作ったり、絵に描いたり、物語にしたり……月ってたくさんの人に愛されてる存在だよね。僕も月が大好き。単純に、眺めてると綺麗だなって思うし。沢山の人が綺麗だって思うから、この世に月をモチーフにした作品がたくさんあるんだよ。月が光って見えるのは太陽の光を反射して光っているから――っていうのは常識だけど、惑星なんてみーんなそうじゃん。自分で光ってるのは恒星だけでさ。光ってない新月の時も、僕は好きだな」
「新月が好きなのはなんで? 全く見えないのに」
「静かな夜って感じで良いなって。僕はあんまり新月に対して悲しいとか寂しいってイメージは無くて、隠れてる時も優しいイメージがあるなあ。暗い夜道を明るく照らしてくれる存在でもあって、優しく夜の闇で覆い隠してくれる存在でもある、みたいな。そんな感じしない? ほら、内緒話する時とかに良さそう」
昴はそう言って理月の横にしゃがむと、耳元に手を当ててこしょこしょと囁いてきた。くすぐったさに身じろぎして、望遠鏡から目を離す。ちらりと昴に目を向けると、ぱちりと視線が交差した。目が合えばふにゃりと柔らかく笑いかけられ、釣られてふっと頬が緩む。
「りっちゃんが納得出来る理由を考える、って言った割に『僕は月が好き』としか根拠が出せないんだけど。何かに対してどういう印象を持つかは個人の自由だし、りっちゃんが月を嫌いでも仕方ないとは思うんだけどさ――でも、自分の名前にマイナスなイメージがあるのって、嫌だろうなって思うし。だから、りっちゃんも好きになってくれたら良いなって思う。月は『昴が好きなもの』ってことにして、イメージ上書きしてみない?」
「昴は優しいね。それから、ロマンチスト。そういうところがピアノの音色に現れてるのかな。昴が好きになってくれるなら、月も悪くないなって思えてくる」
「好きだよ。ずーっと好き。月もりっちゃんのことも。星の昴は恒星だから自分で光ってるけど、月の光には全然敵わない。僕はりっちゃんが月光を弾いてる姿を見て――本当に、月みたいな人だなって思った。今夜は夜空に月が出てないけど、僕にとってりっちゃんはいつでもぴかぴかに光ってるお月様だから、今日も月が綺麗だなあって思う。りっちゃんのことが大好きだよ」
昴は微笑んで理月を見つめ、そう口にした。
「僕より昴の方が、ずっと凄いだろ。過大評価だよ。でも、ありがとう。衛星じゃなくて、昴が好きな月だって思うと、自分の名前が良いものに思える」
「りっちゃんがそう思ってくれたら、僕も嬉しい。僕は、りっちゃんの『理月』って名前、すごく好きだよ」
昴は笑みを浮かべたまま、けれど少し眉を下げてそう返す。そして「じゃあ、本格的に色々観て行こっか?」と続け、プラネタリウムの生解説よろしく望遠鏡を交互に覗きながら星の解説を始めた。解説を聞きながら時折質問してみては、昴のすらすらとした返答に感心する。
昴が理月の名前について真剣に考えて、天体観測に連れて来てくれたのだろうと感じて嬉しかった。そんな昴のおかげで、複雑な思いを抱いていた自身の名前が、ようやく好きになれた気がした。
これが昴との初めての天体観測で――後になって思えば、多分、初めての昴からの告白だった。
0
あなたにおすすめの小説
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18+BL】空に月が輝く時
hosimure
BL
仕事が終わり、アパートへ戻ると、部屋の扉の前に誰かがいた。
そこにいたのは8年前、俺を最悪な形でフッた兄貴の親友だった。
告白した俺に、「大キライだ」と言っておいて、今更何の用なんだか…。
★BL小説&R18です。
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
幸せな復讐
志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。
明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。
だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。
でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。
君に捨てられた僕の恋の行方は……
それぞれの新生活を意識して書きました。
よろしくお願いします。
fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる