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4章 星降る夜に
星降る夜に#3
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それからも、理月は昴と何度か天体観測に赴いた。好きというほどでもなかった宇宙が好きになって、ふと夜空を見上げることも増えた。月を見上げた時、ただ純粋に綺麗だと思える。
昴は高校を卒業した後、国内外からトップクラスの芸術の天才が集まる東京瑞光芸術大学へと入学し、大学近くのアパートへと引っ越した。現在は音楽学部器楽科でピアノを専攻している。
大学入学以降もノットゥルノでのバイトは続けているから、バイト上がりには決まって理月の家に帰ってきている。高校在学中は不承不承ながら自宅に戻っていたけれど、ノットゥルノも理月のマンションも港区だから、大学進学以降はバイトの日はそのまま泊まっていくようになった。現在は高校の頃から比べてバイトを減らし主に金土日祝でシフトに入っていて、金曜のバイト上がりから月曜の朝まで週の半分ほど居着いている形だ。
「――りっちゃん、九月になったらアメリカ行っちゃうじゃん? だから僕の夏休み頃にでも、天体観測がてら一緒に旅行行かない? りっちゃんの卒業旅行兼ねて、一泊か二泊くらい」
昴がそんなことを言い出したのは相変わらずバイト帰りに理月が住むマンションに帰ってきて、二人でピアノに向かい連弾をした後のことだった。理月が大学を卒業したばかりで、昴が大学三年生に進級した四月頃だ。
理月が進学予定の米国経済大学院は九月頃が入学のため、大学卒業後九月まで時間が空いている。と言っても渡米に向けた諸々の準備はあるが、日本の大学生が夏休みの時期には支度が済んでいる予定だ。昴も今年の夏は国際コンクールの予備審査がある程度だから、スケジュール的には問題ない。もう五年の付き合いになるが、お互いあれこれと忙しかったから泊まりがけの旅行というのは行ったことがなかった。
「良いよ。夏頃ならスケジュール的には問題ないし。天体観測兼ねて、ってことは、もしかして昴の地元とか?」
「わ、流石りっちゃんは鋭いな。ずっと地元の星空見せたいなって思ってたから、良かったら地元に誘おうかなって思ってた。長野ってすっごく星が綺麗で、肉眼でも満天の星空が見えるんだよ。まあ、新幹線と電車で四時間くらい、車だと高速使って四時間くらいかかるって感じで、ほんとにひたすら山、山、山だけど……山と星しか無いド田舎……僕は嫌いじゃないんだけど……別のところの方が良い?」
話している間に昴は自分の地元に自信が無くなってきたらしく、段々と眉が八の字に下がっていき、口角もへの字に下がる。そんな昴の調子につい吹き出してしまった。
「あははっ! 昴の地元、行ってみたいな。昴が見てた景色、僕も見てみたいし」
「本当に? それじゃあ、ペルセウス座流星群の頃――八月十二日から十四日くらいの間にどうかな。今年のペルセウス座流星群は上弦の月の頃で、夜中零時半過ぎくらいには沈むから、観測条件が良くて」
「お盆の頃か。うん、良いよ。昴もお墓参り行けるもんね」
昴は幼い頃に両親を亡くしたと、以前聞いたことがある。六歳までは都内に住んでいたけれど、父方の祖父母は疎遠で、長野の母方の実家で育てられたらしい。両親の墓が長野にあるとも知っていた。
「わ、有難う。お墓参り、付き合わせちゃうの申し訳無いけど……りっちゃんと旅行、すっごく嬉しい」
そう言うと昴は、いつものようにきらきら星を弾き出した。きらきら星変奏曲ではなくて、アレンジをふんだんに入れた即興だ。それに理月も低音で参加して、昴に合わせて弾いていく。出逢った当初は『即興アドリブみたいなのは不得手』と言っていたけれど、昴と一緒に弾くうち、即興連弾も得意になった。
呼吸を合わせて、きらきらうきうきと楽しげに弾む昴の主旋律へとアドリブで合わせていく。昴が立ち上がりサッと理月と位置を交代し、今度は理月が主旋律を奏で、昴が低音にアレンジを入れていった。理月も音に遊びを入れてみれば、昴もすぐさま理月のアレンジに対応して合わせていく。
旅行の予定に胸を弾ませて、くつくつ喉を鳴らして二人笑いながら弾くきらきら星は楽しかった。
理月は大学時代に起業した事業を大手企業に売却したりと渡米に向けての準備を整え、昴は昴でピアノに打ち込んで――あっという間に四ヶ月が経ち、旅行の日を迎える。昴は二十歳、理月は二十三歳になっていた。
昴は高校を卒業した後、国内外からトップクラスの芸術の天才が集まる東京瑞光芸術大学へと入学し、大学近くのアパートへと引っ越した。現在は音楽学部器楽科でピアノを専攻している。
大学入学以降もノットゥルノでのバイトは続けているから、バイト上がりには決まって理月の家に帰ってきている。高校在学中は不承不承ながら自宅に戻っていたけれど、ノットゥルノも理月のマンションも港区だから、大学進学以降はバイトの日はそのまま泊まっていくようになった。現在は高校の頃から比べてバイトを減らし主に金土日祝でシフトに入っていて、金曜のバイト上がりから月曜の朝まで週の半分ほど居着いている形だ。
「――りっちゃん、九月になったらアメリカ行っちゃうじゃん? だから僕の夏休み頃にでも、天体観測がてら一緒に旅行行かない? りっちゃんの卒業旅行兼ねて、一泊か二泊くらい」
昴がそんなことを言い出したのは相変わらずバイト帰りに理月が住むマンションに帰ってきて、二人でピアノに向かい連弾をした後のことだった。理月が大学を卒業したばかりで、昴が大学三年生に進級した四月頃だ。
理月が進学予定の米国経済大学院は九月頃が入学のため、大学卒業後九月まで時間が空いている。と言っても渡米に向けた諸々の準備はあるが、日本の大学生が夏休みの時期には支度が済んでいる予定だ。昴も今年の夏は国際コンクールの予備審査がある程度だから、スケジュール的には問題ない。もう五年の付き合いになるが、お互いあれこれと忙しかったから泊まりがけの旅行というのは行ったことがなかった。
「良いよ。夏頃ならスケジュール的には問題ないし。天体観測兼ねて、ってことは、もしかして昴の地元とか?」
「わ、流石りっちゃんは鋭いな。ずっと地元の星空見せたいなって思ってたから、良かったら地元に誘おうかなって思ってた。長野ってすっごく星が綺麗で、肉眼でも満天の星空が見えるんだよ。まあ、新幹線と電車で四時間くらい、車だと高速使って四時間くらいかかるって感じで、ほんとにひたすら山、山、山だけど……山と星しか無いド田舎……僕は嫌いじゃないんだけど……別のところの方が良い?」
話している間に昴は自分の地元に自信が無くなってきたらしく、段々と眉が八の字に下がっていき、口角もへの字に下がる。そんな昴の調子につい吹き出してしまった。
「あははっ! 昴の地元、行ってみたいな。昴が見てた景色、僕も見てみたいし」
「本当に? それじゃあ、ペルセウス座流星群の頃――八月十二日から十四日くらいの間にどうかな。今年のペルセウス座流星群は上弦の月の頃で、夜中零時半過ぎくらいには沈むから、観測条件が良くて」
「お盆の頃か。うん、良いよ。昴もお墓参り行けるもんね」
昴は幼い頃に両親を亡くしたと、以前聞いたことがある。六歳までは都内に住んでいたけれど、父方の祖父母は疎遠で、長野の母方の実家で育てられたらしい。両親の墓が長野にあるとも知っていた。
「わ、有難う。お墓参り、付き合わせちゃうの申し訳無いけど……りっちゃんと旅行、すっごく嬉しい」
そう言うと昴は、いつものようにきらきら星を弾き出した。きらきら星変奏曲ではなくて、アレンジをふんだんに入れた即興だ。それに理月も低音で参加して、昴に合わせて弾いていく。出逢った当初は『即興アドリブみたいなのは不得手』と言っていたけれど、昴と一緒に弾くうち、即興連弾も得意になった。
呼吸を合わせて、きらきらうきうきと楽しげに弾む昴の主旋律へとアドリブで合わせていく。昴が立ち上がりサッと理月と位置を交代し、今度は理月が主旋律を奏で、昴が低音にアレンジを入れていった。理月も音に遊びを入れてみれば、昴もすぐさま理月のアレンジに対応して合わせていく。
旅行の予定に胸を弾ませて、くつくつ喉を鳴らして二人笑いながら弾くきらきら星は楽しかった。
理月は大学時代に起業した事業を大手企業に売却したりと渡米に向けての準備を整え、昴は昴でピアノに打ち込んで――あっという間に四ヶ月が経ち、旅行の日を迎える。昴は二十歳、理月は二十三歳になっていた。
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