プレアデスは遥か彼方(2025.10.5完)

継永乃々佳@J庭59ぬ11b

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6章 ノクターンM45

ノクターンM45#2

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「名残惜しいですが、次が最後の曲になります。今回初披露の新曲で、僕の集大成として作った曲です。十五歳くらいの時からあーでもないこーでもないと苦戦しながら作ってまして、イタリア巡業中、十二年目にしてようやく完成出来ました。タイトルは、ノクターンM45『Logos』。曲名の解説をすると、まずノクターンっていうのはラテン語の『nocturnus』――夜の、って意味の単語を語源としてまして、日本語では夜想曲を意味しています。ノクターンは形式が決まっていない自由曲なので、作曲者が夜を想って曲を作れば拍子や形式が何であれそれはノクターンって呼んで良いんですね。ということで、これはその名の通り夜をイメージした曲です。冒頭の方は、ちょっとお昼というか、日の光が差し込むようなイメージも入ってるんですけども」
 そう、これは十二年前から作っていた曲だった。だから集大成。昴は満員の観客席に笑顔を向けながら話を続ける。

「M45っていうのは、僕の名前、昴に由来しています。夜空の星の昴は英名でプレアデス星団と言います。シャルル・メシエという天文学者が彗星と紛らわしい天体に番号を振ったカタログがあるんですけれども、そのカタログの中でプレアデスにはM45の番号が割り当てられています。だから、昴って意味でM45にしました」
 今までもオリジナル曲はいくつと作ってきたけれど、自分の名前を由来にしたタイトルを付けるのは初めてだ。集大成という意味でも、ちなんだ番号をタイトルに入れた。

「最後の『Logos』は、古代ギリシャ語。物凄く沢山の意味を持ちます。言葉、論理、理性、とか、ほんと色々。ちなみに、Logosってキリストを意味する言葉でもあるんですねー。という訳で、僕の神様、僕の理、みたいな意味として、このタイトルを付けました」
 僕の神様。僕の理。多分この由来だけ聞けば、ファンはピアノや音楽のことだと勘違いするだろうけれど――本当は、たった一人を指している。ぐるっとステージを歩いて観客席を見渡していたけれど、その中から理月を探し当てて足を止めた。手で目元を擦っている姿が遠くからでも見て取れて、眉を下げてくすっと笑う。

「では、聴いてください。ノクターンM45『Logos』」
 そう言いピアノの椅子に腰掛け、鍵盤に両手を翳した。

 冒頭は、出逢ったあの日。窓から差し込む光に照らされた、どこの誰よりも美しい横顔。既存の曲に例えるのなら、冒頭はシューベルトのアヴェ・マリアのような神聖なイメージで始まる。薄く色付いたピンク色の口唇。理解って悟ってる、どこか寂しげな表情。はにかんだ笑顔。誰より美しい理月のことを、理月に一番似合う旋律で、誰より美しく表現したい。そう思い、ゆったりとしたテンポで、透明感のある美しい音色を作った。
 出逢いのシーンの後はこれまで見てきた理月を駆け足で辿るようにだんだんと速く、きっちりとした理月をイメージして、技巧的に、美しく。正しく理月を表現するために、今まで学んだ技術の全てをぶつけて、今まで見てきた理月の全てを音で表現していく。

 理月を縛る責任感を表す時は、泣きたい気持ちを堪えるように。くしゃっと笑った笑顔を表す時は、恋に弾むように。一緒に流星群を眺めた日、同じ瞬間の光を共有したように。燃え尽きる際に輝く一瞬の光と、変わらず夜を照らして時に闇で覆い隠してくれる優しい月を表すように音を紡いでいく。
 終わりは、月の光が夜の闇に溶け込むように――そっと最後の一音を弾き終え、鍵盤から手を下ろした。

 一万人分の大きな拍手がドームに響き、集大成がきちんと集大成であれたことを知る。一万人に向けてどれだけ理月が素晴らしいひとなのかを演奏で語れて、評価してもらえた。それが嬉しくて、昴はふにゃりと笑みを浮かべる。
 一旦捌けた後、アンコールで最後にきらきら星変奏曲とは違う即興のきらきら星を弾いて、本日のコンサートは終わりを迎えた。
 正しく理月に伝わったかは、分からないけれど。ちゃんと想いが届いていたら良いなと――ただ、そう思う。
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