プレアデスは遥か彼方(2025.10.5完)

継永乃々佳@J庭59ぬ11b

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6章 ノクターンM45

ノクターンM45#5

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「りっちゃんは飲み過ぎ禁止ね。べろんべろんに酔われたら困るから。酔っ払ってべろんべろんになった隙を突くのは本意じゃないし」
「なんだよ、これ、折角美味しいのに。今日は僕、酔っ払いたいんだ」
「明日仕事でしょー。明日に響くよ」
「大丈夫だよ。まだ時間早いし、ちゃんと抜けるって」
 そう言って、シャンパンをぐっと喉に流し込む。素面じゃやっていられない。少し酔っ払うくらいがちょうど良かった。現在時刻はまだ二十一時十五分。早速空になったグラスに理月が二杯目のシャンパンを注ぐと、昴は「三杯までだからね」と言って口を尖らせた。
 お互い「いただきます」と口にして、各々サラダをフォークで食べたりビスクをスプーンで掬って飲んだりと食事を始める。昴は何を食べても「美味しい」だとか「幸せ」だとか口にして褒めそやして笑顔を浮かべ、理月はそんな昴を眺めて笑みを浮かべる。

「はあ、やっぱりりっちゃんが作るサーモンのパイ包み焼きが世界で一番美味しい。色んな国回って、色んな料理食べて、高いものも食べてきたけど、やっぱりこの味なんだよなぁ~」
「それだけ喜んでもらえるなら僕も作り甲斐があるよ」
 サーモンのパイ包み焼きはパイシートの中に玉葱、マッシュルーム、ほうれん草、クリームチーズ、生クリームだとかを混ぜたものを広げて、中にハーブや白ワインで味付けたサーモンを入れて包んで焼いたもの。その上にオリジナルブレンドのオレンジソースとハーブを添えて出来上がりだ。パイを頬張りながら心底幸せそうな笑顔を浮かべる昴を見て、理月はふっと笑う。

「料理の話題はこれくらいにして――今日のコンサート、本当にどの演奏もすっごく良かったよ。昴、気合入ってたね」
「カッコよかった?」
「うん、すっごくカッコよかったよ。きっと一万人、みんなそう思ったと思う」
「やった。りっちゃんにカッコ良いって言ってもらえると嬉しい」
 昴もニコニコと上機嫌な様子でシャンパンをひと口含んだ。まだ一杯目も飲み終えておらず、セーブしていることが窺える。

「それから……新曲、凄く良かった。ひとつひとつの音が綺麗で、洗練されてて。賛美歌みたいな厳かな雰囲気で始まったのに、昴らしく一曲の中であれこれ雰囲気が変わって……教会に連れて行かれたと思ったら、場所が彗上に変わって、今度は長野の山奥に連れて行かれて、一緒に流星群を観て……僕にはそういう、一緒に過ごした景色が見えた」
「まあ、りっちゃんを讃えるための曲だから賛美歌みたいなものだよ。僕から観たりっちゃんを表現したって感じ。僕から観た、だから、りっちゃんがどう思うかなーってちょっと心配だったけど……気に入ってくれたなら、良かった」
 昴は照れた様子ではにかみ、首の後ろに手を置いた。

「でも『神様』で『理』って、大袈裟すぎない? 僕は神様でもなんでもない、普通のちっぽけな人間だよ」
「りっちゃんが普通のちっぽけな人間だったら、周りの人間って何になるの? じゃがいも?」
「全方位に失礼なことを言うな。神様だったら、きっともっと、色々上手くやれてるよ。昴の方は……神様っていうか、神様に愛された人間みたいだね。君は、本当に星みたいだし。なんか神様って、好きな人間を星にするイメージがある。あんまりよく知らないけど」
 夜空に輝く昴だって、星に変えられたって神話がある。昴から聞いた話だ。七姉妹のプレアデスはオリオンに追っかけ回されて、その様子を見ていた女神アルテミスが姉妹を鳩に変えて守ったけれど、それでもオリオンが追っかけ回すものだから大神ゼウスが姉妹を星にしてやったのだとか。そう考えながら二杯目のシャンパンを喉に流し込み空にした。既に身体がぽかぽかと温かくなっている。

「ああ、星にするのはギリシャ神話あるあるだよね。星に祀り上げられたくはないけど、ほんとに神様に愛された人間だったら良いな。りっちゃんは汚いとこなんてひとつもなくて、清廉潔白で、いつだって完璧で……やっぱり僕の中では、神様だよ」
「昴は全然分かってないな。僕を神聖視し過ぎてる。曲は凄く良かったけど、昴こそ僕を勝手に神様に祀り上げないでくれ。……まあ、僕がずっと、君の気持ちについて分かってないふりをしてたせいかもしれないけど」
 理月が呆れ顔でそう言うと、昴は対面できょとんと目を丸くした。
『飲み過ぎ禁止』と言われたにも関わらずハイペースで飲み進めた罰が早速当たっている。早速若干酒が回ってきているせいで、口が滑った。まだ完全に酔っ払っている訳では無いから、昴の表情で理月も気付く。

「りっちゃん、いつから知ってたの?」
「いや、その、僕は……後にしよう。折角の御馳走が冷めちゃうよ」
「じゃあ、食べ終わったら詳しく聞かせてね。それから、これ以上酔っ払わないで」
「……今、大分酔いが醒めたから大丈夫」
「全然大丈夫じゃない。りっちゃん、アルコール弱いんだから。顏だって、もう真っ赤になってるし」
 そう指摘されて、理月は右手を頬に当ててみる。確かにもう熱かった。だけど、顏が熱いのは酒のせいだけじゃない。
 理月は、自分の気持ちを隠すことが得意だ。得意だから、ここまで昴に気付かれず隠し通せた。

「りっちゃんの愛情たっぷりの御馳走だから、じっくり味わって食べるけど――僕のことどう思ってるのか、早くちゃんと聞きたい。はっきりさせるのは、僕も怖いけどね。ばっさり振られちゃったら、死ぬまで凹む……っていうか、死ぬまで諦めらないだろうなあー、僕」
 昴は眉を八の字に下げ、額に手を当てて目を瞑る。けれど、目を開けて額から手を離すと、いつも通りの柔和な笑顔を浮かべた。

「りっちゃんを前にすると、どうしてもカッコよく大人っぽくって出来ないや。じっくり味わって、ゆっくり食べよう。それで、一緒にお皿片付けて……それから、告白のやり直しをさせて」
 昴は『カッコよく大人っぽく出来ない』だとか言うけれど、理月から見れば、昴はずっとカッコ良いし、しっかり大人びた。重たい雰囲気にならないように気遣って、冗談めかして言ってくれていることも理解ってる。そういう優しいところは、昔からずっと変わらない。
「……うん、ありがと。残りもうちょっと、ゆっくり食べよう」
 流石に三杯目のシャンパンは飲む気にならず、二杯目を飲んで空けたグラスは空のまま。現在時刻は二十一時三十五分。イヴが終わるまでは、まだ長い。
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