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「おはようございます、翔琉君」
「あぁ……おはよう愛」
教室につくなり、愛は俺のそばに近寄って挨拶を交わした。
「翔琉君、今日は傘を持ってきましたか?」
「いや、持ってきてないけど」
「それはあまり良くないですね。予報では昼すぎから雨が降ると出ています」
「え、まじ?」
確か出かけにみた天気予報では晴れだといっていたはずだ。それに外を見てみたって太陽が気持ちよさそうに浮いている。
「本当に……? 勘違いじゃないのか?」
「いえ、太陽光は私の生命線の一つです。湿度センサーが間違いを起こすことなどありえません」
「もしかして、お前の予想か?」
「はい、的中予想率は9割を超えています」
普通なら笑うところなんだろうけど、愛の正体を知っているだけに信憑性がある。帰りに傘を買おうかな……。
「ちょっと、ちょっと翔琉……」
「ん? どうしたんだよ夏凪、そんな小さい声で」
「いいからちょっとこっちに来なさいって」
手をひらひら動かす夏凪の言う通りにすると、顔を寄せられ耳打ちされる。
「あんた、なんだか急に垣花さんと仲良くなってるけど、どうしたのよ」
「あー……まぁ、いろいろあって……」
「い、いろいろっ? いろいろって何よっ」
夏凪は目を見開いて困惑していたが、俺は説明せずに黙り込んだ。
というか黙り込むしかなかった。正直に愛の正体を説明すれば、夏凪の性格だと馬鹿にされたと思って怒りかねない。
かといって仮に信じたとしても、愛にとって隠すべき正体がばれてしまう。結果、俺は口にチャックをして黙り込むしかなかった。
「あんたまさか、話をつけるって性的な……」
「それは違う、断じて違う」
いきなり何を言ってるんだ夏凪は、疲れてるのか?
「ちょっと複雑で上手く説明できないけど、問題はもうすぐ解決しそうだよ。だから愛との関係も大分良くなった」
「そうでしょうね、一日経っただけなのに名前で呼び合う仲になっているものね」
それはそう。
「あの、小瀬さん」
「うわぁっ」
すぐ近くから愛の声がした。振り返るといつの間にか愛は俺たちのすぐ傍にいて、ひっくり返りそうになった。
「私と翔琉君の関係性を疑問に思っているようなので説明します。昨日をもって私と翔琉君は恋びt――」
「まてまてまてまてっ!」
淡々とした口調でとんでもないことを口走ろうとした愛を取り押さえる。そして夏凪に聞こえないように言った。
「そういう関係になったのは事実だが、周りに言う必要はないだろ。それともそういうタスクとやらも組み込まれているのか?」
「……確かに、必要以上の行動でした」
納得した様子で頷く愛を見て俺はホッとした。なんだか彼女の操縦方法にも慣れてきた気がする。
しかし、夏凪はまだまだ納得いかないと言った様子で、こちらを睨みつけていた。
「随分と仲がいいじゃない。こないだの嫌い方が嘘みたい」
「それはお互いの事を知らなかったからで、話してみたら愛も意外と憎めない奴だとわかったから」
「そうですね、翔琉君の印象も想定されたものと少し違いました」
「え、俺って最初どういう風に見られてたの?」
「禁則事項ではありませんが、発言を控えます」
絶対良い方の話じゃないやつだこれ。
「……さっきから私のこと忘れてない?」
「あ、ごめん……」
「――馬鹿、あほ! もう知らないっ、足滑らしてこけろあほっ!」
具体的な事故内容を口にして夏凪は自分の席に戻った。相当機嫌を悪くしたようで、乱暴に席に座ってから露骨に背を向けていた。
「翔琉君。夏凪さんはいったい何に怒っているのでしょうか?」
「俺にもよくわからん……」
おおかた、言ってることとやってることが違ういい加減さに怒りを感じているのだろうけど、こちらも色々あってこうなったのだからどうしようもない。
だがこれ以上、仲のいい人間の機嫌を損ねるのは困る。出来るだけ早く十二月晦に話をつけて、愛を引き取ってもらわないと大変なことになりそうだ。
「愛。今日の学校が終わったらすぐに十二月晦の家に行きたいんだけど、大丈夫か?」
「そのことなんですけど、翔琉君に伝えないといけないことがあります」
「なんだ?」
愛は姿勢を正し、改まった態度で俺の正面に立った。
「十二月晦五月様からの言伝です。『ごきげんよう、山田翔琉君。色々探し回っているようだね。そのバイタリティは大したものだ。その労をねぎらって君を僕のところに招待してあげるよ。放課後、機械工学部の部室で待ってる。早く来ないと帰っちゃうから、急いでくるんだよ』……以上です」
「……」
驚きで口が開きっぱなしになっていた。まさか話をしようと思っていた本人から連絡が来るだなんて。そしてこの連絡方法、愛を使った言伝なんて、彼女の製作者でもなければこんなことをするのは難しいだろう。
しかし、一つだけ引っ掛かった。それは話の内容だ。
会話の内容から見ても十二月晦は俺の動向を知っている。いったいどうやって……?
「愛、昨日学校を散策したことは誰かに言ったか?」
「いえ。昨日は帰宅後、誰とも会話をしていません」
愛が伝えていないとすれば、方法は一つ。俺たちは監視されていたんだ。
俺は有名人でも不良でもなく一般的な生徒だ。どこを見ても監視される理由なんてない。だからそんなことをされているなんて想像もしていなかった。
身体が冷たい。気持ち悪さとひやりとした恐怖に背中を撫でられた気分だ。
「……放課後だな。わかった」
ここまでして俺に固執しているのが怖かった。だが、同じくらいに興味が湧いてきていた。
かならず何か理由があるはずだ。かならずそれを聞きだしてやる。
「あぁ……おはよう愛」
教室につくなり、愛は俺のそばに近寄って挨拶を交わした。
「翔琉君、今日は傘を持ってきましたか?」
「いや、持ってきてないけど」
「それはあまり良くないですね。予報では昼すぎから雨が降ると出ています」
「え、まじ?」
確か出かけにみた天気予報では晴れだといっていたはずだ。それに外を見てみたって太陽が気持ちよさそうに浮いている。
「本当に……? 勘違いじゃないのか?」
「いえ、太陽光は私の生命線の一つです。湿度センサーが間違いを起こすことなどありえません」
「もしかして、お前の予想か?」
「はい、的中予想率は9割を超えています」
普通なら笑うところなんだろうけど、愛の正体を知っているだけに信憑性がある。帰りに傘を買おうかな……。
「ちょっと、ちょっと翔琉……」
「ん? どうしたんだよ夏凪、そんな小さい声で」
「いいからちょっとこっちに来なさいって」
手をひらひら動かす夏凪の言う通りにすると、顔を寄せられ耳打ちされる。
「あんた、なんだか急に垣花さんと仲良くなってるけど、どうしたのよ」
「あー……まぁ、いろいろあって……」
「い、いろいろっ? いろいろって何よっ」
夏凪は目を見開いて困惑していたが、俺は説明せずに黙り込んだ。
というか黙り込むしかなかった。正直に愛の正体を説明すれば、夏凪の性格だと馬鹿にされたと思って怒りかねない。
かといって仮に信じたとしても、愛にとって隠すべき正体がばれてしまう。結果、俺は口にチャックをして黙り込むしかなかった。
「あんたまさか、話をつけるって性的な……」
「それは違う、断じて違う」
いきなり何を言ってるんだ夏凪は、疲れてるのか?
「ちょっと複雑で上手く説明できないけど、問題はもうすぐ解決しそうだよ。だから愛との関係も大分良くなった」
「そうでしょうね、一日経っただけなのに名前で呼び合う仲になっているものね」
それはそう。
「あの、小瀬さん」
「うわぁっ」
すぐ近くから愛の声がした。振り返るといつの間にか愛は俺たちのすぐ傍にいて、ひっくり返りそうになった。
「私と翔琉君の関係性を疑問に思っているようなので説明します。昨日をもって私と翔琉君は恋びt――」
「まてまてまてまてっ!」
淡々とした口調でとんでもないことを口走ろうとした愛を取り押さえる。そして夏凪に聞こえないように言った。
「そういう関係になったのは事実だが、周りに言う必要はないだろ。それともそういうタスクとやらも組み込まれているのか?」
「……確かに、必要以上の行動でした」
納得した様子で頷く愛を見て俺はホッとした。なんだか彼女の操縦方法にも慣れてきた気がする。
しかし、夏凪はまだまだ納得いかないと言った様子で、こちらを睨みつけていた。
「随分と仲がいいじゃない。こないだの嫌い方が嘘みたい」
「それはお互いの事を知らなかったからで、話してみたら愛も意外と憎めない奴だとわかったから」
「そうですね、翔琉君の印象も想定されたものと少し違いました」
「え、俺って最初どういう風に見られてたの?」
「禁則事項ではありませんが、発言を控えます」
絶対良い方の話じゃないやつだこれ。
「……さっきから私のこと忘れてない?」
「あ、ごめん……」
「――馬鹿、あほ! もう知らないっ、足滑らしてこけろあほっ!」
具体的な事故内容を口にして夏凪は自分の席に戻った。相当機嫌を悪くしたようで、乱暴に席に座ってから露骨に背を向けていた。
「翔琉君。夏凪さんはいったい何に怒っているのでしょうか?」
「俺にもよくわからん……」
おおかた、言ってることとやってることが違ういい加減さに怒りを感じているのだろうけど、こちらも色々あってこうなったのだからどうしようもない。
だがこれ以上、仲のいい人間の機嫌を損ねるのは困る。出来るだけ早く十二月晦に話をつけて、愛を引き取ってもらわないと大変なことになりそうだ。
「愛。今日の学校が終わったらすぐに十二月晦の家に行きたいんだけど、大丈夫か?」
「そのことなんですけど、翔琉君に伝えないといけないことがあります」
「なんだ?」
愛は姿勢を正し、改まった態度で俺の正面に立った。
「十二月晦五月様からの言伝です。『ごきげんよう、山田翔琉君。色々探し回っているようだね。そのバイタリティは大したものだ。その労をねぎらって君を僕のところに招待してあげるよ。放課後、機械工学部の部室で待ってる。早く来ないと帰っちゃうから、急いでくるんだよ』……以上です」
「……」
驚きで口が開きっぱなしになっていた。まさか話をしようと思っていた本人から連絡が来るだなんて。そしてこの連絡方法、愛を使った言伝なんて、彼女の製作者でもなければこんなことをするのは難しいだろう。
しかし、一つだけ引っ掛かった。それは話の内容だ。
会話の内容から見ても十二月晦は俺の動向を知っている。いったいどうやって……?
「愛、昨日学校を散策したことは誰かに言ったか?」
「いえ。昨日は帰宅後、誰とも会話をしていません」
愛が伝えていないとすれば、方法は一つ。俺たちは監視されていたんだ。
俺は有名人でも不良でもなく一般的な生徒だ。どこを見ても監視される理由なんてない。だからそんなことをされているなんて想像もしていなかった。
身体が冷たい。気持ち悪さとひやりとした恐怖に背中を撫でられた気分だ。
「……放課後だな。わかった」
ここまでして俺に固執しているのが怖かった。だが、同じくらいに興味が湧いてきていた。
かならず何か理由があるはずだ。かならずそれを聞きだしてやる。
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