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落とされる。

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「嫌なんてことはまったく……むしろすごいことだと思います、そんなに夢中になれることがあるなんて……味だけじゃなくて、見た目も大事なんですね」

 ケーキ作りについて、嫌がるどころか好意的な反応のくるみに、甘路の警戒レベルが下がる。

「そうだな、だからつい、他の店のスウィーツを見ると、ここがいいとかこれはしない方がいいとか考えてしまう、味はもちろんだが見た目や飾り方も、特にコンクールではかなり評価に響くからな」
「そうなんですね、器用じゃないとできませんね……私は、なんていうか、食べることばかりで、すみません」 

 恥ずかしそうに萎縮するくるみを見て、甘路の口元が自然に緩んだ。

「……いや、美味しく食べられるのが一番だ、よりよいものを作るために、他の店のスウィーツを買ってきて、食べ比べしていたしな」

 甘路のスウィーツへの直向きさを感じるとともに、くるみは少し引っかかる。
 食べ比べしていた……と甘路は言った。食べ比べしている、ではなく、過去形で話したのだ。
 まるで食べ比べをやめてしまったような言い方、これだけ探究心のある彼がどうして――。

「それじゃあ、甘路さんも少し食べてみませんか?」

 くるみは疑問を持ったまま、甘路にチーズケーキを勧めた。
 甘路は少ししまったと思った。自分で食べ比べをしていると言った手前、ここで断るのは不自然だ。そのため小さく頷き、くるみの誘いを受けることにした。

「……そうだな、少しだけもらおう」

 甘路の返事を聞くと、くるみは店員に取り皿をもらって、フォークでケーキを切った。三分の一ほどになったそれを、取り皿に移して甘路の前に置く。
 それからくるみはいつも通り「いただきます」と言って、フォークで掬ったケーキを口に運んだ。
 その後、うぅーんと首を横に振り美味しさを表現しながらも、しっかり咀嚼して味覚を楽しむ。

「たっぷりのクリームチーズの濃厚さと、クラッカーの淡白な風味が相性抜群です、ほんのり生クリームとレモン汁、無塩バターでバランスが取れた一品になっていますね」

 味はどうだと聞かなくても、自然と溢れ出すコメント。ほくほく幸せそうにするくるみに、甘路は和むと同時に、別の感情も覚える。

「……美味しいか?」
「はい、とっても!」
「俺のと」

 甘路は思わず口走りそうになった言葉を引っ込めた。
 ――いや、俺はなにを言おうとしてるんだ。
 くるみが美味しそうに食べる姿に、僅かに感じたモヤつきの正体。
 まさか、俺のとどっちが美味いかなんて、競うつもりだったのか。
 つまりくるみに、甘路さんのケーキの方が美味しいと言ってほしかったわけだ。でなければ、そんな愚問、思いつくはずがない。
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