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紹介される。
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平日の午前中だというのに、イートインスペースもあっという間に埋まり、ショーケースの中もどんどん売れてゆく。
くるみが接客に精を出していると、ふと背の高い客の後ろにチラッと丸い頭が見えた。
前にいた客が横にずれると、その姿が明らかになる。
数日前に会ったばかりの、ぽっこりお腹の穏やかな顔つきの男性。どうりで見覚えがあるはずだと、くるみは思った。
「やぁ、くるみちゃん、こんにちは~、ほんと、ここで働いてくれてるんだねぇ」
「あ、お、み、こ、こんにちは!」
お義父さんとも路和さんとも呼べず、焦ったくるみはとりあえず元気よく挨拶をした。
路和はあの日と同じように、ほくほくした笑顔でショーケースの前に立っている。
ちょうどそのタイミングで、焼き上がったケーキを蜜流が運んできた。もちろんすべてに、蜜瑠璃特製のチョコレートが含まれている。
「蜜流くん、久しぶり~」
「わぁ、みっちゃん、ありがとー、今回も来てくれたんやぁ」
「そりゃあ甘路くんと蜜流くんのコラボイベントだからね、どれだけ並んでも食べるよ~」
蜜流の路和に対する呼び方に、くるみは衝撃を受けた。
かなりの年上に対して、フレンドリーにもほどがある。しかし、二人の様子からすると、それが当たり前のようだ。
甘路は蜜流をただの同級生だと言っていたが、親をあだ名で呼ぶほど親しいのだ。くるみの中で、蜜流の大親友説の方が濃厚になってくる。そもそも互いの店で毎年コラボイベントをしている時点で、かなりの仲良しということは明白だったが。
路和はケーキを一通り買うと、手を振って店を出た。以前くるみと別れる時「また近いうち」と言っていたのは、今日会うことを見越していたからだろう。
それから女性客に騒がれる蜜流は、甘路の手によって厨房に戻された。
大盛況で慌ただしく時が過ぎ、あっという間にランチタイムになる。
時刻は午後一時、甘路が電話でバックルームに下がったのを見て、蜜流はイートイン用のコーヒーを淹れに来たくるみに声をかける。
「ねーね、くるみん」
「く、くるみん……!?」
「そろそろお腹空かへん? 一緒にランチしに行こうよ」
「あ……でも」
自然と甘路の姿を探すくるみに、蜜流はもう一押しつけ加える。
「僕とかんちゃんが一緒に店離れるわけにはいかんし、この辺の店詳しくないから、くるみんが知ってるとこに案内してほしいなぁって……お願いっ」
顔の前で両手を合わせてお願いポーズをする蜜流に、くるみはあっさり傾く。
――いつもは神戸だから、土地勘ないよね、私でわかる店でよければ案内しよう。
そう考えたくるみは、コクリと頷いた。
今日は特に忙しい日だが、その分従業員は全員出勤なので、休憩はしっかり取れる。
「はい、わかりました、そういうことなら一緒に行きましょう」
「わーい、ありがとう、くるみーん」
無邪気に喜ぶ蜜流を見て、くるみも微笑む。
しかし、まったく土地勘のない人間が、あんなに駅をすんなり案内できるはずがない。
少なくとも、毎年イベントのために代官山に来ているのだ。つまり、店に詳しくないというのは、くるみを誘い出すための嘘だった。
――これはかんちゃん、大変かも?
あまりのチョロさにやや心配になりながら、蜜流はくるみとランチのために店を抜けた。
くるみが接客に精を出していると、ふと背の高い客の後ろにチラッと丸い頭が見えた。
前にいた客が横にずれると、その姿が明らかになる。
数日前に会ったばかりの、ぽっこりお腹の穏やかな顔つきの男性。どうりで見覚えがあるはずだと、くるみは思った。
「やぁ、くるみちゃん、こんにちは~、ほんと、ここで働いてくれてるんだねぇ」
「あ、お、み、こ、こんにちは!」
お義父さんとも路和さんとも呼べず、焦ったくるみはとりあえず元気よく挨拶をした。
路和はあの日と同じように、ほくほくした笑顔でショーケースの前に立っている。
ちょうどそのタイミングで、焼き上がったケーキを蜜流が運んできた。もちろんすべてに、蜜瑠璃特製のチョコレートが含まれている。
「蜜流くん、久しぶり~」
「わぁ、みっちゃん、ありがとー、今回も来てくれたんやぁ」
「そりゃあ甘路くんと蜜流くんのコラボイベントだからね、どれだけ並んでも食べるよ~」
蜜流の路和に対する呼び方に、くるみは衝撃を受けた。
かなりの年上に対して、フレンドリーにもほどがある。しかし、二人の様子からすると、それが当たり前のようだ。
甘路は蜜流をただの同級生だと言っていたが、親をあだ名で呼ぶほど親しいのだ。くるみの中で、蜜流の大親友説の方が濃厚になってくる。そもそも互いの店で毎年コラボイベントをしている時点で、かなりの仲良しということは明白だったが。
路和はケーキを一通り買うと、手を振って店を出た。以前くるみと別れる時「また近いうち」と言っていたのは、今日会うことを見越していたからだろう。
それから女性客に騒がれる蜜流は、甘路の手によって厨房に戻された。
大盛況で慌ただしく時が過ぎ、あっという間にランチタイムになる。
時刻は午後一時、甘路が電話でバックルームに下がったのを見て、蜜流はイートイン用のコーヒーを淹れに来たくるみに声をかける。
「ねーね、くるみん」
「く、くるみん……!?」
「そろそろお腹空かへん? 一緒にランチしに行こうよ」
「あ……でも」
自然と甘路の姿を探すくるみに、蜜流はもう一押しつけ加える。
「僕とかんちゃんが一緒に店離れるわけにはいかんし、この辺の店詳しくないから、くるみんが知ってるとこに案内してほしいなぁって……お願いっ」
顔の前で両手を合わせてお願いポーズをする蜜流に、くるみはあっさり傾く。
――いつもは神戸だから、土地勘ないよね、私でわかる店でよければ案内しよう。
そう考えたくるみは、コクリと頷いた。
今日は特に忙しい日だが、その分従業員は全員出勤なので、休憩はしっかり取れる。
「はい、わかりました、そういうことなら一緒に行きましょう」
「わーい、ありがとう、くるみーん」
無邪気に喜ぶ蜜流を見て、くるみも微笑む。
しかし、まったく土地勘のない人間が、あんなに駅をすんなり案内できるはずがない。
少なくとも、毎年イベントのために代官山に来ているのだ。つまり、店に詳しくないというのは、くるみを誘い出すための嘘だった。
――これはかんちゃん、大変かも?
あまりのチョロさにやや心配になりながら、蜜流はくるみとランチのために店を抜けた。
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