【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない

ゆきりんご

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2話:先輩vs後輩

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 美也と江永は古川について行き、志悠は芹沢について行く流れになった。

「バレーボールについて、どれくらい知ってる?」

 芹沢は器用に右手だけでスポーツドリンクを用意しながら聞いた。

「例の漫画の範囲であれば」
「あー、あれね。じゃ、基本的なルールは知ってるね。マネージャーは選手の記録、球拾い、スポーツドリンクの用意とかやることは多いから頑張って。今のチームは選手みんながレギュラーだから、球拾いは特に積極的に。一秒でも多くみんなが練習できるように」
「芹沢先輩、ドリンクの用意の仕方教えてください。僕がやります」
「ああ、助かるよ」
「その手どうしたんですか」
「これね、ちょっとドジって階段から落ちちゃってさ」
「それは災難でしたね」

 芹沢の説明を受けながら人数分の用意が終わると、練習場所の端っこにそれらを置いた。ドリンクの濃さにこだわる人もいるらしいが、今のメンバーでそういう人はいないという。その日その日の微妙な違いを面白がっているそうだ。
 選手たちはペアになってパス練習をしていた。オーバーハンドパス、アンダーハンドパス、それぞれ変えながらボールを飛ばしている。志悠は中学での体育を思い出した。志悠がアンダーでボールを打つと、毎度毎度後ろへと飛んでいった。もちろん、選手は誰一人として後ろに飛ばす人はいない。

「古川から聞いてるメニューだと次はサーブ練習だ。僕たちの出番だよ。球拾い、頑張ろう」
「はい」

 練習の様子を見ると、何往復か終えてはペアを変えているようだった。志悠はどうしても美也を追ってしまう。どの人よりも無駄のない動きで静かにボールを拾っては返している。なるほど、確かに上手い。

「よし、次はサーブ練習!」

 古川の掛け声にみんなが従う。芹沢がくいくいっと手を動かし、志悠を誘導する。ボールがたくさん入ったキャスター付きのカゴを押して、ネットをはさんだ片方へと移動する。

「順番待ちの人たちも拾ってくれるけど、人数が少ない分、回るのが早いから僕たちが頑張らないと」

 みんながカゴの周りに集まり、ボールを持っていく。全員にボールが行き渡ったところで、志悠のいるネットの向こう側で、選手が列をなした。

「ちょっと浜辺のサーブを見せてくれ。もしかしてジャンプサーブ打てたりするのか?」
「ええ。まだ精度は良くないっすけど」
「頼もしいな」

 みんなが息を呑んで、美也の様子を見ていた。
 ボールを何度かついてから上に放り、助走をつけて、跳んだ。
 ――バシン。
 叩きつけられたボールはラインの外に出た。アウトだ。しかし、その威力は凄まじいもので、美也の選手としての優秀さを思い知るには充分な一撃だった。
 しばしの静寂が場を支配した。美也以外の全員の表情が固まっている。

「……なんだ、あれ。つい最近まで中学生だった奴が打つ威力じゃねえよ」
「レシーブであんなん受けたら腕もげるぜ」

 古川が手を叩いた。

「はっはっは。見事なもんだ」
「今のはだめっすね。アウトなんで。相手に一点入ります」

 なんでもないことのように美也は笑って答えた。

「いや、ジャンプサーブを打てるだけでも大したもんだよ」

 志悠は江永の視線を感じた。いけない。うっかり美也に見とれていたのを見られていた。志悠は慌てて美也から視線をそらした。駄目だ、格好よすぎる。助走をつけて飛ぶ寸前、後ろに伸びたしなやかな長い腕が目に焼き付いていた。まるで羽が生えたかのようだった。

「凄いねぇ、彼」

 芹沢の感心した呟きが、志悠の耳にも入った。

「そう、ですね」

 だめだ。格好よすぎる。志悠はすっかり放心していた。
 もしマネージャーになってしまったら、こんなものを毎日見ることになってしまうのか。果たして心臓は一つで足りるだろうか。
 その後、代わる代わるサーブが放たれたが、どれも美也の打ったサーブの威力には到底及ばないものばかりだった。美也一人だけ突出していた。
 志悠は、どうにかさっきの美也の姿を忘れようと球拾いに勤しんだ。しかし、忘れようと意識すれば意識するほど忘れられなくなってゆく。
 サーブ練習が終わるころに、顧問がやってきた。二年の担任を受け持っている畠中先生だと志悠は芹沢から聞かされた。他の部活も掛け持ちしているそうで、なかなかずっとは見ていられないらしい。そういう点でも男子バレーボール部が注目されていないことが浮き彫りになった。外部のコーチも一週間のうち二回ほどしか顔を出さないという。

「おお、新入りは三人か。もう少しほしいところだな、古川」
「はい。このまま俺たち三年生引退するまで人が増えなければ秋冬の大会に出られなくなります。でも、頼もしい奴がいるんですよ」

 古川は美也の背中に手をあてて、畠中先生の前に押しやった。

「中体連で東北大会まで行った原中のエースです。ご存知ですか」
「いや、知らないな」
「……そうですか」

 古川は一拍間を置いて答えた。畠中先生は、バレーボールの経験がない。おそらくもうひとつかけ持っているテニスの方が興味が強く、バレーボールには興味がないことを隠す気もない様子だ。

「こいつ、最優秀選手賞も取ってるんすよ。期待の新人です」
「まあ、タッパはあるし、力もありそうだな。頑張れよ」

 それだけ言い残して残る新入り二人の名前を聞くこともなく、いなくなってしまった。
 古川は拳を握りしめた。芹沢が声をかける。

「まあまあ、怒りたくなる気持ちは分かるけどね。結果残して見返そう」
「ああ。絶対に」

 その後、三対三に別れて試合形式での練習をすることになった。

「スコアは僕が取る。誰が点を取ったか、ローテーションもあるからそれも記録する。志悠君は得点表を頼むよ。点の入り方は分かるよね」
「はい。あの、片手で記録取れますか」
「いけるいける」

 答える様子から、どこか慣れている雰囲気を志悠は感じ取った。この人しっかりしているように見えて、そんなにしょっちゅうドジを踏んでいるのだろうか。
 主将古川と美也と江永、二年と三年のチームに分かれて対戦が始まった。一人はイン、アウトを見る係だ。点数は正式な試合の半分である15点先取、三セット。二セット取れば勝ちとなる。

「まあ、今日は親善試合みたいなもんだ。楽しもう」

 先行は主将率いる一年チーム。美也のサーブからだ。

「浜辺。サーブだけで試合、終わらすなよ」

 江永が揶揄うように言う。しかし美也の眼は真剣そのものだった。
 淡々とボールをついて上に放る。ジャンプサーブだ。なんとかレシーブで上げられる。

「よっし上がった」
「ナイス」

 辛うじて上がった球はしかしトスに繋がらない。
 アンダーレシーブで返ったボールを古川が拾い、芹沢がトスを上げる。

「やべ、打たれる」

 美也がアタックを打つ。強い一撃は誰も拾えず、線の内側で落ちた。

「強すぎだろ」
「やっぱ最優秀選手賞取っただけあるな」

 二、三年生が口々に言う。

「おいおい、まだ一点だぞ。集中、集中!」

 古川が、パンパンと手を叩いた。
 一セット目が終わった休憩時間に、江永が志悠のもとにやってきた。

「どう、実際のバレーボールは」
「どんどんボールが行きかうから、得点を把握するだけでいっぱいいっぱいだよ。あ、でも江永のトス、お手本みたいなフォームって言うのかな……綺麗だった」
「どーも」

 江永は志悠の差し出したタオルを受け取って、汗を拭った。
 結局、古川率いるチームの2セット先取で勝ちが決まった。

「もう浜辺がエースで良いだろ。な、古川。芹沢のトスも上手すぎだし。こいつらだけで結構いいとこまで行けるんじゃね」
「なに言ってんだ。バレーボールは六人のチームで戦うゲームだ。練習、サボるなよ」
「わーってるって」

 後片付けを始めると、倉庫から「ぎゃあ」という悲鳴が聞こえた。志悠は体育倉庫に駆け寄った。

「先輩⁉」
「あーあ、またやっちゃった」

 芹沢が、ネットに絡まり、身動きの取れない状況になっていた。

「大丈夫ですか」
「うん。思わず大きな声を出しちゃったけど、大したことないよ」
「どうしたら、こんなことになるんですか」
「上の棚に戻そうとして、上手く置けてなかったらしくてね。降ってきてこのザマだ」

 芹沢は話しながら、網と格闘していたが、動けば動くほどひどくなっていっているようにしか思えなかった。志悠は芹沢からネットをどかそうとした。しかし、芹沢は志悠よりも背が高く、なかなか思うようにいかない。

「浜辺から聞いたよ。無理やり連れてこられたんだってね。急に積極的に活動しろなんて無茶なことは言わない」
「きっかけは確かにそうですけど……でも来たからにはきちんとしたいです。せめて先輩の怪我が治るまでは手伝わせてください」
「ははっ、お利口さんだね」
「そんな大したものじゃないです」
「もしも志悠君が今後もマネージャーやるつもりなら、言わないといけないことがあるんだ」

 芹沢が手をとめて志悠を見た。

「なんですか」
「古川と顧問とコーチにしか言ってない話」
「僕が聞いても良いんですか」
「聞いてほしいんだ。俺さ、視野狭窄で、結構見えてないんだよ。だから今みたいなことがしょっちゅう起きる。視野狭窄って分かる?」
「視界が狭まるってことですよね」
「そのとおり」

 志悠はそれまでの芹沢の様子を思い出した。カメラが対象を追うように動いていた首。あれは一人一人の顔を見るために動いていたのだと合点がいった。
 先輩は怪我をしている腕をさすった。

「その怪我も……?」
「そう。不甲斐ない先輩でごめんね」
「謝らないでください」

 話が終わってしまったが、まだ芹沢はネットに絡まったままだ。四苦八苦しているところに古川がやってきた。

「おい芹沢、大丈夫か。さっき悲鳴が聞こえが……またネットに絡まったのか。丸山、俺がやる」
「いつもすまないね。志悠君も、ありがとう」

 芹沢はにへらっと笑って見せた。
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