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5話:惚れた弱み
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ミーティングが終わると、美也は素早く荷物をまとめて志悠に何を言うでもなく歩き出した。一緒に帰ろうと思っていた志悠は、先に帰ろうとする美也の制服の裾を思わず引っ張ってしまった。
「ま、待って!」
「おわっ……志悠か。どうした」
「一緒に帰るんじゃないの」
「いいのか」
「どうせ乗るバスは同じでしょ」
「そうだけど……俺たちはただの腐れ縁なんだろ」
志悠は面食らった。美也の言い草は、どこか根に持っている感じがしたからだ。
「気にしてる?」
「だいぶな」
「……ごめん」
美也は目線を床に落とした。
「はっ、これじゃカッコつかねぇな。志悠はなんも悪くねぇのに。謝らせて悪いな」
志悠は美也が何を気にしているのか分からず、首をかしげた。
「なんでまた急に一緒に帰る気になったんだよ」
「今日の様子がちょっと気になったから。あれ、僕のせい?」
自惚れかもしれないと思いつつも、志悠は尋ねた。
美也は肩を落として唸った。
「志悠のせいじゃないって。あー、カッコよくないとこ見られちまったな」
美也はいつでもカッコいいと言いそうになって、志悠は口をつぐんだ。
黙って、靴を履いて歩き出す。なんの気兼ねもなくカッコいいと言える女子が羨ましくて疎ましい。また瞼の裏で昨日の美也の姿がちらついた。今日の美也だって調子こそ崩していたが、しなやかな腕の伸びと、踏み込む脚の筋肉の逞しさは健在だった。
「……なにか他に嫌なことでもあったの」
「教えねー。言っても分かんねぇだろうし」
「そんなの言ってみなきゃ分かんないじゃん」
「いーや。志悠は絶対に理解できない」
頑として口を割らない様子に志悠はそれ以上の追及を諦めた。江永はなんか知ってそうだったが教えてくれるとは思えない。志悠が何も言葉を返さないために、二人の間には気まずい沈黙が流れた。昨日は走ってあっという間だったバス停までの下り坂がだらだらと長く感じられた。バスが着くまでも、バスに乗ってからも会話は何もなかった。
バスから降りて、いよいよ家に着くという時になって美也がおもむろに口を開いた。
「俺、今日みたいなことはもうしないようにもっと頑張るからさ。近くで見ててよ。マネージャー」
「まだ正式になるって決めたわけじゃないんだけど」
「ここまできてならぇとかねぇだろ。んじゃ、また明日」
一週間は瞬きの間に過ぎていった。
「芹沢先輩の腕、もう大丈夫そうですね」
「おかげさまで。あー、勿体ないな。こんな優秀な後輩なのに」
「本当にな」
「え、丸山、やめんの」
ボールのカゴを運んでいた弦巻が驚いた様子で足を止めた。
「なんだお前知らなかったのか。丸山は芹沢の腕が治るまでの助っ人だったんだよ」
「初耳なんですけど。えー、これどうしよう」
弦巻先輩がポケットから取り出したのは、笛だった。
「二年からのプレゼント、用意しちゃったんすけど」
唖然としている志悠の顔にタオルが投げつけられた。
「おい志悠! 辞めるなつったろ。それ渡すから辞めるなよ」
「美也までなに」
「安心しろ。新品だ」
「いや、そこじゃなくて」
片手に笛、片手に真新しいスポーツタオル。部員からの贈り物を前に、志悠は呆然とした。
「ちょっと一年、三年と被ってるんだけど」
そう言って芹沢先輩までもがスポーツタオルを志悠に差し出した。
「まあ、これは引き留めるためじゃなくて、助っ人をしてくれたお礼のつもりで用意したものなんだが」
古川が言う。
「ここまでされたら、辞めるに辞められないじゃないですか……!」
「志悠、続けてくれるか?」
「別に美也に言われたからじゃない。芹沢先輩を助けるために、続けるよ」
「えー、俺ってば愛されてるぅ」
「おい智紀、調子にのるな。お前があまりにも危なっかしいから、一年にまで心配されてるんだろ」
部活が終わり、志悠はまたもや美也と一緒に帰ることになった。
「好きな奴と帰ればいいじゃん」
「ああ、そうだな」
美也は流すようにして、靴を履き替えて歩いていく。
「そうだなって……」
「そんなことより、マネージャー引き受けてくれて、ありがとな」
振り向きざまに向けられた不意打ちの笑顔に、志悠はやはり天邪鬼な態度を取ることを選んでしまった。
「別に。さっきも言ったけど美也に頼まれたからやるわけじゃないし」
「はいはい」
「僕、本当にバレーボール部にいてもいいのかな」
「悪いってことはないだろ。何が不安なんだよ」
「それはうまく言えないけど」
志悠は今まで部活に入ったことがなかった。小学校でのことがトラウマとなって、誰かと関わることを極力避けるようになっていたからだ。素っ気ない態度も天邪鬼になってしまうのも全部、自分を守るための鎧となっている。だが、そういった態度を改めなければ、今は優しくしてくれている先輩たちからも愛想をつかされるだろう。ただ、志悠の鎧はすぐに外せるものでもない。それと志悠が気掛かりに思っていることはもう一つある。部員に好きな人がいる自分が本当にマネージャーをやってしまっていいものなのか。ひょんなことから気持ちがばれてしまって、美也にまた迷惑をかけてしまうかもしれない。
「慣れない環境を不安に思う気持ちも分かる。俺だって、ぎりぎりの成績で高校に入って、部活をしながらついていけるか不安で仕方ないんだぜ」
「そうなの?」
「でも、バレーボール部も勉強を頑張ることも諦めたくない。それなら不安とうまく付き合って前向くしかねぇだろ」
「それってなんか……」
志悠はまたカッコイイと言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「なに」
「なんでもない」
「いや、気になるだろ」
「ほんとになんでもないから」
それで会話は終わるかに思えた。しかし、しばらくの間をおいて美也が言った。
「志悠ってさ、あんまり自分の気持ちを言わねーのな。なんで?」
心臓に刃を当てられた心地がした。
「美也は本当になにも覚えてないんだね」
「答えになってねぇ」
本心を言うことで、自分が傷つき、誰かを不快にし、誰かに迷惑をかけてしまうのなら、気持ちなど言わない方がいい。人を寄せ付けない無表情の仮面を被り、誰かと過ごすとしても深入りはしない。それが小学校時代の黒歴史で学んだ志悠の渡世術だった。
「志悠の雰囲気が変わったのは、小学三年生のころからだったな。クラスが離れたときに何があったんだ?」
美也の言葉に志悠は驚いた。まさかそんな細かな変化まで覚えられているとは思ってもみなかったからだ。
「親が離婚したからじゃない?」
「それは小学五年生のときだろ」
志悠はいよいよ言葉を失った。どうしてそんな細かなことを覚えているのだ。
「俺、ちゃんと志悠のこと覚えてるだろ。だから分かんねぇんだよ。志悠の言う、俺が忘れてることってなんなんだ?」
「僕が美也に迷惑をかけた」
「入学式の日にもそんなこと言ってたけど、そんなこと一度もないだろ」
「ある。ほら、やっぱり忘れてる」
「教えてくれよ」
「やだ」
「志悠って案外、頑固だよな」
「そうそう。だから絶対に言わないよ。諦めて」
「分かったよ。今は諦めてやる。話は変わるんだが、毎週水曜日は部活が休みでさ、その日は勉強会しないか。志悠に勉強を教えてほしいんだよ」
正直、志悠は断りたい気分だった。これ以上、美也との接点を増やしたくはない。しかし、マネージャーを頼まれたときのように、なんだかんだ最終的にはこちらが折れる未来が見えている。そこで志悠は一つ条件を付けることにした。
「江永も呼んでいいなら」
「なんで江永が出てくるんだよ」
「僕はどちらかといえば文系だけど、江永は僕よりも理系科目が得意らしいから。僕と同じ特進クラスだし丁度いいと思うんだけど、だめ? まあ、江永にも聞いてからにはなるけど」
「志悠が来てくれるならそれでよしとするか。正直なところ、断られると思ってたんだ」
志悠は次の日、勉強会について江永に打診した。
「あんなに近づきたくないって言ってたのに、一体全体どういう風の吹き回しなのかな」
「断り切れないと思ってさ。なんだかんだ言いくるめられる気がして」
「お人好しだなあ、丸山は。ほどほどにしないと食いつぶされるよ」
志悠自身、なんだかんだと美也の要求をのんでしまっている自分に呆れていた。
「惚れた弱みってやつ?」
「かもね」
家に帰った志悠は、机の上にスポーツタオル二つと笛を並べて、長いこと眺めていた。今日も帰りの遅かった母が「ただいま」と声をかけてくるまで、ただ無心でそれらを眺めていた。
「まだお風呂入ってないの?」
扉の外から聞こえた母の声に、志悠はようやくこちらの世界へと引き戻された。
「あ、母さん。おかえり。うん、お風呂まだだった」
「あまり根詰めるのもよくないよ。ほどほどにね」
どうやら勉強に精を出していたと勘違いしているらしい。誤解を解くのも面倒で、志悠はそのことには触れなかった。扉を開けて部屋を出ると、台所に向かおうとする母の後ろ姿に声をかけた。
「バレーボール部のマネージャー、正式に引き受けることになった。承諾書、テーブルに置いておいたから」
「バレーボール部って、美也君いるんじゃないの? あなた、大丈夫?」
「ん。まあ、過ぎたことだから。あの高校には、小中が同じだった人も少ないから、平気……だと思う」
「まあ、あなたがそう言うなら何も言わないけど……なんだってまた急に」
「マネージャーが三年生の一人しかいなくて、その人がちょっと目が見えづらい人でね。それで」
「他人思いなのはいいことだけど、自分のことも大事にしなさいね」
「ん」
志悠は自室に戻り、机の上に広げた3つの贈り物を眺めた。
自分は果たして大事にするほどの人間だろうか。こんなに贈り物をもらっていいほどの人間だろうか。そう思いながら、美也から投げつけられたタオルを手に取る。駄目だ。これは使えそうにない。クローゼットに保管していた宝物入れにしまい込んだ。笛と三年生の先輩たちからもらったタオルは使うことにして、リュックに詰めた。サブバッグに学校指定のジャージも用意してある。これで明日の持ち物の用意はできた。できていないのは心の準備だけだ。
「ま、待って!」
「おわっ……志悠か。どうした」
「一緒に帰るんじゃないの」
「いいのか」
「どうせ乗るバスは同じでしょ」
「そうだけど……俺たちはただの腐れ縁なんだろ」
志悠は面食らった。美也の言い草は、どこか根に持っている感じがしたからだ。
「気にしてる?」
「だいぶな」
「……ごめん」
美也は目線を床に落とした。
「はっ、これじゃカッコつかねぇな。志悠はなんも悪くねぇのに。謝らせて悪いな」
志悠は美也が何を気にしているのか分からず、首をかしげた。
「なんでまた急に一緒に帰る気になったんだよ」
「今日の様子がちょっと気になったから。あれ、僕のせい?」
自惚れかもしれないと思いつつも、志悠は尋ねた。
美也は肩を落として唸った。
「志悠のせいじゃないって。あー、カッコよくないとこ見られちまったな」
美也はいつでもカッコいいと言いそうになって、志悠は口をつぐんだ。
黙って、靴を履いて歩き出す。なんの気兼ねもなくカッコいいと言える女子が羨ましくて疎ましい。また瞼の裏で昨日の美也の姿がちらついた。今日の美也だって調子こそ崩していたが、しなやかな腕の伸びと、踏み込む脚の筋肉の逞しさは健在だった。
「……なにか他に嫌なことでもあったの」
「教えねー。言っても分かんねぇだろうし」
「そんなの言ってみなきゃ分かんないじゃん」
「いーや。志悠は絶対に理解できない」
頑として口を割らない様子に志悠はそれ以上の追及を諦めた。江永はなんか知ってそうだったが教えてくれるとは思えない。志悠が何も言葉を返さないために、二人の間には気まずい沈黙が流れた。昨日は走ってあっという間だったバス停までの下り坂がだらだらと長く感じられた。バスが着くまでも、バスに乗ってからも会話は何もなかった。
バスから降りて、いよいよ家に着くという時になって美也がおもむろに口を開いた。
「俺、今日みたいなことはもうしないようにもっと頑張るからさ。近くで見ててよ。マネージャー」
「まだ正式になるって決めたわけじゃないんだけど」
「ここまできてならぇとかねぇだろ。んじゃ、また明日」
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「芹沢先輩の腕、もう大丈夫そうですね」
「おかげさまで。あー、勿体ないな。こんな優秀な後輩なのに」
「本当にな」
「え、丸山、やめんの」
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「なんだお前知らなかったのか。丸山は芹沢の腕が治るまでの助っ人だったんだよ」
「初耳なんですけど。えー、これどうしよう」
弦巻先輩がポケットから取り出したのは、笛だった。
「二年からのプレゼント、用意しちゃったんすけど」
唖然としている志悠の顔にタオルが投げつけられた。
「おい志悠! 辞めるなつったろ。それ渡すから辞めるなよ」
「美也までなに」
「安心しろ。新品だ」
「いや、そこじゃなくて」
片手に笛、片手に真新しいスポーツタオル。部員からの贈り物を前に、志悠は呆然とした。
「ちょっと一年、三年と被ってるんだけど」
そう言って芹沢先輩までもがスポーツタオルを志悠に差し出した。
「まあ、これは引き留めるためじゃなくて、助っ人をしてくれたお礼のつもりで用意したものなんだが」
古川が言う。
「ここまでされたら、辞めるに辞められないじゃないですか……!」
「志悠、続けてくれるか?」
「別に美也に言われたからじゃない。芹沢先輩を助けるために、続けるよ」
「えー、俺ってば愛されてるぅ」
「おい智紀、調子にのるな。お前があまりにも危なっかしいから、一年にまで心配されてるんだろ」
部活が終わり、志悠はまたもや美也と一緒に帰ることになった。
「好きな奴と帰ればいいじゃん」
「ああ、そうだな」
美也は流すようにして、靴を履き替えて歩いていく。
「そうだなって……」
「そんなことより、マネージャー引き受けてくれて、ありがとな」
振り向きざまに向けられた不意打ちの笑顔に、志悠はやはり天邪鬼な態度を取ることを選んでしまった。
「別に。さっきも言ったけど美也に頼まれたからやるわけじゃないし」
「はいはい」
「僕、本当にバレーボール部にいてもいいのかな」
「悪いってことはないだろ。何が不安なんだよ」
「それはうまく言えないけど」
志悠は今まで部活に入ったことがなかった。小学校でのことがトラウマとなって、誰かと関わることを極力避けるようになっていたからだ。素っ気ない態度も天邪鬼になってしまうのも全部、自分を守るための鎧となっている。だが、そういった態度を改めなければ、今は優しくしてくれている先輩たちからも愛想をつかされるだろう。ただ、志悠の鎧はすぐに外せるものでもない。それと志悠が気掛かりに思っていることはもう一つある。部員に好きな人がいる自分が本当にマネージャーをやってしまっていいものなのか。ひょんなことから気持ちがばれてしまって、美也にまた迷惑をかけてしまうかもしれない。
「慣れない環境を不安に思う気持ちも分かる。俺だって、ぎりぎりの成績で高校に入って、部活をしながらついていけるか不安で仕方ないんだぜ」
「そうなの?」
「でも、バレーボール部も勉強を頑張ることも諦めたくない。それなら不安とうまく付き合って前向くしかねぇだろ」
「それってなんか……」
志悠はまたカッコイイと言いかけて、言葉を飲み込んだ。
「なに」
「なんでもない」
「いや、気になるだろ」
「ほんとになんでもないから」
それで会話は終わるかに思えた。しかし、しばらくの間をおいて美也が言った。
「志悠ってさ、あんまり自分の気持ちを言わねーのな。なんで?」
心臓に刃を当てられた心地がした。
「美也は本当になにも覚えてないんだね」
「答えになってねぇ」
本心を言うことで、自分が傷つき、誰かを不快にし、誰かに迷惑をかけてしまうのなら、気持ちなど言わない方がいい。人を寄せ付けない無表情の仮面を被り、誰かと過ごすとしても深入りはしない。それが小学校時代の黒歴史で学んだ志悠の渡世術だった。
「志悠の雰囲気が変わったのは、小学三年生のころからだったな。クラスが離れたときに何があったんだ?」
美也の言葉に志悠は驚いた。まさかそんな細かな変化まで覚えられているとは思ってもみなかったからだ。
「親が離婚したからじゃない?」
「それは小学五年生のときだろ」
志悠はいよいよ言葉を失った。どうしてそんな細かなことを覚えているのだ。
「俺、ちゃんと志悠のこと覚えてるだろ。だから分かんねぇんだよ。志悠の言う、俺が忘れてることってなんなんだ?」
「僕が美也に迷惑をかけた」
「入学式の日にもそんなこと言ってたけど、そんなこと一度もないだろ」
「ある。ほら、やっぱり忘れてる」
「教えてくれよ」
「やだ」
「志悠って案外、頑固だよな」
「そうそう。だから絶対に言わないよ。諦めて」
「分かったよ。今は諦めてやる。話は変わるんだが、毎週水曜日は部活が休みでさ、その日は勉強会しないか。志悠に勉強を教えてほしいんだよ」
正直、志悠は断りたい気分だった。これ以上、美也との接点を増やしたくはない。しかし、マネージャーを頼まれたときのように、なんだかんだ最終的にはこちらが折れる未来が見えている。そこで志悠は一つ条件を付けることにした。
「江永も呼んでいいなら」
「なんで江永が出てくるんだよ」
「僕はどちらかといえば文系だけど、江永は僕よりも理系科目が得意らしいから。僕と同じ特進クラスだし丁度いいと思うんだけど、だめ? まあ、江永にも聞いてからにはなるけど」
「志悠が来てくれるならそれでよしとするか。正直なところ、断られると思ってたんだ」
志悠は次の日、勉強会について江永に打診した。
「あんなに近づきたくないって言ってたのに、一体全体どういう風の吹き回しなのかな」
「断り切れないと思ってさ。なんだかんだ言いくるめられる気がして」
「お人好しだなあ、丸山は。ほどほどにしないと食いつぶされるよ」
志悠自身、なんだかんだと美也の要求をのんでしまっている自分に呆れていた。
「惚れた弱みってやつ?」
「かもね」
家に帰った志悠は、机の上にスポーツタオル二つと笛を並べて、長いこと眺めていた。今日も帰りの遅かった母が「ただいま」と声をかけてくるまで、ただ無心でそれらを眺めていた。
「まだお風呂入ってないの?」
扉の外から聞こえた母の声に、志悠はようやくこちらの世界へと引き戻された。
「あ、母さん。おかえり。うん、お風呂まだだった」
「あまり根詰めるのもよくないよ。ほどほどにね」
どうやら勉強に精を出していたと勘違いしているらしい。誤解を解くのも面倒で、志悠はそのことには触れなかった。扉を開けて部屋を出ると、台所に向かおうとする母の後ろ姿に声をかけた。
「バレーボール部のマネージャー、正式に引き受けることになった。承諾書、テーブルに置いておいたから」
「バレーボール部って、美也君いるんじゃないの? あなた、大丈夫?」
「ん。まあ、過ぎたことだから。あの高校には、小中が同じだった人も少ないから、平気……だと思う」
「まあ、あなたがそう言うなら何も言わないけど……なんだってまた急に」
「マネージャーが三年生の一人しかいなくて、その人がちょっと目が見えづらい人でね。それで」
「他人思いなのはいいことだけど、自分のことも大事にしなさいね」
「ん」
志悠は自室に戻り、机の上に広げた3つの贈り物を眺めた。
自分は果たして大事にするほどの人間だろうか。こんなに贈り物をもらっていいほどの人間だろうか。そう思いながら、美也から投げつけられたタオルを手に取る。駄目だ。これは使えそうにない。クローゼットに保管していた宝物入れにしまい込んだ。笛と三年生の先輩たちからもらったタオルは使うことにして、リュックに詰めた。サブバッグに学校指定のジャージも用意してある。これで明日の持ち物の用意はできた。できていないのは心の準備だけだ。
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