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第32話 三度目のトウキョウダンジョン

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写し鏡の門を抜けるとそこにククリの姿は……なかった。

「ククリ……」

ククリが心配だ。
早く探さないと。

俺は茶室の小さい小窓のような通路をはいはいで進むと開けた場所に出る。

「おーい! ククリー!」

スライムに気付かれようが知ったことか、俺は大声でククリの名を叫んだ。

……。

なんの反応もない。
ククリはおろかスライム一匹寄ってこない。

どこにいるんだククリ……無事なのか?

やっぱりククリと別れた地下二階層に行くべきか? 俺がそう考えを巡らせた時だった。
 
「わっ!!」

右耳のすぐ後ろから声が上がった。

「うおっ!?」
俺は突然の大声にびっくりしてその場にへたり込んでしまう。

「あっ、すいませんマツイさん、大丈夫ですかっ? そんな驚くとは思わなかったので……」
「……ククリ? お前……無事だったのか……?」
「? 全然元気ですよ」
あっけらかんとした顔で俺を見下ろしていたのはククリだった。

「えへへ、慎重なマツイさんのことだから絶対地下一階層から始めると思って隠れて待っていたんですよ私……ってそれにしても私あれほど注意していたのに。マツイさん、時間オーバーで強制退出させられちゃうんですもん、心配しましたよっ」
「心配ってそれは俺のセリフだろ。ボウガンを持ったゴブリンとお前を残してダンジョンの外に出されたから心配してたんだぞ。俺がいなくなった後どうなったんだよ?」

「あ~、そのことですか。それならあのゴブリンは私に狙いを定めてボウガンを撃ってきましたよ」
とククリ。

「本当か!? それで、平気だったのか?」
「大丈夫ですよ、私は精霊なので死という概念はありませんから。えっへん」
と説明になっているのかいないのかククリは自信満々に言い放つ。

「いや、それじゃよくわからないんだけど……」
「あれ? そんなことよりマツイさんちょっと痩せました?」
ククリは俺の周りを飛び回ってじろじろ見ながら言う。

「あ、ああ。そういえば痩せたかもな……最近あまり食べてなかったから」
ククリが心配で食べ物が喉を通らなかったのだが、
「駄目ですよー。ちゃんと食べないと大きくなれませんからね」
人の気も知らないでククリはのんきなことを口にした。

「大丈夫、今日からはちゃんと食べるよ。でも俺よりずっと小さいククリに言われたくはないな」
「え~、どういうことですかそれっ? 私これでも精霊の中では大きい方なんですからねっ」
三十センチくらいの精霊は可愛らしく頬を膨らませる。

「ははっ、そうなのか。悪い悪い」
なんにしてもククリが無事でよかった。
俺はころころと変わるククリの表情を眺めながら心底そう思った。


「あっそうだ!」
俺はあることに思い至る。

「なんですか急に?」
「俺ダンジョンの外に強制的に出されただろ、レベルはどうなってるんだ?」
ククリのことが気がかりでそこまで考えが及んでいなかった。

確かあの時の俺はレベルが12まで上がっていたはずだ。
強制退出させられたらレベルはどうなるのだろう?
……もしもリセットされていたりしたらかなり落ち込むぞ。

「だったら早くステータスを確認してみればいいじゃないですか」
「そ、そうなんだが……ちょっと怖いな」

そう言いつつ俺はおそるおそる右目の下を押してステータス画面を浮かび上がらせた。


*************************************

マツイ:レベル12

生命力:38/38
魔力:10/10
攻撃力:18
防御力:15
素早さ:14

スキル:魔眼
魔法:バトルマッチ、ヒール

*************************************


「おおっ!」
幸いなことにレベルは上がったままだった。

「大丈夫だったでしょう。強制退出はあくまで所持品がなくなるだけですよ」
「そうだったのか。安心したよ」
ついでに生命力と魔力も全回復している。一週間休んでいただけのことはあるな。

「じゃあそろそろ行きましょうか。この階層のアイテムを拾ったらさっさと地下二階層に行ってその次はいよいよ地下三階層ですよっ」
「そうだな」
「駄目ですマツイさん、久しぶりなんですから元気よくいきましょう。おー! ですよ、おー!」
ククリは威勢よく手を振り上げながら俺にウインクをする。
俺にやれってことか……。

「お、おー!」
「恥ずかしがらないでもっと元気よくっ」
「おー!」
「ではダンジョン探索にしゅっぱーつ!」
「おーっ!」

俺は腹の底から声を出すと晴れやかな気持ちで一週間ぶりのダンジョン探索を開始した。
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