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第33話 天使の靴

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地下一階層はスライムしか出てこない。
レベル12の俺はダンジョン探索のかたわら襲ってくるスライムをばったばったと倒していった。
途中宝箱をみつけ手に入れたのは生命力を少しだけ回復させる効果のある薬草と魔力を少しだけ回復させる効果のある魔力草だった。

俺は全裸なので仕方なくそれらを手で持つと再びダンジョン探索を続ける。

「もう地下一階層は余裕ですね、マツイさん」
ククリが俺の顔くらいの高さを背中の羽を器用に動かして飛んでいる。

「まあな。相手がスライムだからな」
武器がないからといってスライム相手に負ける俺ではない。
既に俺の体つきはそこらの二十六歳のそれではなくアスリートのようにたくましくなっている。
これもレベルアップによるものだ。

「あ、またスライムですよっ」
「おう、任せろ」
俺は駆けだすとサッカーの要領でスライムを蹴飛ばした。

突き当たりの石壁にばちんっと激突して落下する。
泡状になって消滅するスライムを見ていると、
「あっ、宝箱!」
ククリが声を上げた。

目の前にはククリの言う通り宝箱が出現した。
今倒したスライムのドロップアイテムだ。

俺は魔眼の透視能力で宝箱の中身を確認してみる。
すると中には靴らしきものが入っているのが見えた。

「なんだろ、これ……」
罠ではなさそうなので宝箱を開けると、
「わあ、可愛いです~」
そこには外側に天使の翼のようなものがついた白い靴が入っていた。

「なんだこれ?」
「マツイさん待望の靴ですよ」
ククリが言うが、
「いや、それはわかってるんだが普通の靴じゃないんだろどうせ」
見た目からして普通じゃない。

「それは防御力+2の天使の靴です。それを履くと少しだけ飛ぶことが出来ます」
「マジで!? 空飛べるの俺? ククリみたいに?」
だとしたらそれは素直に嬉しい。
裸足じゃなくなるばかりか飛べるようになるなんて。

「……これ、ダンジョンの外に持って帰ってもいいかな?」
俺は宝箱の中の天使の靴を指差しながら駄目もとで訊いてみた。

すると、
「別にいいですよ」
ククリはあっさりとこれを承諾してくれる。

「えっ、いいのっ?」
「アイテムを売ろうと持ち帰ろうとマツイさんの自由ですから」
とククリ。

マジか。こんなもの持ち帰ったら毎日でも空飛んじゃうなぁ。
でも目立つから飛ぶとしたら夜かなぁ。
なんて考えを巡らせていると、
「早く履いてみてくださいよっ」
「お、おう」
ククリに促され俺は天使の靴を手に取った。

持った感じかなり軽い。
まるで何も持っていないようだ。

俺はそれらを両方の足に履いてみた。
その途端靴がふわっと浮かび上がる。

「おお!」
俺は思わず声を漏らした。が驚いたのはそこまでで、
「……あれ?」
靴は石畳からわずか一センチほど浮いただけでとまってしまった。

「ククリ、これどうなってるんだ?」
「どうって何がですか?」
何を訊かれているのかわからない様子で訊き返してくる。

「いやこれ以上飛ばないんだけど……」
「そうですよ」
当然のように返すククリ。

「え?」
「だから言ったじゃないですか、少しだけ飛べるって。天使の靴は地面から一センチだけ飛べるんですよ」
ククリは両手で一センチを表してみせた。

「それって飛ぶっていうより浮かぶって言った方が正しくないか」
「そうですか?」

なんか……微妙だ。俺が思い描いていたのとは違った。
もっとこう大空を自由に飛び回れる感じを想像していたのだがこれでは……。

「……やっぱりこれは持って帰らなくてもいいかな」

俺は全裸に靴という変態チックな恰好のまま探索を再開した。
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