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第57話 金塊

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「マツイさん、見てわからないんですか? これ」

眉を寄せたククリは宝箱の中の金色の物体に手を差し向けながら口にする。

「だからなんだよこれ?」
金色の鈍い光を纏った見たこともない物体を前に俺はククリに訊ねた。

「もうっまだわからないんですか。これは金塊ですよ金塊っ。金の塊っ。すっごく高いんですからねっ」
「え……これ金塊なのか?」
「そうですよ。見てわからないなんて、まったくもう」
「いや、だって金塊なんて見たことないし……そうか、これ金塊なのか」
へー……いくらくらいするんだろうなこれ。

「あ~あ、てっきりマツイさんならこれを見て鼻水垂らして泣いて喜ぶと思って期待していたのに……」
口をとがらせ残念がるククリ。

「お前俺をなんだと思ってるんだ」
鼻水垂らしてって……俺はニートだが姉二人から援助してもらっているからそこまでお金に不自由はしていないぞ。
誇れることではないから口には出さないが。

「もっと喜んでほしかったです。これをベアさんに売ったら百万円なのに」
「え……ひゃ、百万円っ!?」
「そうですよ、まあマツイさんのいる実社会に持っていけばそれよりもっと――」
「ククリっ、これ本当に百万円で売れるのかっ? 嘘じゃないだろうなっ」
「嘘じゃないですよ。疑うならベアさんをみつけて実際に買い取ってもらえばいいじゃないですか」
ククリはさっきまでのニヤニヤ顔から一転面倒くさそうに俺の相手をする。

「ああ、そうするよっ」
俺は宝箱の中の金塊を持ち上げると――
「って重いなこれ!」
「当たり前です。金塊ですから」
五十キロはあるだろうか、
「よいしょっと……」
布の袋の中に金塊を入れた。まずい、今にも布の袋が破れそうだ。


そうして俺は重い足取りとは裏腹に心弾ませながらフロア中をベアさんを探して歩き回った。途中遭遇したビーたちは一体残らず始末して。
重い金塊を背負いながらのモンスターとの戦闘はさながらバトル漫画の猛特訓のようで少しだけだが胸の高鳴りを感じた。


フロア中を探索した結果ベアさんは結局みつからず代わりと言ってはなんだが宝箱を三つみつけた。
中にはそれぞれ薬草、毒消し草、皮の袋が入っていた。
布の袋が破れかかっていたため金塊とにおい袋と薬草と毒消し草をより丈夫な皮の袋に移し替える。


もういっそのことこの金塊を持ち帰って直接宝石店に売れないかなぁ、でもどこで手に入れたか訊かれたらどうしようか。などと仕方のないことを考えていると、
「マツイさん、そろそろ地下四階層に来てから一時間が経過しますよ」
ククリが忠告してくれた。

「このフロアのアイテムはすべて取りつくしましたし、一旦上の階層に戻りますか?」
「そうだな」


この後地下三階層に戻った俺はすぐさま地下四階層に引き返すとベアさん探しとレベル上げを並行して行うためにおい袋を開けると金塊の重さと蜂の恐怖に耐えながらフロアを練り歩いた。

そしてベアさんがみつからぬまま二十四時間が経過した時だった。

【ビーコレクターを取得しました】

俺は期せずしてスキル、ビーコレクターを手にしたのだった。
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