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第218話 高木さんの事情

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 「え……業務上横領罪……?」

翌朝スマホの着信音で飛び起きた俺が電話に出ると高木さんの母と名乗る年配の女性が電話口でその単語を口にしたのだった。

「高木さんが……逮捕されたんですか……?」
『はい。すべてわたしのせいなのです。わたしが、わたしが体が弱いばっかりに……ううぅ……』
高木さんのお母さんは嗚咽交じりにもらす。
『……あの子はわたしの手術代を稼ぐために必死になって働いて……うう……それでも足りなくて人様のお金に手を……』


高木さんのお母さんが言うには高木さんのお母さんは珍しい病気でずっと入退院を繰り返していたのだそうだがつい最近になってその道の有名な権威である外国のドクターに手術をしてもらえることになったという。
しかし手術代三百万円がどうしても工面できず高木さんは職場でお客さんのお金に手を出してしまったのだそうだ。

高木さんのお父さんは既に他界しているそうで母娘二人だけの家族らしい。
高木さんのお母さんは今は手術のおかげで病気は無事治り、つばきホームという施設にいるという。
そこの職員さんにポチは預かってもらえているようだった。

「……そうだったんですか」
『あの子は今は検察で勾留されているようなのですが起訴されるかどうかは被害者の方に弁済できるかどうかにかかっているようなのです』
「はあ……」
お金を返して示談にということだろうか?

『申し訳ありません。松井さんの大事な愛犬は必ずわたしがお送りしますからもう少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか? 本当に申し訳ありませんがわたしも足が悪くて車いすなものですから……』

「あ、あー大丈夫ですよ。僕がそちらに伺いますから」
『そ、そんなとんでもないです。これ以上ご迷惑をかけるわけには……』
「いえいえ、全然平気ですよ。それより……三百万円あれば弁済できるんですよね?」
『は、はい。そうだと思いますが……』

俺は机の引き出しを覗き込みながら札束に触れていた。
今俺の手元には三百七十万円ある。
ダンジョンで手に入れたお金だ。
ダンジョンの品とともに捨ててしまおうかとも思ったのだが俺の意志は弱くお金は捨てれずじまいになっていた。

「僕これからそちらにいってもいいですか?」

俺はもうこの時既に札束を手に覚悟を決めていた。
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