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第219話 笑顔の初子姉ちゃん

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つばきホームからの帰り道、俺はポチと一緒に歩いて家へと向かっていた。

「もう少しで久しぶりの我が家だぞ、ポチ」
「わんっ」
「そうか、嬉しいか」

俺の手に札束はもうない。
高木さんのお母さんに半ば強引に押し付けてきたからだ。

「高木さんのお母さん、優しそうな人だったな」
「わんわんっ」

もちろん高木さんのお母さんは「こんな大金受け取るわけにはいきません」と突っぱねたがあげるのではなく貸すのだと無理矢理説得し車いすで素早く動けないのをいいことに俺はそうそうにつばきホームから退散してきたという次第だ。

法律のことはよくわからないがあとは弁護士さんなりが間に入ってうまくやってくれることを願おう。


◇ ◇ ◇


ポチと一緒に帰宅した俺を家で待ち構えていた人物がいた。
――初子姉ちゃんだ。

「げ、初子姉ちゃん。な、なんか用?」
「なんか用じゃないわよ。秀喜、あんた今月お金おろしてないでしょ」

俺は初子姉ちゃんと早紀姉ちゃんから毎月五万円ずつお金を振り込んでもらっているのだが確かに今月は手をつけてはいない。
ダンジョンで稼いだお金があったからだが。

「な、なんでわかったの?」
「そんなことはどうでもいいのよっ。それよりなんでお金おろしてないのっ」
「あ、あの俺……」

ダンジョンのことはもちろん言えないから……。
「……働いてるんだ。豆腐工場で」
「えっ、あんた働いてるのっ?」
「うん、まあね。今はバイトだけど社員登用もあるらしいから頑張ってるよ」
「……」
「何その顔?」

初子姉ちゃんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

「あ、ううん。あ~、そうなの。ふーん……いいんじゃない」
初子姉ちゃんはうなずくと少しだけ笑った。
俺は初子姉ちゃんの笑顔らしい笑顔を久しぶりに見た気がした。

そのまま初子姉ちゃんはうちに居座り、「心境の変化でもあった?」とか「彼女でも出来たの?」とかさんざん訊いてきた挙句、昼に出前の特上寿司を三人分とると俺とポチと一緒にそれを食べてから機嫌よく帰っていった。
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