不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
135 / 2,090
剣鬼 闘技祭準備編

ルドリ荒野の異変

しおりを挟む
「……ウォンッ!?」
「にょわぁっ!?」
「きゃっ!?」
「うわ、どうしたウル!?」


会話の最中に唐突にウルが立ち止まり、そのせいで馬車が大きく揺れて中で寝ていた他の人間も目を覚ます。唐突に立ち止まったウルにレナは視線を向けると、彼は警戒するようにうなり声をあげ、その直後にハンゾウも何かに気付いたように馬車から飛び降りる。


「こ、この反応は……何か近づいてくるでござる!!」
「何かってなんだよ!?」
「そこまでは分からないでござるが、嫌な予感が止まらないでござる!!」


彼女の気配感知の技能スキルの範囲は広く、ウルも事前に近づいてくる存在に気づいたらしく、牙を剥き出しにしながら周囲を警戒する。後方の荷車に乗り込んでいたゴンゾウも棍棒を片手に地面に降り立ち、他の人間も慌てて続く。


「て、敵が現れたの!?何処にいるの!?」
「ぷるぷるっ……!!」
「まずは落ち着きなさい!!それは貴方の槍じゃなくてスラミン君よ!!」


寝ぼけた状態のミナが自分の槍と間違えてスラミンを掴んで筒状になるまで引き延ばしてしまい、シズネが呆れながら彼女に槍を渡す。ちなみに現在のミナが使用しているのは父親の形見の槍であり、元々彼女が使用していた槍は結局は見つからなかった。


「……眠い、早く終わらせて」
「よ、夜なら僕の影魔法の真価を発揮できるからな……どんな相手だろうと拘束してやる!!」
「頼もしいわね。だけど、この荒野に生息する魔物は限られているわよ……」


シズネは接近する魔物の心当たりを思い出したのか冷や汗を流し、レナも初めてルドリ荒野に訪れた時に彼女から聞いた話を思い出し、嫌な予感を抱く。そして彼の予感は数秒後に現実となり、地響きを鳴らしながら地中から巨大な生物の顔面が出現した。



―ーオァアアアアッ……!!



最初に姿を現したのは巨大な「竜」の頭であり、地面を割って巨大な生物が出現した。その姿は竜と亀が組み合わさったような外見をしており、全身が岩人形のように岩石の外殻で覆われ、更に背中には亀の甲羅を想像させる岩山の突起が存在し、四肢は短く特徴的な大きな顎な魔物がレナ達の前に姿を現す。


「ど、どど、土竜だぁあああっ!?」
「こいつが……!?」
「声を抑えなさい!!土竜は視覚よりも聴覚に敏感なのよ!!」


ダインの悲鳴が荒野に響き渡り、他の人間も体長が7、8メートルは存在する生物に視線を奪われ、シズネが警告する。初めて土竜を見たレナは腐敗竜や白竜と比べれば小柄ではあるが、その威圧感は並の魔物の比ではなく、油断できない相手と判断して退魔刀と反鏡剣を引く抜く。


「ガアアッ!!」
「オアアッ!!」


巨狼化したウルが威嚇するように鳴き声を上げると、土竜も負けずに咆哮を放つ。その光景に怪獣映画を見ているような気分に陥りながらもレナは「現界強化」で身体能力を高め、他の人間も戦闘態勢に入ろうとするが、シズネが予想外の言葉を伝える。


「こいつは土竜の子供よ!!きっと近くに親がいるはずだわ!!」
「子供!?この大きさで!?」
「親はもっとでかいわ!!親が現れたら全員殺されるわよ!!」
「じゃ、じゃあ逃げるしかないのか!?」
「それも無理よ!!土竜は子供でも獲物と定めたら絶対に諦めずに追跡してくるわ!!だから時間を掛けずに倒すしかないの!!」
「そんな無茶な……!?」


土竜の親が出現する前に子供を仕留めなければ生き残る手段はなく、レナは剣を構えながらも土竜に視線を向け、子供でも現在のウルの2倍近くの体長の相手にどのように対処するのか悩む。そのため、彼はアイリスに土竜の詳しい生態と弱点を教わるために彼女と交信した。


『アイリス』
『ふぁあっ……なんですかこんな時間に、寝不足はお肌に悪いんですよ』
『お前、自分は寝なくても平気な存在だと言ってたやん!!』
『ちょっと例の商人さんの口調が移ってません?それはともかく、とんでもない相手と対峙していますね』


レナの相手が土竜と気付いたアイリスは真剣な口調に代わり、流石の彼女も今回はふざけている場合ではないと判断したのか、レナが求める情報を伝える。


『土竜は竜種の中でも力と硬さに特化した竜種です。白竜のように「竜の吐息」は行えませんけど、全身が岩人形のように特殊な岩石の外殻で構成されているので物理攻撃で破壊するのは困難な相手です。だけど、この外殻は水や氷に弱いです。だから大量の水を浴びせるか、あるいは水属性の魔法で外殻を破壊して中身に攻撃を仕掛けてください』
『水か……』
『丁度いい具合にシズネさんの雪月花で相手を凍らせればいいじゃないですか。あの魔剣の真の力を使えば土竜なんて敵じゃないですよ』
『俺の氷装剣じゃダメかな?』
『難しいでしょうね。付与強化の魔法で威力を上昇させればどうにか出来るかも知れませんけど、時間が掛かり過ぎます』


アイリスの助言を聞き入れたレナは交信を遮断し、シズネに雪月花の力を開放するように願うために顔を向けると、既に彼女は魔剣を引き抜いて土竜に向かっていた。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。