不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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剣鬼 闘技祭準備編

冒険都市に帰還

――紆余曲折を経て遂に狼車は夜明けを迎える前に都市に到着し、今日はレナの家に全員が泊まることになった。理由としては闘技祭の開催が間近に迫っている事でどこの宿屋も満員であり、そもそも現在の時間帯では宿屋が開いていない。なので今日のところはレナの家に泊まり、仮眠を取ってからコトミン以外の人間は泊まる場所を探す事にした。


「拙者は一足先に氷雨のギルドに戻ってマリア殿に報告するでござる」
「そっか……分かった。叔母姉さまによろしく言っておいて」
「その呼び方は辞めた方が良いと思うでござるが……それでは、御免!!」
「普通に帰れ」


ハンゾウは報告のためにここで皆と別れ、屋根伝いに移動しながら氷雨のギルドに向かう。彼女を見送った後、レナ達は家の中に入り込み、最初にコトミンが床に倒れこむ。


「ただいま……そしてお休み」
「こら、床で寝るな!!ちゃんと壺の中で寝なさい!!」
「……面倒くさい、運んで」


帰還して早々にコトミンがスラミンを枕にして横たわろうとするが、レナが慌てて抱き上げて部屋の隅に設置してある水が溜まった大きな壺の中に彼女を放り込む。非人道的な行為に思われるかもしれないが、人魚族であるコトミンは水中で過ごす方が身体を休める事が出来るため、スライム達も一緒に放り込む。


「おやすみコトミン」
「んっ……おやすみのちゅうが欲しい」
「はいはい……えっと、ちゅちゅう~!!」
「物真似しろとは言っていない……でも、可愛いから許す」
「ハハッ(某遊園地のマスコットキャラクター)!!の方が良かった?」
「言っている意味がよく分からない」


コトミンは壺の中で身体を丸めて沈み、普通の人間なら溺死するが人魚族は冷たくて清らかな水の中を好み、スライム達も水面を浮かびながら寝息を立てる。一応は生物の類なので睡眠は必要とするらしく、レナは壺の蓋を閉めて皆に視線を向けると既にダインは椅子に座り込んで机に身体を預けたまま動かず、ゴンゾウは庭の方でウルに身体を預けながら暖かな毛皮に覆われて眠っていた。


「う~んっ……あと三日、三日待ってくれよ……」
「夢の中でまで借金取りに追われてるのか」
「ぐううっ……」
「クゥ~ンッ」
「寝かせてあげなよ」


自分の腹部に身体を預ける形で寝息を立てるゴンゾウにウルは困った表情を抱くが、レナが声を掛けてやると仕方がないとばかりに大人しくなり、その一方で残されたミナとシズネはソファの争奪戦を行っていた。


「ちょっと貴方……そこのソファは私が使うのよ」
「駄目だよ……僕、もう限界だから譲ってよぉっ」
「貴方、さっきまで眠っていたでしょう?私の方が疲れてるんだから遠慮しなさいよ」
「中途半端に起きたから眠いんだよう……」


流石のシズネも雪月花の使用で身体に疲労が蓄積されているらしく、ソファで身体を休めようとするが彼女の腰にミナが抱き着き、結局は二人で抱き合う形でソファに倒れこむ。レナとしては片方に自分のベッドを貸すつもりだったが、横になった途端に眠り込んだらしく、結局ベッドは自分が使う事にする。


「久しぶりの我が家だな……あれ、何だこれ?」


誰かが持ってきてくれたのか何時の間にか机の上に手紙が置かれており、差出人の名前が刻まれておらず、不思議に思いながらもレナは開いて中身を確かめる。もしかしたらマリアかナオ、あるいはフェリス辺りからの手紙かと思ったが、中に入っていたのは草木の「葉」と「三日月」が合わさったような文様が刻まれていた。


「何だこれ……うわっ!?」


紋様しか描かれていない用紙にレナは不思議に思うが、無意識に彼が掌を構えると、紋様が消え去る。特に何かレナの方から特別な事をした覚えはないが、紋様が消えた途端に文字が浮かび上がる。


「おお、なんか魔法みたい……あ、魔法か」


自分が魔法が存在する世界に居る事を思い出しながらもレナは表示された文字に視線を向け、その内容を見て首を傾げた。


『今夜、お迎えに参ります』
「なにこれ?」


訳の分からない文章にレナは首を傾げ、誰かの悪戯かと思ったが、それにしては手が込んでおり、不思議に思ったレナはアイリスと交信して手紙の差出人を確かめようとするが、急な眠気に襲われて彼は目を抑える。


「眠い……もういいや、ここで寝よう」


ベッドまで移動するのは無理だと判断し、レナは壁に背中を預けて瞼を閉じる。仮に誰かが訪れてもウルが起こしてくれると信じ、彼は夢の世界へと誘われた――




――次にレナが意識を覚醒したとき、最初に彼に見えたのは「空白」の視界だった。まるで白霧に覆われたような空間であり、地面の感覚もない事にレナは驚く。


「うわ、何だ!?あれ、でもこの場所……何処かで見覚えが……」


目を覚ましたら自分の家ではない事にレナは驚くが、見知らぬ場所に放り込まれた訳ではなく、確かに彼はこの空間に覚えがあった。十数年前、まだ彼が「レナ・バルトロス」として誕生する前に訪れた場所とよく酷似しており、すぐに心当たりが思いついたレナは周囲を見渡す。


「まさかここは!?」
「ふっふっふっ……やっとこっちの世界にまで引き寄せる事が出来るようになりましたよ」


嫌に聞き覚えのある声が後方から聞こえ、レナは振り返るとそこには1人の少女が居た。年齢はシズネやコトミンと大差はなく、恐らくは現実世界で生きていたころのレナと同世代ぐらいの白銀の髪の毛の少女が立っていた。


「まさか……!?」
「やっと私の姿を見せる事が出来ましたね。まあ、姿といっても作りものなんですけど……こうして顔を合わせてちゃんと話すのは初めて会ったとき以来ですね」
「アイリス!?」


少女の声は間違いなくレナが交信を行う度に耳にする「アイリス」の声であり、彼女は笑顔を浮かべながら彼の元に近寄ってきた。



※何気に「37才にして遂に「剣神」の称号を~」も更新しました。
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