不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

剣鬼 闘技祭準備編

夢の世界

「ホネミ……アイリス！！」
「ちょっと！！口調が似てるからって別の人の名前を口走ろうとしましたね！？全くもうっ……」


現れた少女にレナは近寄ろうとすると、浮遊している身体が勝手に動き、アイリスと思われる少女の元に向かう。


「うわっとと……何が起きてるの？」
「ここは私が作り出した疑似空間、分かりやすく言えば夢の世界です。魂の波長が大分合いやすくなったのでレナさんを呼び出したんですよ」
「夢の世界……スタ○ド攻撃か！？」
「違いますよ！！確かに似たような能力ですがっ！！」
「あいてっ」


アイリスがレナの頭を小突き、どうやらこの空間では彼女もレナに触れられるらしく、感覚も存在した。最初は浮いていた身体も固定化し、レナの意思に合わせて自由自在に動けるようになった。


「おお、浮いている。無重力なの？」
「まあ、重力の概念はないですけど、地面を強く想像して普段通りに動きたいと考えればその通りになりますよ」
「普段通り……おおっ」


レナは自分の足元に地面があると強く念じると、確かな感触が足に広がり、普通に立つ。先ほどは見えなかった白色の床が広がっており、足場を確かめるように何度も踏みつける。


「この世界では想像した物ならどんな物でも生み出しますよ。だからこんな風に何もない空間でも……ほら、机と椅子も作り出せます」
「わ、凄い！！」
「料理も用意しますね」


二人の目の前に大きな机と椅子が誕生し、更に机上にはピザと飲み物が誕生する。アイリスが作り出した代物らしく、夢の世界でありながら感覚が存在するため、ピザの香ばしい匂いや熱も感じ取れた。


「美味しそうだな。でも、食べて大丈夫なの？」
「どうぞどうぞ、ここならいくら食べても大丈夫ですよ」
「いただきます！！」


こちらの世界では滅多にありつけない料理なのでレナは嬉しそうにピザを食べ、ジュースを飲みこむ。久しぶりに現実世界の料理を味わい、嬉し気な声を上げる。


「うん、美味しい。でも、どうして俺はこんな所に……まさか死んだ！？死因は寝ている俺の顔にスラミンが乗りかかって窒息死！？」
「そんな情けない死に方は嫌ですね……だからここは夢の世界ですって、私がレナさんを呼び出したんです」
「だけど、何で急に？寂しかったから？」
「まあ、それもありますけどこの世界ならレナさんに負担も掛けずに話あえるからですよ。ほら、ゲームでもして遊びながら話し合いましょう」


アイリスはレナの向かい側の席に座り込み、何処からか携帯ゲーム機を取り出す。現実世界でレナが愛用していたゲーム機であり、画面には彼が中学の頃によく遊んでいたゲームのタイトルが表示されていた。


「あ、懐かしい。これ、よく遊んでたよ」
「時間制限はありますけど、ここならレナさんのどんな望みも叶えられますから楽しんでくださいよ」
「至れり尽くせりだなぁ……」


ゲーム機を片手に二人は遊びながら会話を行い、まさかこのような形でアイリスと対面するとは思わなかったレナは色々と尋ねる。


「ここが夢の世界、という事なら狭間の世界とは別の場所なの？」
「そうですね。別空間である事は間違いありません。ちなみに時間の概念は現実世界と同じなのでレナさんが誰かに起こされたら強制的にこの世界からも放り出されます」
「じゃあ、これから毎日はアイリスと遊べるわけだ」
「いえいえ、今回は上手く波長を掴めましたけど、そう何度も呼び出せませよ。今の感覚だと一週間に一度ぐらいですね」
「そっか……まあ、寝る度に呼び出されていたら疲れるもんな」
「私としては毎日遊んでもいいんですけどね。こうして他の人と遊ぶなんてアイラさん以来ですよ」
「紛らわしいからホネミンと呼んでよ」
「いや、元々はアイラさんが本物のアイラさんなんですけね……ややこしいですけど」


アイリスによるとこの世界に訪れたのはレナを除けばホネミン(アイラ・ハヅキ)だけらしく、他の人間は訪れた事はないという。ホネミンも最初はこの世界に訪れた時は戸惑ったが、レナと同様にすぐに順応して遊びつくしたらしい。


「くそ、久しぶりすぎて操作を忘れた……あ、罠仕掛ける前に爆弾置かないでよ！！」
「大丈夫ですよ。遊んでいる内に思い出しますから……あ、ちょっと！！その猫は私のお供ですよ！？」
「あ、ごめん。死んじゃった……あれ、死んでない？」
「あ～……想像で作り出した物ですからね。無限コンティニューが可能ですし、その気になれば……ほら、勝手にボスを死なせる事も出来ます」
「バグゲーじゃん！！」
「しょうがないじゃないですか！！思った事が現実になっちゃうんですから！！」


プレイヤー側に都合が良すぎるゲーム機を手放し、レナは溜息を吐きながらジュースを飲み干すが、何故かお腹が満たされない事に気付く。ピザもジュースも幾ら食べても飲んでも減る様子はなく、いつまでも机の上には新品の料理と飲物が用意されていた。想像通りの物が作り出せるという言葉を思い出し、レナが念じれば失われた料理も飲物も無限に生み出されるらしく、身体が満腹感に襲われる事もないので何時までも食べ続けられた。